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吉野修一郎はスーパースター候補相手に番狂わせなるか 前世界王者が挑戦者決定戦を展望

杉浦大介スポーツライター
Mikey Williams/Top Rank via Getty Images

4月8日 ニュージャージー州ニューアーク

プルデンシャルセンター

WBC世界ライト級挑戦者決定戦

シャクール・スティーブンソン(アメリカ/25歳/19-0, 9KOs)

12回戦

吉野修一郎(三迫/31歳/16-0, 12KOs)

 楽しみなサバイバルマッチのゴングが間近に迫っている。3階級制覇を目指す超技巧派スティーブンソンが、ライト級のアジア最強王者・吉野と激突する。勝った選手は群雄割拠のライト級戦線のメインキャストに浮上するという意味でも見逃せない一戦と言えよう。

 スキル、スピード、ディフェンス技術を武器に、“近未来のパウンド・フォー・パウンド(PFP)キング”とまで目されるようになったスティーブンソンが上手さを見せるのか。馬力、パワー、タフネスに秀でた吉野が番狂わせを可能にするのか。

 前WBO世界スーパーフェザー級王者で、2021年10月にスティーブンソンに10回TKO負けを喫した経験があるジャメル・ヘリング (アメリカ)にこの試合を展望してもらった。現在はESPN系列で解説者も務める37歳の目に、ESPNで全米中継される注目の一戦はどう映っているのか。

吉野は過小評価をされている

 シャクールは特にディフェンス面で飛び抜けたボクサーです。どれだけリングに立っても、彼の頭が後ろに弾き飛ばされるシーンを見ることがほとんどないことからもそれは明白でしょう。

 この試合はWBCライト級のエリミネーターであり、シャクールにとっては5月20日に行われるデビン・ヘイニー(アメリカ)対ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)戦の勝者との対戦への通過点に過ぎないと考えている人は多いのかもしれません。ただ、私は吉野は多くの人が思っているよりもいい選手だと考えており、今戦は好試合になると思っています。

 吉野が日本で行った前の試合(中谷正義(帝拳)戦)を私はESPN+で解説しましたが、彼は本当にいいボクサーだと感じましたし、リスペクトもしています。

 私が世界タイトルを奪った元王者の伊藤雅雪(横浜光)を引退に追いやったのも吉野ですし、中谷戦も素晴らしい試合でした。危険なパワーとスキルを兼備した選手。賢明な形で相手にプレッシャーをかけられるファイターであり、破壊力があるので、シャクールも常に注意深く戦わなければならないでしょう。

 具体的には、シャクールは序盤から距離を取り、吉野にボクシングのレッスンを施そうとするはずです。極めて聡明なボクサーですから、目の前にいる選手が危険だと気付いており、スマートなボクシングを選択するに違いありません。

好ファイトの末、判定勝負が濃厚

 一方、吉野はシャクールに考える時間を与えてはなりません。常に忙しく動き、快適に感じさせてはならないのです。シャクールはフットワークを駆使し、リング全体を使ってくることはわかっているのだから、吉野も余計なことは考えず、とにかく積極的に攻めること。シャクールを相手にチェスマッチを挑んだら、フラストレーションを感じることになるだけでしょうから。

 ここで予想をしておくなら、私はこの試合は判定勝負だと思っています。やはりシャクールが優位と思いますが、吉野はしっかりとした底力を備えた選手ですから、見ていて面白い試合にできると考えています。

2年前にはシャクールと対戦し、吉野が戦った伊藤からタイトルを奪った経験があるヘリング 撮影・杉浦大介
2年前にはシャクールと対戦し、吉野が戦った伊藤からタイトルを奪った経験があるヘリング 撮影・杉浦大介

 今のライト級には本当に凄い選手がたくさん揃っていますね。その中でベストのボクサーを選ぶなら、やはり4冠王者に敬意を表し、ヘイニーを選ばないといけないでしょう。

 ただ、ヘイニー、ロマチェンコ、ジャーボンテイ・デービス(アメリカ)、ライアン・ガルシア(アメリカ)、シャクールと実力のあるボクサーばかりで、フランク・マーティン(アメリカ)のような若手も育ってきています。リーグ戦を行って欲しいくらいで、これから1戦でも多くの直接対決が実現することを私も望んでいますよ。

 シャクールに関して言えば、吉野戦をクリアしたら、その後はやはり4冠王者のヘイニーに挑んで欲しいですね。4月22日のデービス対ガルシア戦の勝者と組ませてももちろん面白いでしょうが、同じトップランク傘下同士だからヘイニー対ロマチェンコの勝者との方が対戦交渉もはるかに容易です。そこでシャクールが勝ち残れば、ヘイニーとの対戦は素晴らしいカードとして話題になるでしょう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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