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ベテルビエフはなぜスミスに完勝できたか パッキャオを破った元2階級制覇王者が分析

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams/Top Rank

6月18日 ニューヨーク マディソン・スクウェア・ガーデン・シアター

WBC、IBF、WBO世界ライトヘビー級タイトル戦

WBC、IBF王者

アルトゥール・ベテルビエフ(ロシア/37歳/18-0, 18KOs)

TKO2回2分19秒

WBO王者

ジョー・スミス・ジュニア(アメリカ/32歳/28-4, 22KOs)

 ニューヨークのボクシングファンを興奮させたベテルビエフ対スミス戦後、この試合をESPNの解説者としてリングサイドで見たティモシー・ブラッドリーが筆者を含むメディアの質問に答えてくれた。

 デビュー以来全勝全KOのベテルビエフのパワーパンチが炸裂し、アメリカのファン、関係者の間でも反響を呼んだ一戦。現役時代はスーパーライト級、ウェルター級の2階級を制し、マニー・パッキャオ(フィリピン)と通算1勝2敗というライバル関係を築いたブラッドリーの目にこの試合はどう映ったのか。そして、ブラッドリーは近未来に実現が期待されるベテルビエフ対ドミトリー・ビボル(ロシア)戦はどちらが優位と見ているのか。

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Photo By Mikey Williams/Top Rank
Photo By Mikey Williams/Top Rank

 勝負を分けたポイントは経験、技術、距離

 ベテルビエフ対スミス戦の結果は特に驚きではなかった。もう少し長いラウンドの戦いになるかなとは思ったが、想定の範囲内。ボクシングというスポーツではその選手の基盤がとても大事だ。特に技術を適切な形で学んできたボクサーにとって、経験は重要な意味を持つ。

 ベテルビエフはロシア人だから、彼の技術は私たちがアメリカで学ぶテクニックとは少々種類が違う。それでもリング上の戦い方を見れば、スキルの面でスミスを大きく上回っていることは明らかだった。

 サイズで勝るスミスにとって距離を取ることが重要だったが、パンチを浴びた直後に冷静さを失ってしまった。強打を受け、強打で対抗しなければいけないと感じたのだろう。結果として、中間距離での戦いになった。スミスは距離を取るか、接近戦では身体をくっつけてホールドすべきだったのが、ベテルビエフにとって最善の距離に身を置いてしまったというわけだ。

撮影・杉浦大介
撮影・杉浦大介

 スミスはこれまでも強打者と対戦してきたが、17連続KO、今回の勝利で18連続KOを記録するようなパンチャーのパンチを受けたことはなかった。ベテルビエフのパンチはまるでスレッジハンマーで叩くような威力を備えている。初回、ジャブに強烈な右パンチを合わされたその瞬間、ジャブを重視するというスミスのプランは吹き飛んでしまった。

 スミスもパワーはあり、プロでは経験を積んできたが、アマチュアの下地はなく、技術的にはまだ学んでいる最中。テクニックに大きな差があり、ベテルビエフにとって今回の試合はそれほど難しい戦いではなかったはずだ。初回、スミスのパンチをもらうシーンもあったが、そこで目を覚ましたのだろう。ベテルビエフは右パンチでスミスのジャブを無効化すると思っていたが、実際にその通りになった。

ビボルは難しいマッチアップか

 今戦のように、プレッシャーをかけるのが得意なファイター同士の戦いでは、技術に秀でた選手が勝ち残る。だからスミス戦はベテルビエフが優位で、ジョージ・フォアマン対ロン・ライル、マイク・マッカラム対ジュリアン・ジャクソンなどと同様、6ラウンド以降までいかないと思っていた。

 そんなベテルビエフにとってもビボル戦は難しい戦いになるだろう。スミス戦でのベテルビエフはヘッドムーブメントも使っていたが、基本的には高いガードで相手のパンチを受け止めるタイプ。上質なジャブとフットワークを持ったビボルなら、ベテルビエフのバランスを崩せるかもしれない。

 ビボルはジャブを中心に手数が出せるし、サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)戦で証明した通り、タフネスも備えている。ベテルビエフほどのパンチャーを相手にしたら、ビボルはカネロ戦でやっていたようにロープ側に下がるべきではない。リング中央でアウトボクシングを展開し、フットワークを使い、ジャブでベテルビエフの高いガードを叩くべきだ。相手が入って来ようとするところにパンチを打ち込み、フラストレーションを感じさせられるなら、ビボルに勝つチャンスが出てくる。

 ビボル対ベテルビエフはパンチャーとアウトボクサーが対戦する50/50のマッチアップだ。スタイル的にも面白いカードで、あくまで現状での話だが、私はわずかにビボルが有利なんじゃないかと思う。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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