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米ボクシング界“次の大物”が2022年新鋭賞に 東京五輪銀獲得を振り返る

杉浦大介スポーツライター
Mikey Williams/Top Rank via Getty Images

 ボクシングの本場、アメリカでは2022年の年間MVP(The fighter of the year)、年間最高試合(The fight of the year)といった恒例の年間賞が各メディア媒体から続々と発表され、新鋭賞(The prospect of the year)ではライト級のキーショーン・デービス(アメリカ)が圧倒的な支持を得ている。

 2021年夏、東京五輪のライト級で銀メダリストに輝いた俊才は、プロでもここまで7戦全勝(5KO)。2022年は3勝(2KO)とキャリアを積み、12月には元世界挑戦者のファン・カルロス・ブルゴス(メキシコ)にも判定で完勝した。

 23歳という若さに似ぬ完成度の高いボクシングは魅力たっぷり。ジャレッド・アンダーソン(アメリカ)、ザンダー・ザヤス(プエルトリコ)、フランク・マーティン(アメリカ)、アダム・アジム(英国)といった他の新鋭たちと同等かそれ以上の評価を与える関係者が多い。

 評判のいい“ボーマック”ことブライアン・マッキンタイン・トレーナーの指導を受け、トップランクによってハイスピードで育てられているデービス。2022年は日本とアメリカで熱い日々を過ごした新星は、今年中に世界タイトル挑戦を果たしても驚くべきではない。今回はアメリカのボクシングファンの期待を集めるこの超プロスペクトの独占インタビューをお届けしたい。

 注・インタビューは9月下旬に収録したもの

決して忘れられない東京での日々

――ここまでの自身のプロキャリアをどう振り返りますか?

キーショーン・デービス(以下、KD) : これ以上ないほど、順調に進んできたというのが正直な気持ちです。プロデビューから大舞台を提供され、多くのファンが私のキャリアを追いかけてきてくれました。ここまでは素晴らしいですよ。

――プロとアマチュアの違いはどこに感じますか?

KD : やはりラウンド数が多いことです。おかげでキーショーン・デービスがどういうボクサーであるかを示すチャンスがより豊富にあります。また、アマチュアシステムではなく、プロシステムでの試合の中で、より攻撃的なボクシングが見せられていると感じています。

――プロ転向以降、“次の大物”として常に大きな期待を集めてきました。ここまでは順調ですが、プレッシャーを感じることはありますか?

KD : 私がプレッシャーを感じたのは東京五輪のときだけです。オリンピックは長年の夢を叶える舞台でしたからね。プロではより自分らしく日々を過ごし、自分らしい戦いが見せられていると思っています。

筆者のインタビューに応えるデービス。喋りも上手く、スター性は抜群だ (杉浦大介)
筆者のインタビューに応えるデービス。喋りも上手く、スター性は抜群だ (杉浦大介)

――東京五輪での日々を改めて振り返っていただけますか?

KD : これまでで最高の時間が過ごせたと思っていますよ。世界最高レベルで競い合い、いいパフォーマンスができました。多くの人々が、日本で戦う私の試合を見るために目覚まし時計を合わせてくれたんです。あんな素晴らしい日々をまた経験したいと思うくらい。人生を通じて決して忘れることはないでしょう。

――パンデミック中の東京ではいわゆる“バブル”状態で日々を過ごしたと思いますが、不自由は感じませんでしたか?

KD : オリンピックに出るのは初めてだったので、事前にどういうものかを予測することはできませんでした。もともと競技のために東京に行ったのであり、“バブル”に閉じ込められていると感じたわけでもありません。2週間の期間中、ホテルの部屋と練習、試合会場の往復。これがオリンピックなんだという感じでしたね。

――試合以外で何か印象に残っていることはありますか?

KD : 驚いたのは東京では運転手のいない車に乗り、ボタンを押すだけでその車が目的地まで走っていったことです。あれはクレイジーでした(笑)。あとは選手村の食事はやはり素晴らしかったですよ。

宿敵クルスとプロのリングで再戦も?

――東京からアメリカに戻り、空港で家族と再会したあなたが涙を流すドキュメンタリーの映像を見ました。あのときはどんな気持ちだったのでしょう? 

KD : 多くの感情が渦巻いたのは事実です。やはり幸福感が大きかったですね。ずっと夢見ていたオリンピックで活躍し、空港では多くの人が出迎えてくれました。それらのすべてがまるで夢のように感じられたんです。こうして五輪が終わっても、依然として夢の中にいるんだな、と。また、しばらく家族に会ってなかったので、再会できた喜びも大きかったです。

――東京五輪の決勝で敗れたアンディ・クルス(キューバ)とプロのリングで戦いたいという気持ちは持っていますか?

KD : ラスベガスに滞在しているときに、クルスの友人だというキューバ人から「彼はアメリカに来る。キーショーンに伝えろと言われた」と伝えられたんです。私はその彼に「もうアマチュアのリングじゃない。プロの世界だ。私のテリトリーに入ってくるんだから気をつけろ」とクルスへのメッセージを託しました。

東京五輪決勝ではクルスとハイレベルの攻防を繰り広げ、わずかに及ばず銀メダル獲得
東京五輪決勝ではクルスとハイレベルの攻防を繰り広げ、わずかに及ばず銀メダル獲得写真:ロイター/アフロ

――あなたは若くして完成度の高いボクシングがゆえに注目を集めています。自身の長所の中で最も誇りに思っている部分は?

KD : メンタリティです。精神的な強さゆえに、試合前は何にも悩まされることはありません。自身の身に何か悲劇的なことが起こっていたとしても、ジムに行き、リングに上がり、ボクシングを楽しむことができるという自信があります。その部分は心から誇りに思っています。

――逆に課題はどこにあると思っていますか?

KD : まだまだ向上の必要があるとは思っていますよ。リング上でより多くの経験を積み、快適に感じられるようになること。まだ学んでないことはありますし、前に進めるのを楽しみにしています。

――プロボクサーとしての最終目標は?

KD : 正直に言いますが、私の目標はオリンピックに出場することだけで、プロとしては定めていませんでした。ただ、プロの世界でも素晴らしい活躍ができることはわかっていました。今後は神に導かれるままに進んでいきたいと考えています。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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