Yahoo!ニュース

史上最高級の強打者ワイルダーは力を残しているのか 現地記者が世界ヘビー級戦線を分析

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

10月15日 ブルックリン バークレイズセンター

WBC世界ヘビー級エリミネーター

前WBC王者

デオンテイ・ワイルダー(アメリカ/36歳/42-2-1, 41KOs)

12回戦

ロバート・ヘレニウス(フィンランド/38歳/31-3, 20KOs)

 8月20日、サウジアラビアでWBA、IBF、WBO世界ヘビー級王者オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)がアンソニー・ジョシュア(英国)を返り討ちにしたのを皮切り、世界ヘビー級戦線が再び熱を帯びようとしている。今後、ウシク対WBC王者タイソン・フューリー(英国)という4団体統一戦が実現するかが最大の焦点になるのだろう。

 また、WBC前王者のワイルダーも再起を表明し、10月にコンテンダーのヘレニウスとの復帰戦が決定。30日、ブルックリンでその試合のキックオフ会見が催された(ワイルダー、ヘレニウスという主役の2人はどちらも出席せず、結局はズーム会見になったが)。さらに9月4日、ロサンジェルスではアンディ・ルイス(アメリカ)対ルイス・オルティス(キューバ)という興味深いサバイバル戦も行われる。

 今後、ヘビー級戦線はどうなっていくのか。ワイルダーは復活できるのか。今回はワイルダー対ヘレニウス戦の会見に出席した3人のメディア関係者に、ワイルダーを中心にした3つの質問をぶつけ、近未来の行方を占ってみた。

パネリスト

ダン・カノービオ(ニューヨーク在住で、人気ポッドキャスト「Inside Boxing Live」のホストを務める Twitter : @DanCanobbio)

マーク・エイブラムス(フィラデルフィア在住のボクシング記者、編集人、広報。ボクシングウェブサイト「15rounds.com」を運営する Twitter : @MAbramsboxing)

ハンス・セミストーデ(ニューヨーク在住のボクシング記者。「BoxingScene.com」のライター、「FightHype.com」の通信員を務める Twitter: @themistode)

30日のキックオフ会見はワイルダー、ヘレニウスがともに欠席し、結局ズーム会見になった Henry DeLeon/TGB Promotions
30日のキックオフ会見はワイルダー、ヘレニウスがともに欠席し、結局ズーム会見になった Henry DeLeon/TGB Promotions

1. ワイルダー対ヘレニウス戦はどんな試合になるか

カノービオ : 2人の強打者の対戦だから、今戦が判定に持ち込まれるとは思わない。フューリーとの第3戦の際、ヘレニウスはワイルダーのチーフ・スパーリング・パートナーだった経験もあり、両者は互いを知り抜いている。序盤のワイルダーは強打を打ち込むタイミングを測るだろうが、ヘレニウスは手の内を知っている上に、身長、リーチに恵まれ、アダム・コウナツキ(ポーランド)戦の2試合で示した通りにパンチもあるだけに、簡単な作業にはならないだろう。そんな背景から試合は前半では終わらないとは思うが、最終的にはワイルダーが後半ラウンドにKO勝ちを飾ると見ている。

エイブラムス : テレビ視聴者まで含め、誰もが満足するようなエキサイティングな戦いになるだろう。ワイルダーは言わずと知れた強烈なパンチャーで、ヘレニウスもパワーのある選手。この2人が激突するのだから、激しいバトルの末、前半で決着がつくのではないか。前の試合でKO負けを喫したワイルダーの状態が未知数。ああいった負け方の後、ボクサーは変化するものだ。ただ、ヘレニウスはワイルダーほどのパンチャーとは対戦したことがないことを考慮し、ここではやはりワイルダーの前半KO勝ちを予想しておきたい。

セミストーデ : ワイルダーはしばらくリングから遠ざかっており、どういった状態でこの試合に臨んでくるかを推し量るのが難しい。ヘレニウスはアップ&ダウンの激しいキャリアを積み重ねてきたが、コウナツキ戦の2連勝で好調の波に乗っている。そんな背景から、多くの人が考えている以上に拮抗した戦いになるのではないか。おそらく戦力はワイルダーの55/45くらい。予想は容易ではないが、どちらかを選ぶならやはりワイルダーのKO勝ちかなとは思う。

2021年10月のフューリー戦では3度のダウンを奪われて痛烈なKO負け。ワイルダーがどれだけのコンディションを保っているかがヘレニウス戦の鍵か。
2021年10月のフューリー戦では3度のダウンを奪われて痛烈なKO負け。ワイルダーがどれだけのコンディションを保っているかがヘレニウス戦の鍵か。写真:ロイター/アフロ

2. ワイルダーがヘレニウス戦を無事にクリアした場合、次は誰と戦ってほしいか

カノービオ : ワイルダー対ジョシュア戦をぜひとも実現させて欲しい。2017年頃から熱望されてきた一戦だ。ジョシュアはウシクに連敗したが、第2戦での出来は悪くなく、依然として多くのボクシングファンがワイルダー対ジョシュア戦を望んでいるのだろう。その試合の早期実現が難しいとすれば、今週末のオルティス戦をルイスが勝ち抜いた場合、ワイルダー対ルイス戦も面白いとは思う。ワイルダー、ルイスはともにPBC傘下だから、マッチメイクははるかに容易なはずだ。

エイブラムス : 地上波FOXは今週末のルイス対オルティス戦、10月のワイルダー対ヘレニウス戦をどちらもPPV中継する。オルティスはワイルダーにすでに2度敗れているが、ルイスが勝ち上がってきた場合、ワイルダー対ルイス戦は自然なマッチメイクになる。元王者同士のサバイバルマッチはファンの興味も惹きつけるだろう。一方、オルティスが勝ち上がった場合、ワイルダーとの第3戦にはもはや希求力はない。その際にはジョシュア、ディリアン・ホワイトといった英国勢がワイルダーの次の相手として模索されることになると思う。

セミストーデ : いまだに多くのファンがワイルダー対ジョシュア戦を望んでいるのはわかっているが、そのカードは輝きの大部分を失ってしまった。今でもKO決着は必至で、ビッグビジネスにはなるだろうが、勝者はヘビー級No.3くらいの実力だとすれば、最高級のマッチメイクとはもはや言えない。とはいえ、ワイルダー対ウシク戦は具体化しないだろうから、ワイルダーが英国勢に狙いを定めるのは理に叶う方向性ではある。個人的にはワイルダーはジョシュア戦よりも前に、ホワイトと戦うのがいいのではないかと考えている。

今ではともに無冠になったジョシュア(写真)とワイルダーだが、直接対決を期待する声は依然として鳴り止まない
今ではともに無冠になったジョシュア(写真)とワイルダーだが、直接対決を期待する声は依然として鳴り止まない写真:ロイター/アフロ

3. 9月4日に行われるアンディ・ルイス対ルイス・オルティス戦の予想は

カノービオ : ほとんど50/50の試合だと思う。ルイスはハンドスピードに恵まれ、よりフレッシュだが、ジョシュア、クリス・アレオーラ(アメリカ)戦でダウンを喫したように脆さも備える。オルティスはパワーに恵まれているため、勝機はあるだろう。勝敗予想は難しいが、ここではより多くの力を残しているであろうルイスの後半TKO勝ちを推しておきたい。

エイブラムス : 両者の戦力は50/50に近く、とても興味深い試合だが、私はオルティスの勝利予想の方に傾いている。オルティスが年齢による衰えを見せない限り、KO勝ちを飾るのではないか。

セミストーデ : ルイスが勝つだろう。オルティスには確かな実績があるのは承知の上だが、加齢した今の彼はもはや以前と同じ実力者だとは思えない。敗れたのはワイルダー戦だけとはいえ、前戦のチャールズ・マーティン(アメリカ)戦でもKO勝ちの寸前まで大苦戦を強いられた。もはやトップレベルの力があるとは考え難く、4日の試合ではルイスが残忍なKOを勝ちを収めると見る。

ルイス対オルティス戦は50/50の呼び声高い。ルイス優位の声がやや多いが、エイブラムス氏はオルティス勝利を予想する。 撮影・杉浦大介
ルイス対オルティス戦は50/50の呼び声高い。ルイス優位の声がやや多いが、エイブラムス氏はオルティス勝利を予想する。 撮影・杉浦大介

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事