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“限界論”を吹き飛ばした元王者サーマンは群雄割拠のウェルター級で次に誰と戦う?

杉浦大介スポーツライター
Ryan Hafey / Premier Boxing Champion

2月5日 ネバダ州ラスベガス

マンダレイベイ・リゾート&カジノ・イベンツセンター

ウェルター級12回戦

元WBAスーパー、WBC世界ウェルター級王者

キース・サーマン(アメリカ/26歳/30勝(22KO)1敗1無効試合)

12回3-0判定(118-110x2, 117-111)

元WBA世界スーパーライト級王者

マリオ・バリオス(アメリカ/26歳/26勝2敗(17KO))

一部の悲観的な予想を吹き飛ばす

 「“One Time”の復活」と言って良かったのだろうかーーー。その真の答えはおそらく次戦以降に持ち越しになるのだろうが、この日の元王者の出来が多くのファン、関係者の予想以上に良かったのは確かではある。

 2019年7月のマニー・パッキャオ(フィリピン)に敗れて以来となるリングで、サーマンは持ち前の身体能力を生かした奔放なボクシングを展開。ひとまわり若いバリオスに様々な角度から勢いのあるパンチを浴びせ、1階級下の前王者だったメキシコ系アメリカ人を寄せ付けなかった。

 「2年半ぶりのカムバック・ファイトでベストを尽くしたつもりだ。(パンチの)タイミングは良かったし、相手を何度かぐらつかせることができた」

 試合後、リング上では満足げにそう語っていたサーマン。実は開始ゴング前まで、現場では驚くほどバリオス優位と見る(疑う?)人が多かった

 初黒星を喫したパッキャオ戦、その一戦前のホセシト・ロペス(アメリカ)戦と2試合連続でやや精彩を欠き、しかもこの4年間でわずか3戦目とブランクがちだったのであればそれも仕方なかったのだろう。

 しかし、序盤から鋭いステップワークとシャープなパンチで魅了した今日の勝利は、とりあえず“限界論”を吹き飛ばすのには十分だった。

 総合的に見て、2016年のショーン・ポーター(アメリカ)戦以降ではベストの内容だったかもしれない。本人も一時はキラーインスティンクトの欠如を認めていたが、今戦後の会見では以前よりピリピリしたものを感じさせ、その姿はまだがむしゃらだった台頭期のサーマンをほのかに思い出させた。

階級エリートたちとどう対峙するか

 もちろんスポーツの内容、結果は相手次第であり、蓋を開けてみれば、今回のバリオスはやや役不足を感じさせたのも事実ではあった。

 いや、ウェルター級転級初戦の26歳は、まだこの階級では経験不足だったと言い換えるべきか。身長は高くても、1階級上で戦うだけの身体の厚みと強さはバリオスには備わっていなかった。これまでの試合で何度もダメージを受け、サーマンの弱点として認識されてきたボディを重点的に攻めなかったことは解せなかった。特に中盤に良いボディブローを打ち込む場面があったにもかかわらず、いったいなぜ継続しなかったのか。

 「サーマンは階級屈指の選手であり、(バリオス戦では)シャープだった。ただ今後、この階級のベストの選手たちと戦って力を示さねばならない」

 リングサイドで今戦を見たWBA世界ウェルター級スーパー王者ヨルデニス・ウガス(キューバ)のそんな言葉も真実を指し示す。

 この日のサーマンの動きは確かに上質だったが、バリオスではなく、一段上のレベルの相手と対峙したときにも同じように戦えるかどうかはわからない。それができると証明するための手段は、依然として群雄割拠のウェルター級の強豪たちと実際にリング上で対峙すること以外にない。

ウェルター級の未来

 しばらく停滞中に感じられたウェルター級はこれからどうなっていくのか。

 4月開催でほぼ決定と目されたWBC、IBF同級王者エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)対ウガスの統一戦はまだ未発表のまま。トップランクとの契約終了後には人気商品になるかと思われたWBO王者テレンス・クロフォード(アメリカ)も、結局はFAになって以降もプロモーター間の争奪戦など勃発せず、明確な方向性は見えてきていない。

 期待の2大プロスペクト、ジャロン・エニス、バージル・オルティス(ともにアメリカ)のステップアップ・ファイトはなかなか具体化せず、エニスは次戦でカスティオ・クレイトン(カナダ)、オルティスはマイケル・マッキンソン(英国)という少々微妙な相手と戦うことになりそう。このように役者は揃いながらもなかなか煮え切らない階級に、リフレッシュして戻ってきたサーマンがどんなアクセントを添えるのかに注目が集まる。

Ryan Hafey / Premier Boxing Champions
Ryan Hafey / Premier Boxing Champions

 「もっとアクティブに戦いたい。キース・サーマンは世界ウェルター級王者に戻る途上にいるんだ」

 バリオス戦後の会見でそう述べた元王者は、クロフォード、エニスらと対戦してボクシングファンを喜ばせてくれるのか。それとも近年の激戦階級の通例にならい、直接対決をのらりくらりと避けるのか。あるいは再び何らかの理由でまたリングから離れてしまうのか・・・・・・。

 近年の流れを思い返すとつい悲観的な予想をしたくなるが、バリオス戦でのサーマンが33歳にして新たな決意を感じさせたのも事実。業界に活気をもたらせる選手であることも改めて示してくれたただけに、今後、よりエキサイティングな流れを作る牽引者になることを楽しみにしておきたいところだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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