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伊藤雅雪から王座奪取して2年、海兵隊出身の世界王者ジャメル・ヘリングが語った今

杉浦大介スポーツライター
Courtesy: D4G Promotions

最新試合では伊藤との試合のスタイルに立ち返って成功

 4月3日、6回TKO勝ちで3度目の防衛を果たしたドバイでのカール・フランプトン(英国)戦では、これまでのベストファイトと呼べる試合ができました。

 実はあの試合前、トレーナーのボーマック(ブライアン・マッキンタイヤ)からは2019年5月の伊藤雅雪(横浜光)とのタイトル戦の時のように仕上げろと言われたんです。そこで伊藤戦の映像を見て、あの試合で自分がどれだけ辛抱強く戦ったかを確認してからトレーニングに励みました。フランプトン戦ではそういった準備と調整が効果を発揮したというわけです。

 フランプトン戦はドバイでの試合になりましたが、異国での戦いというのは特に気にはなりませんでした。リングの中に入ればどこでも同じ。あのタイトル戦は判定になる前に6回KOで決着をつけることができて、本当に様々なことがうまくいった一戦だったと思います。

5、6回にダウンを奪って完勝したフランプトン(左)との試合はヘリングのキャリアのベストファイト Courtesy: D4G Promotions
5、6回にダウンを奪って完勝したフランプトン(左)との試合はヘリングのキャリアのベストファイト Courtesy: D4G Promotions

 今後に関しては、WBO世界スーパーフェザー級暫定王者になったシャクール・スティーブンソン(アメリカ)が私の指名挑戦者ですから、彼との戦いが視界に入っています。12日のジェレミア・ナカティラ(ナミビア)戦でのシャクールはやらなければいけないことをやり、仕事をやり遂げました。

 正直、多くの人々がもっと良い試合を望んでいたのは知っていますが、勝ちは勝ち。シャクールの出来について特に何かを言うつもりはないですが、ただ、彼にもまだ大きな向上の余地があるのは事実でしょう。

 WBC世界スーパーフェザー級王者オスカル・バルデス(メキシコ)との統一戦も選択肢としては素晴らしいですね。今の私はリングマガジンのチャンピオンも目指していて、それらの試合がその目標に私を近づけてくれるとも思っています。

 どういう形になっていくか、今は様子を見ているところ。マネージメント契約を結んでいるMTKグローバルが次戦に向けた話し合いを進めてくれています。次のリング登場は10月頃になりそうです。

テレビ解説、マネージャーの仕事にも挑戦

 私ももう35歳になり、引退後のことを考えることもありますよ。コメンテーターの仕事も好きなので、やっていけたらいいですよね。実は19日、井上尚弥(大橋)対マイケル・ダスマリナス(フィリピン)戦のゲスト解説も務めることになったんです。また、最近はマネージャーとしても若い選手たちを助けていて、これからもこうやって様々なことに取り組んでいきたいと思っています。

 最後にコメンテーターとして井上対ダスマリナス戦の話もしておきますね。井上というとみんながパワーのことばかりを特筆します。彼がすごいパワーを持っているのは事実ですが、さらに素晴らしいボクシングIQも備えています。リング上での頭の良さはまだ過小評価されている印象すらあります。総合力に秀でており、“トータル・パッケージ”という形容が相応しい選手だと思います。

 ダスマリナス戦での井上はただ自分らしく戦えばそれでいいと思っています。何かをやろうとし過ぎる必要なく、持っている力を出せばそれでいい。普通に戦いさえすれば、良い結果が生み出されるでしょう。

 サウスポーのダスマリナスの方は、欲張りすぎずに戦うことでしょうね。井上はカウンターが上手なだけに、ある程度慎重に戦わないと、昨年10月のジェイソン・マロニー(オーストラリア)のようにパンチを合わされてしまいます。常に注意深く戦い、集中力を一時も切らせてはいけません。

 ただ、口で言うのは簡単ですが、井上を相手にそんな戦いをするのが難しいことはもちろんわかっています。ここで予想をしておくと、井上が徐々にペースを掴み、7回頃に強烈なKO勝ちを飾るのではないでしょうか。

WBO世界Sフェザー級王者 ジャメル・ヘリング:35歳。ニューヨーク出身。2019年5月25日、フロリダ州キシミーでWBO世界スーパーフェザー級王者・伊藤雅雪(横浜光)と対戦し、3-0の判定勝ちを収めて王座を獲得。このタイトルを3度防衛し、近い将来のビッグファイトを視界に捉えている。海兵隊出身の世界王者としても注目度は高い。現在はトップランク傘下で、戦績は23勝2敗(11KO)。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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