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ベテルビエフ、グボジアク、コバレフ、ビボル、カネロが次々と大舞台に登場 〜加熱するライトヘビー級戦線

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams / Top Rank

10月18日

フィラデルフィア リアコーラスセンター

WBC、IBF世界ライトヘビー級王座統一戦

IBF王者

アルトゥール・ベテルビエフ(ロシア/34歳/15戦全勝(15KO))

10回TKO

WBC王者

オレクサンダー・グボジアク(ウクライナ/32歳/17勝(14KO)1敗)

ライトヘビー級の秋

 少々地味ながら実力者が揃うライトヘビー級が今秋、にわかに加熱しつつある。 

 まずは10月12日、シカゴでWBA同級王者のディミトリー・ビボル(ロシア)がレニン・カスティーヨ(ドミニカ共和国)からダウンを奪って判定勝ち。ビボルは7度目の防衛に成功し、戦績を17戦全勝(11KO)に伸ばしている。

 続いて10月18日にはフィラデルフィアでWBC、IBFの王座統一戦が行われ、ベテルビエフがグボジアクに破壊的な10回TKO勝利。さらに今週末にはラスベガスで3階級制覇王者サウル・アルバレス(メキシコ)がWBO王者セルゲイ・コバレフ(ロシア)に挑戦し、同級のシリーズはクライマックスを迎える。

 旧ソ連系選手の売り出しの難しさは、業界ではよく知られるところ。それでも同階級の強豪王者たちが短期間に相次いでリング登場することで、そのレベルの高さと魅力を少なからずアピールできているはずだ。

 中でもWBC、IBF統一戦でのベテルビエフの勝ち方のインパクトは大きかった。戦前は50/50かグボアジアクやや優位とみられた一戦で、10回に3度のダウンを奪っての完勝。この日まで2度の防衛を果たしながらも依然としてミステリアスな存在だったロシア人は、ESPN全米中継の舞台で、破格のパワーだけでなく、上質なフットワーク、接近戦の上手さ、アングルを変えたパンチといった数多くの長所を披露してくれた。

 スタミナ、タフネスも抜群なため、この選手を36分にわたって空回りさせるのは並大抵のことではない。実はジャッジの採点では9回まではグボジアクがややリードしていたのだが、中盤以降の流れを見る限り、ベテルビエフが捕まえるのは必然に思えた。

 「これほどのパワーを持ったライトヘビー級選手は見たことがない。グボジアクもよく戦ったが、(あれほどのパンチャーに)打たれたら疲弊してしまうよ」

 ボブ・アラム・プロモーターの大げさな発言はいつも通りだが、この勝ち方の後では誰も一笑には付さないだろう。

 ベテルビエフが2014〜15年にタボリス・クラウド(アメリカ)、ガブリエル・カンピーヨ(スペイン)を完璧な形で下した頃、”新怪物登場か”と騒がれた。その後、エンリコ・コーリング(ドイツ)戦では最終回まで粘られ、カラム・ジョンソン(イギリス)戦ではダウンを喫するなどで、評価もやや停滞。しかし、ここで象徴的な勝利を手にした意味は大きい。

 案の定、ESPN.com、リング誌が選定する最新の階級ランキングでも、ベテルビエフはコバレフを抜いて1位に浮上している。全勝全KOの統一王者は、35歳にして“Must-Watch Fighter(絶対必見の選手)”になっていきそうな予感を確実に感じさせている。

ターゲットはビボルか

 「次の相手が誰だろうと問題じゃない。誰だって構わない。名前ではなく、タイトルに集中している」

 ベテルビエフはグボジアク戦後のリングでそう語り、今後は対立王者たちとの対戦希望を明白に打ち出していた。

 統一戦路線の前にまずはメン・ファンロン(中国)との指名戦をこなさなければいけないが、この相手は大きな問題にならないだろう。来年1月下旬、チャイニーズ・ニューイヤーの期間にでも中国人ファイターを下せば、その後にビッグファイトが視界に入ってくる。

 盛んに報道されている通り、現状で最大のターゲットは同国人のビボルに違いない。 現時点での2人にとって、業界内で話題を呼びそうな3団体統一戦を組むメリットは大きい。ベテルビエフはトップランク、ビボルはマッチルーム・スポーツの所属だが、依然としてアメリカではビッグネームとはいえない同士だけに、プロモーターの違いは大きな障害にはなるまい。

 ビボルはライトヘビー級ではかなり小柄ということもあって、今ならベテルビエフ有利と目されそう。それでもビボルのクイックネスと距離感はグボジアクよりも上で、スタイル的にも面白いマッチメイク。巨大なロシア人コミュニティが存在するシカゴ、ニューヨークなどで挙行すれば、興行的にも成功するだろう。

 懸念があるとすれば、DAZN興行に登場して甘い汁を吸ったビボルがどれだけの条件を要求してくるかという点だ。

 ベテルビエフとグボジアクは今回の統一戦で150万ドルずつのファイトマネーをゲット。ESPN興行が基本線の3団体統一戦でも、ビボルにそれと同等かやや上の額が提示されるに違いない。ただ、DAZNの大型投資のおかげでテビン・ファーマー、ジェシー・バルガス(ともにアメリカ)といったあたりでも大金を受け取っている状況で、ビボルが200〜300万ドルほどを望むとすれば交渉はややこしくなりかねない。

カネロ戦の可能性は

 ベテルビエフが中ブレイクを果たした後、にわかに話題になったのは現役選手としては最大の興行価値を誇るカネロとの絡みだ。

 カネロは今週末のコバレフ戦後にミドル級に下げると公言しているが、いったん175パウンドの身体を作った後で、それが本当に可能なのかを疑う関係者は後を絶たない。特にコバレフ戦を好内容で制した場合、スーパーミドル級だけでなく、ライトヘビー級でのさらなる戦いも視野に入るのだろう。だとすれば、“階級最強”と目されるようになったベテルビエフとの対戦を望む声も出てくるに違いない。

 最近は技術の向上が著しいメキシカンアイドルにとっても、極めて危険な冒険カードである。スーパースター特有の計算ずくの対戦者選びが目につくカネロだが、ベテルビエフ戦を組めばアンチも沈黙する。勝ってしまうようなことがあれば、評価はさらに上がり、一気に“オールタイムグレート”として認められるのではないか。そういった意味で、得られるものは計り知れないほど大きいマッチメイクではある。

 前述通り、ベテルビエフはビッグネームとはいえなくとも、英国では人気王者ではないカラム・スミスもカネロにぶつければ大興行になるのと同じく、アメリカ開催のカネロ対ベテルビエフはファン垂涎のイベントになる。ライトヘビー級の頂上への挑戦は宿敵ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)との対決をも上回り、カネロのキャリアでも最大級の大勝負になるだろう。ただ・・・・・・

 「カネロは馬鹿ではないし、(エディ・)レイノソ(・トレーナー)も同じだ。前の試合で出来が良くなかったコバレフと対戦すれば勝機はあるだろうし、挑む気持ちもわかる。ただ、今回の試合を見たら、どれだけ勇敢だろうと、ベテルビエフと戦おうなんて思うはずがないよ」 

 アラムが傘下以外の選手を語る際のコメントは真実をついていることが多く、今回も同じだ。

 歴史的評価の面では“ハイリターン”の戦いではあっても、リスクはあまりにも大きすぎる。グボジアク戦後の会場で某米メディアが統計を取った際も、アンドレ・ウォード、ティム・ブラッドリーを含むすべての関係者が「カネロ対ベテルビエフは実現しない」と答えたのだという。常識的に考えて、さすがにあり得ないカードか。

 それでも今週末にコバレフに快勝でもすれば、一部のメディアからカネロにベテルビエフ関連の質問も飛ぶに違いない。コバレフに負ける可能性も十分あり、すべては仮定の話。例えそうだとしても、現状でミドル〜ライトヘビー級では最大の難敵に思える選手に関し、プライドが高いカネロがどんな答えを返すかは少々興味深くもある。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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