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クレイジーなシーズンの渡邊雄太が属するラプターズ、中盤からの逆襲のポイントとは

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

渡邊が新型コロナウイルス感染防止のプロトコル入り

 1月4日、トロント・ラプターズは渡邊雄太がNBAが定める安全衛生プロトコル入りし、同日のサンアントニオ・スパーズ戦を欠場すると発表した。残念ではあるが、ニック・ナースHCによると渡邊は健康に問題がある状態ではないとのこと。まずは元気な身体で一刻も早く戦列に戻ることを願うしかない。

 今後、渡邊が所属するラプターズは、今季のチームの真価が問われる戦いを始めるところだった。1月1日、地元トロントでのニューヨーク・ニックス戦でルーキーのスコッティ・バーンズが故障から復帰。その時点でついにチーム内のほぼすべての主力メンバーが戻ってきた。

 フレッド・バンブリート、パスカル・シアカム、OG・アヌノビー、バーンズ、ギャリー・トレント・ジュニア、プレシャス・アチウワ、ケム・バーチという7人が揃ってゲームに出場するのはニックス戦が今季初めて。パンデミックの最中、欠場者に悩まされているのはラプターズだけではないとはいえ、この状態ではこれまでチームに勢いがなかなか生まれなかったのは仕方なかったのだろう。

 「トップの6、7、8人の力には自信があるし、他の選手たちも向上している。ローテーションの最後の選手たちも、今年は重要な場面でプレーして成長した。一緒にもっと多くの時間をプレーし、リズムとローテーションを確立できれば僕たちに勝機はあるよ」

 ようやくフルメンバーで臨んだ一戦でニックスを120-105で撃破した後、バンブリートの表情が緩んでいたのも理解できる。

チームの層が厚くなり、得点源のバンブリートも今後はより自由にプレーできるはずだ
チームの層が厚くなり、得点源のバンブリートも今後はより自由にプレーできるはずだ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ここに辿り着くまで、ラプターズはクレイジーなシーズンを過ごしてきた。開幕から故障者が多かっただけでなく、合計12人がNBAが定める安全衛生プロトコル入り(注・ニックス戦時点)。中でも12月中旬から後半にかけて、チーム内にクラスターが発生し、プレーできるメンバーが規定の8人に足りず、16日からの4試合中3戦が延期という厳しい状況に陥った。

 26日、クリーブランドでのキャバリアーズ戦の際には、正規のメンバーは渡邊、クリス・ブーシェイ、スビ・ミハイリュク、ダラーノ・バントンという4人のみ。代替選手を4人加えて何とかゲームは行われたものの、その日は45点差という屈辱的な大敗を経験した。人員不足の中でも奮闘した渡邊のさらなる成長といった好材料はあったものの、2019年には初優勝も果たした実力派チームとしては、悔しい前半戦を過ごしてきたことは間違いない。

上昇ムードで迎える2022年

 ただ、キャブズ戦でどん底を経験した後、徐々に選手たちがプロトコル、故障者リストから戻ってきた。2021年も最後のゲームとなった12月31日のクリッパーズ戦、前述した今年最初のゲームのニックス戦と連勝。その後、渡邊とミハイリュクがプロトコル入りしたが、好ムードは変わらない。このままいけば、2022年のラプターズは楽しみなチームになりそうな予感もある。

 スーパースターは不在でも、攻守両面で多才な選手が揃っているのがラプターズの特徴。シアカム、アヌノビー、バーンズ、渡邊などは複数のポジションをこなせるオールラウンダーであり、特にシアカム、バーンズはバンブリートが休む際には代役PGを務められるだけの器用さがある。フルメンバーであればニック・ナースHCには様々な起用法が可能になるはずだ。

 ニックス戦では相手の大黒柱ジュリアス・ランドルが不在とあって、バンブリート、トレント、バーンズ、アヌノビー、シアカムという5人のベストプレーヤーをスタメンに並べるスモールラインナップを敷いた。相手次第でトレントとバーチが入れ替わり、よりトラディッショナルな陣容で臨む日もあるに違いない。

 ベンチメンバーもアチウワ、渡邊、ブーシェイ、ミハイリュク、マラカイ・フリンといった仕事人的な選手たちが続く。今後、このメンバーがどんなチームになっていくかが興味深い。

 「スタメンは柔軟に考えている。ロースター全体が健康なら、対戦相手次第で、毎日が今日(ニックス戦)のようにはならないだろう。ただ、私はこのグループ(ニックス戦のスタメン5人)が私たちにとってベストのディフェンシブチームになることを願っている。今後、機会を重ね、呼吸を合わせ、守備面で仕上げていくのが目標になる」

 ニックス戦後のナースHCの言葉にもある通り、多才さが売りの今季のメンバーは、やはり守備面でどれだけ研ぎ澄まされるかが焦点になるに違いない。

ポイントはケミストリー養成とディフェンス向上

 現在、ディフェンシブ・レイティングでは21位ではあるが、ニックス戦では18ターンオーバーを誘発するなど伸びしろはたっぷり。アヌノビー、シアカムは守備面の軸になるだけの能力と献身的姿勢を備える。プロトコルから復帰後、守備力とハッスルでチームを鼓舞する渡邊の能力が生きるシーンはこれからもあるだろう。

シアカム(背番号43)は攻守の要だ
シアカム(背番号43)は攻守の要だ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 前述通り、様々な不運にも見舞われながら、ここまでのラプターズは16勝17敗という成績で踏ん張ってきた。1月2日のゲーム終了時点でイースタン・カンファレンスの10位だが、プレーイン・トーナメントが免除される6位以内までわずか2.5ゲーム差。今後、層が厚くなったイースタン内でも5位あたりまで浮上することは不可能ではないように思える。

 「個々が向上し、チームとしてもまとまっていければ、僕たちは今季終盤頃には倒すのが難しいチームになっているだろう」

 チームリーダーのバンブリートがそう話す通り、逆境をはねのけたラプターズはこれから上昇気流に乗れるのかどうか。

 まずはコアメンバーのケミストリーとディフェンス面の緊張感に注目。その2つが上質なものになれば、シーズン中盤以降、目の離せないチームになる可能性も十分にありそうだ。

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スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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