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「ヒール化」が進むゴロフキンが圧勝KO劇 次の相手はカネロ? 村田諒太?

杉浦大介スポーツライター
Photo Ed Mulholland/Matchroom Boxing USA

12月18日 フロリダ州ハリウッド 

IBF世界ミドル級タイトル戦

ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/38歳/41勝(36KO)1敗1分)

7回終了TKO

カミル・シェルメタ(ポーランド/31歳/21勝(5KO)1敗)

4度のダウンを奪っての圧勝劇

 まずは予定通りのKO勝利と言えたのだろう。

 約14ヶ月振りのリングに立ったゴロフキンは1、2、4、7回に合計4度のダウンを奪っての圧勝。IBFが気まぐれに(?)押し付けてくる典型的な“実績不足の指名挑戦者”だったシェルメタを寄せ付けず、昨年10月に取り返したIBFタイトルの初防衛(ミドル級では通算21度目)に成功した。

 この日のゴロフキンは得意の強烈なパワージャブ、硬い左右フック、狙いすましたアッパーを有効に使った。コンビを組んで3戦目のジョナサン・バンクス・トレーナーともケミストリーが生まれ始めたと喧伝され、実際にジャブへの依存度が高まっていた最近のファイトよりもコンビネーションはスムーズ。強打者振りを存分に発揮した戦いぶりは、現地でも概ね好評ではあった。

 ただ、一線級相手の勝ち星は皆無のシェルメタは、はるかに格下だったという事実はやはり無視できまい。相手次第で戦い方も見栄えも大きく変わるのがボクシング。力が劣る選手との対戦ながら、「6、7回は疲れが見えていた」「数年前ならもっと早くフィニッシュできていた」といったゴロフキンへの指摘も単なる粗探しとは思わない。

 38歳となった“GGG”には依然として一定以上の力があり、やるべきことをやって先に進んだのは評価されてしかるべき。それと同時に、現時点でもエリートレベルの強さを保っているのかどうかの証明は次戦以降に委ねられたのだろう。

 プロモーションが盛り上がりに欠けた理由は

 グローバルプランを推し進めるスポーツ動画配信サービスDAZNは、12月12日〜19日という短い期間にイギリス、メキシコ、カザフスタンの人気者を軸に据えた3つの注目カードを用意した。

 今戦はアンソニー・ジョシュア(イギリス)対クブラト・プーレフ(ブルガリア)、カラム・スミス(イギリス)対サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)の間に挟まれた形。シェルメタの知名度不足を考えれば仕方ないが、ビッグネームが続々と登場する8日間では最も注目度の低いイベントになったことは否定できない。加入者100万人に届かぬままパンデミック中に苦境に陥ったDAZN USAのプロモーション不足もあって、ファイトウィークに入っても興行の前景気は盛り上がらなかった。

 ゴロフキン自身の非協力的な姿勢も助けにはならなかった。サンアントニオで開催されるスミス対カネロ戦の前日に同地で戦えば豪華な2日間になったはずが、ゴロフキンは同じ街での興行で“前座扱い”になることを拒否。おかげでシェルメタ戦はフロリダでの無観客イベントとなり、メディアもほとんど姿を見せなかった。

 14日のリモート会見は、「カネロに関する質問はしないように」と事前に条件をつけた上での開催。一部の大手メディアからの取材依頼は拒絶したといった話も聞こえてくる。また、カムバックを志す47歳のオスカー・デラホーヤが「ゴロフキンはイージーな相手だ」とコメントしたのに対し、「彼が何と言おうと構わないが、(試合で)合法的に人を殺せる機会があるのならやるかもしれない」などと物騒な発言を返したこともニュースになった。

 豪快な試合と爽やかな笑顔でアメリカでもセンセーションになったGGGだが、最近はボクシングの政治的な部分にうんざりしているという話も聞こえてくる。今週は実際にそれが如実に表れているかのようなエピソードが相次いだ。

”理想的なBサイド”の次の標的は

 かつての“グッドボーイ”は、これまでとは少々違う、ダークサイドから発せられるようなオーラを醸し出している印象がある。そして、実力が伴った”ヒール”には商品価値があるのがこの業界。今回のように断然の“Aサイド”としては厳しいが、興行的な“Bサイド”としては依然としてほぼ理想的な存在でもある。そんな背景から、ゴロフキンが次戦で誰と対戦するかは今後も注目され続けるだろう。

 様々な選択肢はあるが、ここで重要な候補として挙げておくべきはカネロ、ハイメ・ムンギア(メキシコ)、村田諒太(帝拳)の3人か。

 過去1敗1分のカネロとの因縁に関しては、ここでもう詳しく説明するまでもあるまい。DAZNはいまだにこのカードを熱望し、現代最高のライバル対決になら大枚を叩く用意はある。そんな事情もあり、カネロがスーパーミドル級に主戦場を移し、賞味期限が切れかけた今でもラバーマッチ挙行の可能性は常に残る。

 メキシコのスラッガー、ムンギアとの対戦は派手な打撃戦必至のマッチアップ。ムンギアはデラホーヤが率いるゴールデンボーイ・プロモーションズ傘下選手という点も因縁ファイトのスパイスになる。また、村田との日本での対戦もDAZNの希望カードであり、パンデミックの行方次第で遠からず実現してもまったく不思議はない。

 2021年中にこれらの3試合のうちいずれかが成立すれば面白い。そのときには、今回のシェルメタ戦でははっきりとは見えなかったゴロフキンの現在地がおそらく明かされるのだろう。それと同時に、ここに来て”ヒール化”が進むカザフスタンの雄が、ビッグイベントのプロモーション期間中にどんな姿を見せるかが今から興味深くもある。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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