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“レブロン以降”初のプレーオフ進出へ快進撃 キャブズはなぜ短期間に復活できたのか

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ヤングチームが予想外の快進撃

 「躍進の最大の要因はチーム内のケミストリーだ。どれだけタレントが揃っていても、ケミストリーがなければ何もできない。タレント数が少なくても、ケミストリーさえあれば多くを成し遂げられるものなんだ」

 2月12日、フィラデルフィアでの76ers戦前、今季の快進撃の要因を問われたクリーブランド・キャバリアーズ(以下、キャブズ)のJB・ビッカースタッフ・ヘッドコーチ(HC=監督)は誇らしげな表情でそう述べた。

 指揮官として、調和の取れたチームができているという手応えがあるのだろう。この試合を迎えた時点で、キャブズは35勝21敗でイースタン・カンファレンス2位。この日から2戦を落とし、同4位でオールスターブレイクを迎えたが、それでも首位のマイアミ・ヒートまでもわずか2.5ゲーム差に過ぎない。今シーズン開幕前、キャブズのこれほどの躍進は誰も予想できなかった。

 2018年夏、レブロン・ジェームズがクリーブランドを去って以降の3シーズン、キャブズは合計90勝178敗と低迷し、昨季も22勝50敗とどん底。コリン・セクストン、ダリウス・ガーランド、アイザック・オコロといったドラフト1巡目指名選手たちを軸に据えた再建は順調に進んでいるようには見えなかった。

 「そろそろ再建の成果を出したいキャブズはドラフトで評判のいいエバン・モーブリーを指名し、ジャレット・アレンと契約延長、ラウリ・マルッカネンをサイン&トレードで獲得するなど様々な形で動いた。セクストン、ガーランド、オコロといったヤングコアが新戦力とフィットし、ポジティブな方向に足を踏み出せるかどうか」

 開幕前、筆者はダンクシュート誌の今季展望でそんなふうに記したが、予想順位はイースタンの15チーム中13位。今季中に急上昇するとは、到底考えていなかったというのが正直なところだ。ところがーーー。

急成長のガーランドはリーグ最高級の若手PGと目されるようになった
急成長のガーランドはリーグ最高級の若手PGと目されるようになった写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 昨年11月下旬からの12戦中10勝を挙げて勢いに乗ったキャブズは、2022年に入って以降も15勝7敗と好調をキープ。今季のNBAで最大のサプライズチームとなり、レブロン抜きのキャブズとしては、ショーン・ケンプ、ブレビン・ナイトらが中心だった1998年以来のプレーオフ進出はもう確実になっている。

 躍進の要因は堅守とケミストリー

 すべてが順風満帆だったわけではなく、昨季チーム1位の平均24.3得点をマークしたコリン・セクストン、序盤戦でリーダー役になったリッキー・ルビオはともにケガで今季終了となった(ルビオは2月にインディアナ・ペイサーズに放出)。マルッカネンも足首を痛めて現在離脱中。そんな中でも現在の位置にいられる背景に、ディフェンスの向上があるのだろう。

 23歳のジャレット・アレン、20歳のルーキー、エバン・モーブリーという2人の7フッターがゴール周辺を固め、ディフェンシブレイティングはリーグ4位。アレンは5年目にして代役ながらオールスター初出場を決め、将来性が高く評価されるモーブリーは、ここまで平均リバウンド、ブロック、FG成功率はすべてルーキーの中でトップという好成績を叩き出して新人王候補筆頭になった。

 このツインタワーの周囲を、マルッカネン、オコロ、ケビン・ラブといった体格に恵まれた選手が取り囲む。抜群のサイズを誇るキャブズは、簡単には得点を許さないチームになった。

新人王候補筆頭のモーブリーの評価は高く、今後、リーグ最高のディフェンダーとしてNBA に君臨し続けるだろうという声も聞こえてくる
新人王候補筆頭のモーブリーの評価は高く、今後、リーグ最高のディフェンダーとしてNBA に君臨し続けるだろうという声も聞こえてくる写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 オフェンス面では、3年目のダリウス・ガーランドがリーグ屈指のPGに成長したことに千金の価値があった。ガーランドはパサー、シューター、ボールハンドラーとして開花し、リーグ全体で平均19得点&8アシスト以上をマークする5人(あとの4人はルカ・ドンチッチ、ジェームズ・ハーデン 、トレイ・ヤング、デジャンテ・マレー)のうちの1人に含まれるまで躍進。その評価の高さは、オールスターのキャプテンになったレブロン・ジェームズ、ケビン・デュラントがチーム分けの際、“ガーランド争奪戦”を繰り広げたことからも窺い知れる。

ベテランの復調

 こうして印象的なタレントが続々と芽を出したというだけではなく、ビッカースタッフHCの言葉通り、チーム内に良好なケミストリーが生まれなければここまでは来れなかったはずだ。 

 「僕たちのアイデンティティは常にハードにプレーすること、特にディフェンス面で100%の力を出すことだ」 

 アレンのそんな言葉が示す通り、キャブズのゲームを何戦か見れば、ハードワークの姿勢がチーム全体に浸透していることは容易に見て取れる。

 中でも象徴的なのは、2016年の優勝メンバーの1人でありながら、過去数年は再建チームの中で戦意を喪失していたラブが再生したことだ。

 33歳になったラブはやる気を取り戻し、今季は主にベンチ登場で14.3得点、7.3リバウンドと好成績。6マン賞の有力候補になっている。もともと控えの役割を望んでいなかったベテランが、今ではプレーしていない時間帯もベンチで立ち上がり、積極的に声援を送るチームリーダーになったことは特筆されるべきだ。

昨季中は怠慢プレーを批判され、公に謝罪することもあったラブだが、今季は見違えるような活躍
昨季中は怠慢プレーを批判され、公に謝罪することもあったラブだが、今季は見違えるような活躍写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ミネソタ・ティンバーウルブズでアシスタントコーチを務めていた時代からラブと心を通わせ、ここでその力を再び引き出したビッカースタッフHCの指導力も称賛されていい。チーム側もその手腕に感謝し、42歳の指揮官は昨年末に延長契約をゲットしている。

この勢いはどこまで続くのか

 常にスーパースターを中心に動くNBAで、看板選手が去った後に再建を成し遂げるのは簡単なことではない。

 マイケル・ジョーダン、スコッティ・ピッペンの時代が終わった後、シカゴ・ブルズが再びプレーオフのシリーズを勝つまで12年の時間を必要とした。シャキール・オニールが移籍した後、オーランド・マジックがプレーオフシリーズを勝つまで同じく12年。ラリー・バードの引退後、ボストン・セルティックスがプレーオフ第1ラウンドを突破するまでにも10年がかかっている。

 そんな過去の例を振り返れば、レブロンがいなくなってから、わずか4年でキャブズがカンファレンスの上位シードが狙える位置まで戻ってきたことの素晴らしさが伝わってくるはずだ。

 「このチームの選手たちは互いに信頼し合い、何かを成し遂げられると思っている。自分たちの守備力を信じ、オフェンス面でもクリエイトできると考えている」

 ビッカースタッフHCが述べている通りの姿勢でプレーに臨めれば、シーズン終盤も安定した力を発揮していく可能性は高そうだ。

 大混戦の今季のイースタンでならチャンスがあると見たか。キャブズフロントは2月6日、インディアナ・ペイサーズから得点力のあるキャリス・ルバートを獲得して戦力補強した。ここで上層部も勝ちにいく姿勢を見せたことは、選手たちへの良好なメッセージとなるだろう。

 こうして様々なことが良い方向に向かい、キャブズはポストシーズンでも厄介なチームになるかもしれない。だとすれば、サクセスストーリーは始まったばかり。多くのファンを驚かせ、喜ばせてきたフレッシュなチームから、オールスター後もまだまだ目を離すべきではなさそうである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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