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「弟が井上尚弥に勝つために必要なこと」 元世界フェザー級王者ラッセルJr.を直撃

杉浦大介スポーツライター
AMANDA WESTCOTT/SHOWTIME

 稀代のスピードスター、元WBC世界フェザー級王者ゲリー・ラッセル Jr.(アメリカ)がマーク・マグサヨ(フィリピン)に番狂わせの判定負けを喫してからもう半年以上が過ぎた。2015年3月以来、長期にわたって守り続けた王座を失ったラッセルはどう過ごしているのか。

 今週末、ブルックリンのリングに上がる実弟ゲリー・アントワン・ラッセルのサポートのため、ニューヨークを訪れている元王者を直撃した。

 前戦で右肩を痛めた34歳のラッセルは、まだ次戦を具体的に考えてはいないという。それよりも、世界戦線に近づいてきたスーパーライト級のゲリー・アントワン(15戦全勝(15KO))、バンタム級のゲリー・アントニオ(19勝(12KO)無敗1無効試合)という2人の弟の将来の方が楽しみな様子だ。

 特にゲリー・アントニオが目標とする世界挑戦に話が及んだ際には、同階級の頂上に君臨する井上尚弥(大橋)の評価、攻略法にも言及してくれた。

王座陥落戦は「私が勝っていた」

――マグサヨ戦からもう6ヶ月以上が経ちましたが、最近はどのように過ごしているのでしょうか?

ゲイリー・ラッセル Jr.(以下、GR) : 右肩の手術を終えて、だいたい3ヶ月が経ったところだ。まだ次の試合に向けて予定を立てたり、準備を進めるといった段階じゃない。フィジカルセラピーを受けて、リハビリを行い、コンディションは整えているよ。

――あなたに勝って新王者になったマグサヨが、初防衛戦でレイ・バルガス(メキシコ)に敗れたことには驚かされましたか?

GR : 驚いていないよ。そもそも私にだって実際には勝ってはいなかった。あの試合は私が勝っていたはずだ。

――いずれマグサヨともう一度戦い、自分の方が上だと証明したいですか?

GR : いや、興味はないね。マグサヨは私とはもう戦いたくないはずだ。彼だって自分が勝ってはいなかったことをわかっている。そう言わないかもしれないが、心の中では私には勝てないと知っているのだろう。

――現時点でのあなたの目標は?

GR : うーん、明確なものはすぐには浮かんでこないな。とにかくまずは自分の肩を万全の状態に戻すこと。今は自分の試合よりも、体調維持と、弟たちのキャリアの方に集中している。

AMANDA WESTCOTT/SHOWTIME
AMANDA WESTCOTT/SHOWTIME

――あなたの王座陥落、トレーナーでもあった父の死と辛いことが続いています。ただ、2人の弟たちも世界タイトルが視界に入るところまで上がってきており、今後が楽しみですね。今週末、元2階級制覇王者ランセス・バルテレミー(キューバ)と対戦するアントワンにはどんな戦いをしてほしいですか?

GR : まずはディフェンス面で規律正しく戦えるところを見せてほしい。10ラウンドをフルに戦うことになるとは思わない。おそらくボディ攻めで弟がバルテレミーを捕まえるだろう。

――練習をサポートしているあなたから見て、アントワンの長所と課題は?

GR : 最大の長所は粘り強く、最後までに積極的に戦えること。それゆえに抜きんでた存在になれると思う。課題を挙げておくと、時にペースをスローダウンさせて、より知的に戦えるようになればなおいいだろう。

――スーパーライト級はハイレベルな階級ですが、ここまで全勝全KOのアントワンはいつタイトル挑戦の準備が整うと思いますか?

GR : もう準備ができているよ。今回の試合に注目してほしい。バルテレミーも捕まえることができれば、次の試合は世界タイトル挑戦でいいと思う。

井上尚弥の強さとは

――一方、バンタム級で戦うアントニオも世界ランキングの上位まで上がってきています。19戦全勝(12KO)1無効試合とこちらも無敗を続けているアントニオの良さは?

GR : アントニオは見た目以上のパンチ力を持っている。ボクシングスタイルから判断するのは難しいかもしれないが、本当にパワーがあるよ。私の意見では、アントニオもまた世界タイトル挑戦の準備が整ったと思う。

――世界バンタム級の4つのタイトルのうち、3つは井上尚弥(大橋)が持っています。ともにバンタム級で戦う限り、やはり標的になると思いますが、井上選手の印象は?

GR : 強い選手だね。本当にいいボクサーだと思う。アントニオももちろん(井上の)強さはわかっているよ。それでいて、挑戦したいと願っている。いずれ実現するだろう。

――あなたも比較的近い階級で高い評価を得た選手ですが、同じボクサーとして井上選手の強さはどこに感じますか?

GR : 井上は本当に強く、パワーは飛び抜けている。彼は自分がパワフルであることを知っている。自分にやり遂げられるのかどうかを疑っている選手と、自分の力を信じている選手の間には大きな違いがある。自分のパワーを知っている選手は、別次元の自信を持っている。井上に勝つには、まずその自信を打ち砕かなければならないだろう。

――それほど強い井上を相手に、アントニオはどう戦うべきだと思いますか?

GR : しっかりセコンドの言うことを聞いて戦わなければいけない。良い試合になると思うけど、アントニオのクリエイティビティが鍵となり、リング・ジェネラルシップゆえに井上を上回れると思う。ただ、私ももう少し、しっかり井上の映像を見ておかなければいけない。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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