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パスカル戦では強打不発 それでもライトヘビー級の近未来はドミトリー・ビボル(ロシア)の選択と成長次第

杉浦大介スポーツライター
Photo By David Spagnolo/Main Events

11月24日 ニュージャージー州アトランティックシティ 

ハードロック・ホテル&カジノ

WBA世界ライトヘビー級タイトル戦

王者

ドミトリー・ビボル(ロシア/27歳/15戦全勝(11KO))

3-0判定(117-111, 119-109, 119-109)

挑戦者

ジャン・パスカル(カナダ/36歳/33勝(20KO)6敗1分1NC)

王者は6度目の防衛も見せ場は作れず

 ライトヘビー級の新旧対決はビボルの完勝ーーー。スキルとパンチの精度で大きく上回るロシア人王者は、全盛期をはるかに過ぎた挑戦者を序盤から楽々とコントロールしていった。後半は相手の反撃も落ち着いてかわし、ジャブは最後まで途切れなかった点は評価されていい。

 もっとも、パスカルが王者のパンチに慣れた中盤以降、KOはおろかダウンの予感さえ感じさせなかったのも事実。8月のアイザック・チレンバ(マラウイ)戦に続き、基本に忠実でも意外性のないビボルは単調さを露呈した感もある。似たリズム、パターンのコンビネーションを繰り返すため、ラウンドが進むにつれて相手側も準備がしやすくなるのだろう。

 「彼のパワーは感じた。振り回してくるパンチは強かった。積極的にいかなかったのは彼のカウンターパンチのテクニックがゆえだ」

 ビボルは試合後にそう語り、終盤ラウンドに強引に詰めに行かなかった理由を正直に説明していた。この慎重さはプラスに働くことも多いはずだが、いわば“ショウケース”の舞台だったファイトで新たなファンを獲得するには至らなかった。

 案の定、山場のない展開に、6ラウンド途中には早くも3853人の観衆の一部からブーイング。試合後のインタヴュー中も同様だった。

 プロ15戦目の新鋭王者と実績豊富な元スターの対戦だったことを考慮すれば、ファンの反応は少々手厳しいようにも思える。アメリカ進出以降に連続KOを続けたことで、期待度が高まり過ぎたきらいはあったのだろう。自らが設置した基準に達するパフォーマンスができなかった際、酷評されるのはスター候補の宿命である。

 セルゲイ・コバレフ(ロシア)に2度ストップされたパスカルを倒せなかったのは、商品価値を考える上ではやはり痛かった。筆者の周囲には「ビボルは接近戦は苦手」と断言する関係者もいる。一時はうなぎ上りだった評価、注目度に、ここで歯止めがかかった感は否めない。

依然としてライトヘビー級戦線の主軸

 もっとも、そうは言っても、スキル、パワー、フットワークをすべてハイレベルで備えた万能派に、接近戦を強いる選手が実際にどれだけ存在するかは別の話。今後はKOのペースは落ちるとしても、この選手から12ラウンド中7回を奪うのは誰にとっても並大抵の難しさではないはずだ。 

 そんなビボルにとって、アメリカでの本格的なスターダム突入への鍵はやはりファンをよりエキサイトさせる術を見つけること。過去数戦で見えてきたコンビネーションのメリハリ、ボディ打ちといった課題を克服していくこと。そして何より、ビッグネームと対戦すること。それらを成し遂げるためにも、27歳の王者にとってこれからしばらくは極めて重要な時間になる。

 過去5戦のパートナーだったHBOがボクシングから撤退し、中継局間の争奪戦の勃発が確実な中で、まずはShowtime、DAZN、ESPNのいずれと契約するか。そして、周辺階級でのエリートファイターのうちの誰に標的を定めるかが焦点になる。

 パスカル戦後にはスーパーミドル級での試合も視野に入れると述べてはいたが、現実的ではあるまい。「より興味深いのはライトヘビー級」という本人の言葉通り、やはりターゲットはライトヘビー級でのビッグファイトに違いない。

 今後、同階級では楽しみな試合が目白押しだ。今週末にWBC王者アドニス・スティーブンソン(カナダ)が暫定王者オレクサンダー・グボジアク(ウクライナ)と統一戦を挙行。来年1月19日にはバドゥ・ジャック(アメリカ/35歳/22勝(13KO)1敗3分)がマーカス・ブラウン(アメリカ)とのコンテンダー対決を計画し、2月2日にはWBO王者エレイデル・アルバレス(カナダ)とコバレフのダイレクトリマッチがすでに決まっている。IBF王者アルトゥール・ベテルビエフ(ロシア)も来年2月ごろに強打者ジョー・スミス(アメリカ)との防衛戦が内定した。

 この魅力的なラインナップの勝者とビボルの早期の対戦実現は容易ではないが、次に契約する中継局の後押しがあれば不可能ではない。年齢的にも今が旬だけに、獲得した局はこの選手をロースターの目玉の1人に据えるはず。そういった意味で、ビボルの選択にライトヘビー級の近未来は少なからず左右されるのだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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