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バルデスはなぜ完敗したのか。シャクール・スティーブンソンの進化を前世界王者が分析

杉浦大介スポーツライター
Mikey Williams / Top Rank

4月30日 ラスベガス  MGMグランドガーデン・アリーナ

WBC、WBO世界スーパーフェザー級王座統一戦

WBO王者

シャクール・スティーブンソン(アメリカ/24歳/18-0, 9KOs)

12回3-0判定(117-110, 118-109 x2)

WBC王者

オスカル・バルデス(メキシコ/31歳/30-1, 23KOs)

 スティーブンソンが無敗のままスーパーフェザー級2団体統一王者にーーー。ラスベガスの聖地MGMグランドに10.102人の大観衆を集めて行われたチャンピオン同士の対戦は、スキル、スピード、ディフェンス技術、若さで勝るスティーブンソンの快勝に終わった。無敗のまま2階級制覇を果たしたバルデスも、元リオ五輪の銀メダリストの技巧に翻弄され続けた。

 試合後、前WBO同級王者で、昨年10月にスティーブンソンに10回TKO負けを喫してタイトルを失ったジャメル・ヘリングにこの試合を分析してもらった。聡明な36歳の前王者の目に、ESPNで全米中継されて話題を呼んだ今回のビッグファイトはどう映ったか。

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ポイントはWBO王者のパワーアップ

 今夜のシャクールのパフォーマンスは“名人芸(masterful)”と呼んでよかったと思います。私は昨年10月に彼と対戦したばかりで、その実力をよくわかっていたので、今回の結果に驚きはありませんでした。

 勝負の鍵はスキル、スピードで勝るシャクールが距離をコントロールし、相手にフラストレーションを感じさせたことです。

 バルデスは望む距離に入れず、武器がなくなり、精神的に追い詰められていきました。メンタル面で追い込んだことで、試合はシャクールにとってラウンドを追うごとに容易なものになっていったんです。

Mikey Williams / Top Rank
Mikey Williams / Top Rank

 シャクールは私と戦った時と比べてもさらに向上したと思います。彼自身、「あの試合が今戦へのいい準備になった」と話していましたね。そうやって私に敬意を払ってくれるのは嬉しいことですし、彼は対戦相手のレベルが上がるにつれて力が引き出され、さらに向上しているように思います。

 具体的には、シャクールはここに来て、パンチのパワーが増していることが大きいですね。まだ“KOアーティスト”とか“強打者”などと呼ばれるレベルではありませんが、相手に警戒されるパンチになってきています。

 そのパンチがカウンターで飛んでくるため、懐に飛び込むことがより難しくなっている。つまり、パワーアップがオフェンスだけでなくディフェンスの助けにもなっているということです。

 バルデスはもっと距離を詰めて攻めるべきと思った人もいたかもしれませんが、シャクールがそれを許さなかったんですよ。

 もともと距離感に優れたシャクールを相手に、強引に突っ込めばカウンターでダメージを浴びる危険が大きくなる。そこでもシャクールのパワーアップが効いてきていますね。そんな背景ゆえに、バルデスはラウンドの終盤であるとか、ごく限られた短時間しかラッシュができなかったというわけです。

 ただ、今戦ではシャクールも少なからず被弾し、実際にこれだけ打たれたのはこれまでで初めてだったんじゃないでしょうか。それはバルデスが相当な実力者であり、最後までサバイブではなく、勝利を目指して戦い続けたから起こったことなのでしょう。そういった意味で、完敗を喫したとはいえ、バルデスも褒められてしかるべきだったと私は思っています。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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