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2年目・八村塁の「2つの分岐点」をウィザーズ公式レポーター、ザック生馬が振り返る

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ワシントン・ウィザーズの一員としてNBAでの2年目を迎えた八村塁はどんなシーズンを過ごしているのか。3月27日の時点で、37試合に出場して平均13.6得点(FG成功率48.0%、3P 33.7%)、5.9リバウンド、1.5アシスト。開幕前には結膜炎、シーズン途中にはNBAが定める安全衛生プロトコルによって離脱を余儀なくされながら、これだけの数字を残してきたことには価値があるように思える。

 八村の2020~21シーズンをより深く見るため、ウィザーズの日本語公式サイトでレポーターを務めるザック生馬さんに意見を求めた。今季もウィザーズの全戦を間近で眺め、選手たちの言葉に耳を傾けてきたザックさんは、八村がシーズン中に経験した2つのターニングポイントと、成長の助けになっているメンターの存在を指摘してくれた。

3P、ゴール周辺のフィニッシュ力、多才な守備力

 八村選手は昨シーズンも含め、故障、新型コロナウイルスが原因ですでに3回もアンラッキーな離脱を経験してきました。おかげで出場試合数が減り、リズムが狂ってしまうことはあったはず。もちろんパンデミック下ではどの選手も同じ条件ではありますが、NBAに入ったばかりの若手選手が“普通のシーズン”をまだ経験できていないというのは厳しい条件だったに違いありません。しかし、そんな中でも安定した活躍を続けているのはすごいことだと思います。

 平均得点、リバウンドといった表面的な数字は昨季とあまり変わっていませんが、今季はFG試投数が減った上で、平均得点はほぼ同じに保っています。つまり効率が良くなっているということ。3Pシュート、フリースローの1試合あたりの試投数が増えているのも目につきます。

 今シーズンを迎える上で、八村選手には3Pの向上という課題が与えられました。また、これはチーム側から本人に改良点として告げられたかはわかりませんが、レイアップにいったときにブロックされることを減らすため、ゴール下でより力強くフィニッシュすることも求められてきたと思います。

 この2つの課題の中で、まず3Pに関しては試投数を増やした上で、成功率を昨季の28.7%から34%近くまで上げてきました。シューターとしてブレイクしたとか、成功率を40%台に乗せたとか、そういうわけではありませんが、チームの希望通り、昨季より射程距離が伸びていることは間違いありません。

 ゴール下でもスコット・ブルックスHCやブラッドリー・ビール選手に言われた通り、より積極的に攻め、フリースローの試投数は増えているので、その面でも成果は出てきているといえます。このようにチームから求められたものに対して、しっかりとした答えが出せているのは素晴らしいと思います。

ウィザーズの本拠地、キャピタルワン・アリーナでウィザーズ日本語公式サイトのコンテンツ作成に励むザックさん 撮影・杉浦大介
ウィザーズの本拠地、キャピタルワン・アリーナでウィザーズ日本語公式サイトのコンテンツ作成に励むザックさん 撮影・杉浦大介

 ディフェンス面では、昨季は基本的に4(PF)、5番(センター)しかガードしなかった八村選手が、今季は1番(PG)から4番、あるいはスモールラインナップ時の5番まで守ることができています。現時点ですべての試合で常にしっかり守れているというわけではないですが、チーム側から守備面のポテンシャルを認められ、それを開花させるように要求されているということ。実際に最近は毎晩のように相手のスーパースターとマッチアップしています。

 苦しむ日もありますが、ヤニス・アデトクンボやカワイ・レナードが相手でも一定の成果は出してきました。本当によくやっているし、ディフェンス面でも確実に進歩していると思っています。

2月13日と3月12日

 今季を振り返っていくと、八村選手にとってのターニングポイントは2つあったと思います。まずディフェンス面に関しては2月13日の出来事です。

 この日の練習時、ラッセル ・ウェストブルック選手が若いサポーティングキャストたちに「このチームでのおまえの役目はなんだと思う?」と聞いていったんです。そこで八村選手は「僕は1番から5番まで守れます」と答え、以降は実際に守備でより重要な役割を任されるようになりました。

 オフェンスやリバウンドに関しては、3月12日のフィラデルフィア・76ers戦の後が分岐点になりました。ちょうどタフなスケジュールの西海岸遠征を終えたばかりで、疲労があったためか、この76ers戦での八村選手は0リバウンド。ブルックスHCは「今年はスイッチが多いからリバウンド数はそんなに気にしていない」とは言ってはいましたが、76ers戦のあと、さすがに「(八村の)0リバウンドはあり得ない」とインタビューでも3回くらい繰り返していました。

 ブルックスHCは選手にもしっかり自分の言葉で伝える人なので、メディアを通してだけでなく、本人にも「それじゃあ足りないよ」という話はあったと思います。そんな経緯を経て、13日のミルウォーキー・バックス戦での八村選手は奮起し、今季最多の29得点、11リバウンド。以降の7試合(25日のニックス戦まで)では平均18.9得点(FG成功率54.5%、3P 42.9%)、8.6リバウンドと大活躍しています。コーチに注文をつけられた後、すぐに期待に応え、波に乗れたのは大きかったですね。

 今季をトータルで見て、オフェンスの効率が良くなったこと、ディフェンスの多才さを見せていることがここまでの収穫です。プレータイムも特にダビス・ベルターンス選手が故障離脱以降は増えていますし、ビール選手、ウェストブルック選手に次ぐチーム3番目のオプションとして確立してきたと言っていいでしょう。

 昨季はジョン・ウォール選手が不在の中で迎えた再建シーズンだったので、ルーキーの八村選手はとにかくのびのびプレーすればいいという感じでした。今季のウィザーズはプレーオフ進出を目標に掲げ、残念ながらチーム成績は振るわないとはいえ、緊張感のあるゲームの中でも期待に応えるだけのプレーができているのは素晴らしいと思います。

ウェストブルックとは師弟関係?

 八村選手のメディア対応に関しては、もともと1年目から堂々としていたのでそういう意味ではあまり変わってないですね。まだ22歳、しかもこれだけ偉大なベテランに囲まれながら、どっしりしているのはすごいですよ。

 僕が気になっていて、今後、インタビューで掘り下げていきたいと思っているのは、八村選手とウェストブルック選手との関係です。あの2人はすごく仲が良いんです。

 ビール選手はどちらかといえば静かな先輩ですが、ウェストブルック選手はやかましい先輩。初めてそういう先輩ができて、すごく良い存在なんじゃないかなと。八村選手のキャリアの助けになるメンターが見つかったんじゃないかなという気がしています。

 今季はロッカールームに立ち入りできる人数が限られ、オフレコの情報がなく、インタビューでもウェストブルック選手のことばかりに集中しているわけではないですから、まだ聞ききれてないところがあります。この2人の関係は楽しみですし、今後、いろいろと質問していきたいと思っています。

最近はウェストブルック (写真左、背番号4)と八村のコンビプレーで多くの得点を生み出している
最近はウェストブルック (写真左、背番号4)と八村のコンビプレーで多くの得点を生み出している写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 最後にウィザーズのチーム全体に関してですが、今季、何が悔しいかといえば、チームが噛み合うチャンスがないままシーズンが始まってしまったことです。

 パンデミックの影響を受けているのはどのチームも同じですが、ベテランが揃っていて、より継続性のあるチームなら、不規則なシーズンでもそれほど苦しむことはなかったんじゃないかなと。ウィザーズの場合、ウェストブルック選手が加わった後、コロナ禍で練習時間がなかなかなく、チームのケミストリーを養成する余裕がないまま、ほとんどぶっつけ本番で開幕に臨まざるを得ませんでした。

 そんな経緯もあって、いきなり開幕5連敗。しかもシーズン序盤にはリーグが定める安全衛生プロトコルのおかげでメンバーがほとんど揃わない状態で3敗を喫しました。現在の成績を見ると、その8敗が響いているなという感じはありますよね。

 まだプレーインゲームに出場できる10位以内まで4ゲーム差。チャンスがないわけではないですが、もう残り試合数は30戦を切ってきていますし、最初の頃のゲームを落としてしまっていたのはやはり悔しいなと思います。

 2月中旬〜下旬には主にウェスタン・カンファレンスの強豪を相手に7勝1敗なんて時期もありました。それができたということは、それだけのポテンシャルはあるということ。ただ、その力を安定して発揮できていません。

 今後に巻き返せればそれに越したことはないですし、やっぱりプレーインゲームに進んで欲しいので、それを目標に最後まで戦って欲しいと願っています。その中で、48分間にわたってしっかりディフェンスするゲームを増やしていって欲しい。最終的にプレーインゲームへの出場が叶わなかったとしても、ディフェンス意識を高め、勝ち癖をつけ、来季につながるゲームをしていって欲しいと思っています。

チームを勝ちに導ける選手になることも八村の課題だ
チームを勝ちに導ける選手になることも八村の課題だ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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