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シリア戦大勝に隠れた病巣。日本はなぜ格下に「撃ち合い」を演じるのか

杉山茂樹スポーツライター

ハリルホジッチはよく喋る。同じ話を繰り返しする癖もある。シリア戦後、開口一番、クチにした言葉は「スペクタクル!」。「美しい夜」「美しい勝利」だとも。

一方で話が進むにつれ、不満足な箇所を口にした。

「攻撃をしている時に、組織をどうオーガナイズするか。ブロックをいかにして維持するか」「ゲームをコントロールできるか。チームとしてのクオリティはそこに出るが、まだそのレベルには達していない」

喜んだり反省したり。この日は、このパターンを繰り返した。満足と不満を同程度、5対5の関係で抱えているような様子だった。8対2で不満が勝るこちらより甘い評価とはいえ、5−0の勝利をそのまま称えるメディアの見出しに比べれば、かなり厳しめだ。

本音はどうだろう。もし4対6、3対7で不満が勝っていたとしても、監督自身はそれを言い出すことができない。監督は当事者。批評家ではない。うまくいかない原因を世間は、監督の指導力不足と捉えるからだ。そうした中でハリルホジッチは、喜んだり反省したり5対5の表情を覗かせた。実際は4対6、3対7なのだろうな、と推測できる。

結果は5−0ながら、内容は撃ち合い。その撃ち合いを制した日本の試合ぶりはハリルホジッチの言うように、ある意味で確かにスペクタクルだった。見せ物として成立していた。だがそのエンタメ性は、A級かB級かと言えば、確実にB級。上等とはいえないハチャメチャな撃ち合いだった。

特にひどかったのは後半だ。前半の後半ぐらいから怪しいムードが立ちこめていたが、1回攻めたら1回攻められる――を繰り返すシーンは、時間の経過とともに増えていった。結果は5−0だが、8対3のような試合。力が劣るシリアに日本はずいぶん殴られた。好んで殴られやすい試合をしたと言うべきである。相手の繰り出すパンチがもう少し強く正確なら、ダウン必至。相手が格上ならボコボコにされていたに違いない。

試合運びがあまりにも粗雑。頭の悪い賢さゼロのサッカー、大人げない稚拙なサッカーを繰り広げた。

「攻撃をしている時に、組織をどうオーガナイズするか。ブロックをいかにして維持するか」

冒頭で述べたハリルホジッチの言葉だが、日本はそれが全くできていなかった。もっと分かりやすく言えば、奪われ方が悪い。場所、タイミングに大きな問題を抱えていた。どうぞカウンターして下さい。そう言わんばかりの奪われ方を繰り返した。

サッカーはマイボールの時にも守備ができるスポーツであり、相手ボールの時にも攻撃ができるスポーツだ。攻めながら守り、守りながら攻める。奪われることを想定しながら攻撃するスポーツであり、奪った瞬間のことを想定しながら守備をするスポーツでもある。

奪われたら大慌て。大量リードしているにもかかわらず、なぜ4対5のような数的不利な状況に陥るカウンターを浴びてしまうのか。

奪われた時のことを想定しながらプレーしていないからである。ボールの運び方、攻撃のルート、選手のポジショニング等が、セオリーから大幅に外れているために起きる現象だが、これはいまに始まった話ではない。ブラジルW杯の敗因そのものだ。コロンビア戦(●1−4)はその典型的な試合。悪い奪われ方がそのまま決定的ピンチにつながった。

長谷部誠主将は、コロンビアに大敗した試合後、「それでも我々は攻撃的サッカーはできた」と胸を張ったが、その攻撃的サッカーは、今日的な攻撃的サッカー(効率的サッカー)ではない。非効率極まりない独自解釈の攻撃的サッカーだ。そこのところを正してくれる監督こそが日本には必要不可欠なのだ。

にもかかわらずハリルホジッチは手をこまねいている。問題を抱えていることを認識しながらも、手を講じることができていない。有効な指導が行なえていない。この現状からいち早く脱しない限り日本は危ない。僕はそう見ている。今のままなら、前回より早い段階で負ける。

これがリオ五輪を目指すU−23チームの病状ならまだ理解できる。経験不足で済まされるが、A代表の場合はそうはいかない。シリア戦でスタメンを飾ったベストメンバーとおぼしき選手の平均年齢は27.6歳。このままのメンバーで2018年W杯本番を迎えれば29歳になる。前回ブラジルW杯の平均が26.7歳なので、これは世界的にも珍しい大ベテランチームになる。海外組の数も少なくない。にもかかわらず、頭の悪い子供じみた非効率的なサッカーをする。本田圭佑、香川真司を中心に。

「俺が俺が」に走りがちなサッカー。チームのためと言いながら、自分が活躍することをいの一番に考えてしまっているように見えるサッカー。選手本位の、監督の指導力を感じさせないサッカー。そう言われても仕方がないものに成り下がっている。

繰り返すが、ハリルホジッチはそのことに気がついている。問題箇所は把握している。それだけに重症だ。気がついていながら、全く改善することができていない。お医者さんとしての能力は低いと言わざるを得ない。

ブラジルW杯から1年9カ月経過したが、進歩なし。その流れで2018年W杯アジア最終予選に向かおうとしている日本の異常さに、もう少し多くの人が気づくべきだと僕は思う。

(集英社 Web Sportiva 3月30日 掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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