MLB強豪チームのスカウトはなぜ「ヤンキース田中将大のプレーオフ第2戦までの先発」を予言したか

(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

第1戦からパクストン、田中、セベリーノの順番

 いよいよ“Tanaka Time”が始まるーーー。

 ア・リーグ東地区王者のヤンキースと同中地区王者のツインズで争われている地区シリーズ。その開幕前日(10月3日)、ヤンキースのアーロン・ブーン監督は田中将大が5日に本拠地で行われる第2戦で先発すると発表した。

 「彼が力を発揮してくれれば、どこで投げようと私たちにとって良いマッチアップだということだ」

 ブーンはそう述べたが、少々意外な選考に感じたファンもいたかもしれない。11勝9敗、防御率4.45 という数字が示す通り、今季の田中はアップ&ダウンの激しいシーズンを過ごして来た。

 昨季19勝を挙げたエースのルイス・セベリーノが9月に右肩痛から復帰し、3度のリハビリ登板でも防御率1.50と順調。第1戦では今季後半戦で10連勝をマークした左腕ジェームズ・パクストンを先発させるのは当然として、続く2戦目にはセベリーノを起用しても不思議はないように思えた。

 しかし、チームは田中の底力と経験値に期待したということだろう。ヤンキース入り以降、田中はプレーオフでは5先発で防御率1.50と強さを誇る。また、ツインズとは過去の対戦でも5戦5勝、防御率2.27と相性が良いのも好材料だ。

 今季のツインズはメジャー史上最多の307本塁打を放ってきたが、そんな重量打線相手でも先発2番手を任されたことで、田中に対するチームの信頼感が改めて示されたと言って良い。

世界一奪還を狙う名門で鍵を握る投手

 プレーオフ開始前の9月下旬のこと。メジャー某強豪チームのあるベテランスカウトは、その時点でヤンキースが田中を第2戦までに先発起用すると予言していた。9月13日、トロントでのブルージェイルズ戦で田中が5回4失点と苦しんだ姿を見たが、それでも意見は変わらなかったという。

 「田中ほどの勝負師はなかなかいるものではない。恐れを知らないから、プレッシャーのかかる状況では頼りになるピッチャーだ。ヤンキースは間違いなくプレーオフでも1戦目か2戦目に田中を先発で使ってくるだろう」

 この人物はすでに30年以上に渡ってメジャーのネット裏で目を光らせ、球界でも一目置かれる存在だ。過去には野茂英雄、黒田博樹など、能力と精神的な強さを備えた日本人投手のことを絶賛していたもの。2013年オフにヤンキース入りした田中の投球も、デビュー直後から見守り、高く評価してきた。

 今季も強豪チームをくまなく見てきた上で、シーズン103勝を挙げたヤンキースには世界一のチャンスがあると指摘していた。そのヤンキース内で鍵になる選手の1人として指名したのが、他ならぬ田中だった。

 「ヤンキースのブルペンは素晴らしいが、プレーオフを通じてリリーフ陣をフル回転させるわけにはいかない。先発が6イニングを投げなければいけないゲームは必ずある。故障あがりのセベリーノはX ファクターだが、まだ春季キャンプ中みたいなもので、計算仕切れない。先発ではパクストンと田中がヤンキースのベストピッチャー。田中こそが最も重要な投手かもしれない」

 あくまで今季の成績に限って言えば、自己最多かつチームトップの15勝を挙げたパクストンが田中を大きく上回っている。特に8月以降のパクストンは11試合で10勝、防御率2.51と絶好調。そんな大型左腕と比べ、田中の活躍が同等以上に大切だと考える根拠はどこにあるのか。

田中にあってパクストンにないもの

 「持ち球の威力はパクストンの方が上だし、確かに今季後半は素晴らしい投球をしている。ただ、田中にあって、パクストンにないものがある。そう、プレーオフでの経験だ。10月中、難しい局面でパクストンがどう反応するかはわからないが、田中に関してはすでに証明されているんだ」

 2017年の秋、インディアンス、アストロズという強打の強豪チームに対し、20イニングで2失点とほぼ完璧なピッチングで魅せた背番号19のパフォーマンスは語り継がれる。昨秋にしても、圧倒的な強さで世界一に駆け上がったレッドソックスから地区シリーズでチーム唯一の勝利を挙げたのが田中だった。

 そんな働きを思い返せば、ヤンキースのキープレイヤーに名前が挙がるのも理解はできる。プレーオフ未体験のパクストン、ぶっつけ本番の感があるセベリーノより、“秋の快刀乱麻”の可能性は確かに田中の方が高いかもしれない。

 ベテランスカウトは最後にメジャー史上に残る大投手の名を引き合いに出し、ヤンキースにおける田中の重要度を改めて強調した。

 「ドジャースにとってクレイトン・カーショウの働きが大切なのと似たような意味で、ヤンキースでは田中が鍵になると思う。カーショウと田中の能力が同等だということではなく、役割、立ち位置が似ているということ。カーショウは全盛期と比べて速球のスピードが落ちているが、経験、度胸、スキルがゆえに依然としてハイレベルで競い合える。ドジャースが世界一になるために、若いウォーカー・ビューラーだけでなくカーショウにも勝ってもらわなければいけない。それと同じように、ヤンキースは田中が必要なんだよ」

 ニューヨーカーの期待を背負った戦いが始まった。日本、アメリカを通じて多くの大舞台を踏んできた右腕は、最も大事な時期に再びチームを押し上げられるのか。スリリングな予感とともに、“Tanaka Time”の開始までもうあとわずかである。