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アービング復帰の真意はどこに? 評価が分かれるネッツをベテランスカウトが分析

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今季のブルックリン・ネッツほど評価の難しいチームは珍しい。

 開幕前、多くの関係者から今季の優勝候補筆頭に挙げられ、実際に1月10日のポートランド・トレイルブレイザーズ戦を終えた時点でイースタン・カンファレンス2位。ケビン・デュラント、ジェームズ・ハーデンが中心になったスター軍団は一見すると順当に好位置につけているように見える。

 ただ、ここまで東西カンファレンスで4位以内に入るトップチームにはなんと0勝8敗。強豪相手のあまりの脆さゆえ、その真価に疑問が呈され始めている。

 年明け早々、ワクチン接種を拒否してきたために地元ニューヨークではプレーできないカイリー・アービングを、「アウェイゲーム限定の戦力」として呼び戻した。一時はパートタイムでの出場を拒否しながら、前言を撤回してビッグ3の1人を受け入れたネッツの真意はどこにあったのか。迷走を続けるパワーハウスは今後、どんな方向に向かっていくのか。

 今回、イースタン・カンファレンス某チームのベテランスカウトにネッツの分析を求めた。このスカウトが所属するチーム名は明かせないが、匿名であるがゆえに、ネッツに関しても正直で大胆な意見が聞けるはずだ。

 優勝のチャンスがあるがゆえのアービング復帰

 ネッツがこの段階でアービングを呼び戻す決断をしたことには少々驚かされた。「パートタイムプレーヤーは起用しない」と宣言しておきながら、自ら歩み寄り、結局は選手側の思い通りにしたわけだから。

 ただ、そのようにした理由は理解できる。裏を返せば、ネッツは今季、ファイナル制覇を達成する現実的なチャンスがあると判断したということだ。

 2021〜22シーズンのNBAには“グレート”と呼びえるチームがない。特にイースタン・カンファレンスはそうだ。ここでアービングを復帰させ、陣容を揃えれば、少なくともファイナルには進めると考えたのだろう。

コート外で騒ぎを巻き起こすアービング(背番号11)だが、実力は確かだ
コート外で騒ぎを巻き起こすアービング(背番号11)だが、実力は確かだ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 昨季、ケビン・デュラント、ジェームズ・ハーデン、アービングというビッグ3が揃った際のネッツのオフェンスは、2010年代後半に黄金期を築いたゴールデンステイト・ウォリアーズに次ぎ、私がこれまでに見た中でも2番目に素晴らしいものだった。今季も3人が健康ならば、少なくともオフェンス面では去年と同様の破壊力を帯びるかもしれない。

 得点力でディフェンスの力不足をカバーか

 ネッツのディフェンスは極めて心許ない。ベストプレーヤーたちが加齢していることもあり、守備は今後も不安定なままだろう。ブレイク・グリフィン、ポール・ミルサップが衰えた後で、リバウンド争いでも遅れを取ることは確実だ。ブルース・ブラウン、デアンドレ・ベンブリー、ニック・クラクストンといったサポーティングキャストに毎夜のようにステップアップしてもらう必要がある。このようにディフェンスに穴を抱えているのであれば、アービング復帰後もネッツは“グレートチーム”とは言えない。

 ただ、話は戻るが、イースタンには他にも”グレートチーム”は存在しない。ミルウォーキー・バックスのヤニス・アデトクンボを支えるクリス・ミドルトン、ドリュー・ホリデーはいい選手だが、バックスのビッグ3はウォリアーズ黄金期のステフィン・カリー、クレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンや、ボストン・セルティックスを長期にわたって支えたポール・ピアース、ケビン・ガーネット、レイ・アレンといったトリオに匹敵するとは私は考えていない。

 マイアミ・ヒートには底力はあるが、そこまでの強さは感じない。シカゴ・ブルズの今の勢いがシーズン終盤まで続くかと問われたら疑問が残る。このように決してハイレベルと言えない今季のイースタンなら、アービングを加えたネッツはオフェンスの力で押し切れるかもしれない。

ネッツの最大の難敵は、やはりヤニス・アデトクンボが率いる昨季王者バックスか
ネッツの最大の難敵は、やはりヤニス・アデトクンボが率いる昨季王者バックスか写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 今後に取り組むべきこと

 トレード期限までに、ネッツは守備強化を目論むに違いない。今のネッツにはジャレット・アレンのようなビッグマンが綺麗にフィットするが、昨季、ハーデンを獲得したトレードでアレンをすでにクリーブランド・キャバリアーズに放出してしまった。他に主だった交換要員はいないから、どれくらいの補強ができるかはわからない。

 価値ある交換要員になる可能性があるとすれば、左足首の故障から復帰後のジョー・ハリスくらいだろう。ショーン・マークスGMはサンアントニオ・スパーズに属していた頃からパティ・ミルズとは旧知であり、ミルズの放出は考えられない。正確無比のシュート力を誇るハリスは、すでにスーパースターが所属しているチームの中では大きな武器ではある。それでも有用な選手を手に入れるには、彼のように価値のある見返りを提示しなければならないんだ。

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スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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