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ワイルダー対ルイス戦は実現するか 世界ヘビー級、強打の元王者対決へのシナリオ

杉浦大介スポーツライター
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

9月4日 ロサンジェルス 

クリプト・ドットコム・アリーナ

WBC世界ヘビー級エリミネーター12回戦

元WBAスーパー・IBF・WBO世界ヘビー級王者

アンディ・ルイス Jr. (アメリカ/32歳/32勝(22KO)2敗)

3-0判定(114-111, 113-112, 114-111)

ルイス・オルティス(キューバ/43歳/33勝(28KO)3敗)

 勝負を分けたのはタフネス

 王座復帰を目指すルイスにとって、会心の内容とは言えなかった。

 キューバの実力者オルティスを相手にした約16ヶ月ぶりの一戦で、合計3度のダウンを奪っての判定勝ち。2回に2度、7回に1度訪れたダウンシーンでは、ルイス目当てで集まった大観衆を大いに沸かせた。

 それでも3人のジャッジの採点が僅差だったことは、ダウンを奪った以外の多くのラウンドをオルティスが制していたことを物語る。ひとまわり大きなオルティスのサイズに加え、ルイスはサウスポーとの対戦が初めてだったという点も影響したか、特に中盤以降、”相手を見過ぎて手数が止まる”というルイスの悪癖が顔を覗かせるシーンも頻繁にあった。

 「難しい試合だった。彼が攻勢をしかけてきて、カウンターを打ち込む機会を待っていた。オルティスは強打のウォリアー。(ただ、)ビューティフルなボクシングができたと思う。前に出るだけではないというところが見せられた」

 リング上では胸を張ってそう語ったルイスだったが、その後の会見では久々のリングで錆びつきがあったことも素直に認めていた。

 実際に2人のジャッジは12ラウンド中6ラウンド、1人は同7ラウンドでオルティスが優勢と採点。ダウンがなければ勝敗は逆になりかねなかったのだから、“苦戦”と称されても仕方なかったのだろう。

 ともあれ、今戦でルイスが胸を張っていい部分があるとすれば、最重量級でもハイレベルと思える打たれ強さを誇示したことか。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 端的に言って、ルイス対オルティス戦の勝敗を分けたのはタフネスの差だった。

加齢もあってかすっかり打たれ弱くなった印象のあるオルティスは、1月1日のチャールズ・マーティン(アメリカ)戦でも2度のダウン。今戦でもルイスのパンチを受ける度に膝が揺れ、おかげでペースを掌握するには至らなかった。

 一方、KO率で上回るオルティスの左を頻繁にいい角度で浴びながら、ルイスがバランスを失わなかったことは特筆される。アンソニー・ジョシュア(イギリス)との第1戦、ルイス・アレオーラ(メキシコ)戦ではダウンも喫したメキシコ系アメリカ人だが、KO寸前に追い込まれるほどのダメージを負ったことはない。ここでルイスが標準以上の顎の強さを持っていることを再び示したことで、来春にも実現が予想される次戦が余計に楽しみになるという考え方もできる。

 次はFOXも望むワイルダー戦か

 「デオンテイが10月の試合で勝ったら、私と彼はマネージメントが同じなのだから、アル・ヘイモンが対戦を実現させられる。私はハングリーだ。またチャンピオンになって、メキシコにベルトを持ち帰りたい」

 試合後、リング上でルイス自身のそう話していた通り、近い将来、ルイス対デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)戦へのレールが敷かれる可能性が高い。

 ワイルダーは10月15日、ブルックリンのバークレイズセンターでロバート・ヘレニウス(フィンランド)との復帰戦に臨むことが決定。こちらもWBCエリミネーターと銘打たれた一戦は、ルイス対オルティス戦同様、地上波FOXがPPV放映を予定している。

 Showtimeとパイを分ける形でPBC興行を放送してきたFOXだが、最近はPPV興行しか中継しておらず、遠からずうちのボクシングビジネスからの撤退が確実視されている。それでもワイルダーが10月のヘレニウス戦をクリアすれば、来春にも挙行が予想されるワイルダー対ルイス戦のPPVプラットフォームになることにFOXも依存はないだろう。

Stephanie Trapp/TGB Promotions
Stephanie Trapp/TGB Promotions

 スキル、ディフェンスは拙くとも、一撃必倒の右パンチでタイソン・フューリー(英国)以外のすべての相手を下してきたワイルダー。ぽっちゃり体型と意外なハンドスピードのギャップが魅力のルイス。上記した通り、タフネスを備えたルイスがワイルダーの右を浴びた時、どんな反応を示すかという興味もある。

 黒人、メキシコ系というボクシング界における2つの重要なファンベースの激突となるヘビー級戦。試合内容もスリリングなものが期待できることもあり、ノンタイトル戦としては異例の話題性を帯びる興行になるはずだ。

 その試合の勝者が、フューリー、オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)、ジョシュアといった“別リーグ”の主役たちと絡む流れになれば面白くなる。過去2戦連続KO負けのワイルダーが力を保っているかは定かではないが、それでもここでルイス、ワイルダーのような個性派たちが戦線に戻ってくることで、ヘビー級戦線がより活気付くことは間違いあるまい。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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