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13連続KO勝利を続ける新鋭ジャーボンタ・デイビス ”メイウェザーの愛弟子”はスター街道を歩めるか

杉浦大介スポーツライター
Photo By Amanda Westcott/SHOWTIME

7月27日  メリーランド州ボルチモア ロイヤルファーム・アリーナ

WBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦

王者

ジャーボンタ・“タンク”・デイビス(アメリカ/24歳/21勝(20KO)無敗)

2回1分33秒TKO

指名挑戦者

リカルド・ヌニェス(パナマ/25歳/21勝(19KO)2敗)

13連続KO勝利

 14,686人(チケット完売)を飲み込んだボルチモア伝統のアリーナは、ヒーロー凱旋を彩る素晴らしい雰囲気になった。マリファナの匂いも漂う中で催された地元出身王者の“ホームカミング”。熱狂的なファンの前で、デイビスは短くとも鮮やかなKO劇で魅せてくれた。

 指名挑戦者のヌニェスも初回は気圧されているようには見えなかったが、2回には戦力の違いが明白になる。ラウンド半ばにデイビスが左フックを当ててチャンスを掴むと、ロープ際で怒涛の連打。風車のような王者の左右が挑戦者を捉えるのを見て、ハービー・ドック・レフェリーが少し早めのストップをかけた。

 この1週間強に起こった2件のリング渦ゆえに業界全体が慎重になっている感があるが、それを抜きにしても、ヌニェスは顔面を複数回派手に弾き飛ばされた後だっただけに、“早過ぎるストップ”とは思わなかった。レフェリーに即決を余儀なくさせ、2度目の防衛を難なく飾ったデイビスの強さを褒めるべきだろう。

 「“タンク”は信じられないほどの選手だ。初めて見たときから特別な力を持っていることはわかっていた。PPVスターになれる。それだけのカリスマ、勝利への意志を持っていて、ハードワーカーで、素晴らしいチームに支えられているからね」

 デイビスを抱えるメイウェザー・プロモーションズのフロイド・メイウェザーが述べる通り、そのパワー、スピード、クイックネス、ボクシングセンス、詰めの鋭さは脅威。大観衆を集めた地元での人気まで含め、通称“タンク”が抜群のスター性を備えていることに誰も疑問の余地はないはずだ。

今後の方向性は

 これだけ魅力のある選手だからこそ、今後のデイビスにどんなマッチメイクが用意されるかが気になるところではある。

 「次の試合でテビン・ファーマー(アメリカ)と戦いたい。今年中にやろうじゃないか」

 試合後のリング上で、デイビスはIBF王者ファーマーとの統一戦を改めて呼びかけていた。

 この2人はこれまでも盛んにソーシャルメディア上でやりあってきた“ツイッターライバル”。フィラデルフィア出身のファーマー、ボルチモアで生まれ育ったデイビスが激突となれば、米東海岸は盛り上がるだろう。キャリアのこの時点での両王者にとって、ほとんど完璧なマッチアップと言える。

 ただ、この夜、ダラスで4度目の防衛を果たしたファーマーは、デイビスが属するPBCとライバル関係にあるマッチルームUSA/DAZNと契約を結んでいるのがネック。PBCは目玉選手のレンタルを好まないこともあり、統一戦をまとめるのは容易ではない。ファーマー側のルー・ディベラ・プロモーターは次は実力者のジョセフ・ディアス(アメリカ)との対戦を明言しており、デイビス戦がすぐに具体化することはなさそうだ。

 その他、WBC王者ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)、WBO王者ジャメル・ヘリング(アメリカ)、WBA 正規王者アンドリュー・カンシオ(アメリカ)といった対立王者もすべてPBCのライバル・プロモーター所属。1階級下では同じPBC傘下のフェザー級王者レオ・サンタクルス(アメリカ)がデイビスへの挑戦希望を述べているが、アル・ヘイモンがこれまで溺愛してきたサンタクルスを“メイウェザーの愛弟子”に本当にぶつけるかは微妙なところだろう。

クリエイティブなマッチメイクが必要

 こういった状況下で、現実的にデイビスの次の防衛戦の相手は元世界フェザー王者ユリオルキス・ガンボア(キューバ)になる公算が強い。デイビス対ヌニェス戦のセミでローマン・マルティネス(プエルトリコ)に2回KO勝ちを飾ったガンボアだが、すでに37歳。全盛期はとうに過ぎており、デイビス戦も垂涎の一戦とはとても言えない。

 繰り返すが、デイビスは才能の面では文句なく、間違いなくスター候補ではある。パウンド・フォー・パウンドのランキングに顔を出す日も遠くはないはずだ。

 しかし、現状ではビッグファイトの選択肢に乏しいことは否定できない。ニックネーム通りに豆タンク型の体型ゆえに、今後に階級を幾つも上げていくのは難しそう。おそらくライト級あたりまでが限界だとすれば、メイウェザーが望むPPVスターになるのは容易ではない。

 現役時代は自身の売り出しに天才的な才覚を発揮したメイウェザーは、デイビスにいったいどんなプランを用意していくか。PBCをUFCのデイナ・ホワイトに売り渡すという噂もまことしやかに囁かれる中で、ヘイモンは“タンク・ビジネス”にどう絡んでいくか。デイビスを全国区にするためにはクリエイティブな方向性が必要なだけに、メイウェザー、ヘイモン、そしてホワイトといった大物たちの手腕が注目されるところだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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