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「HBO撤退後もビッグファイトよりベストファイトが組みたい」 キャシー・デュバ(メインイベンツ)

杉浦大介スポーツライター
Main Events/David Spagnolo

11月24日 ニュージャージー州アトランティックシティ 

ハードロック・ホテル&カジノ

WBA世界ライトヘビー級タイトル戦

王者

ドミトリー・ビボル(ロシア/27歳/14戦全勝(11KO))

挑戦者

ジャン・パスカル(カナダ/36歳/33勝(20KO)5敗1分1NC)

HBOの撤退は悲劇

ーーメインイベンツの提携選手であるビボルとパスカルのタイトル戦を中継するHBOは、来年以降はボクシングを中継しないとすでに発表しています。その件について思うことは? 

KD : 悲劇だとしか言いようがないですね。業界の大きな一部が消えてなくなるようなものです。私はもう40年もこのビジネスに関わってきて、それ以前から多くのファイトに足を運んできました。その間、ほぼすべてのビッグファイトはHBOで中継されてきました。メインイベンツがプロモートしたスター選手の重要試合も例外なくHBOで放送されてきたんです。ビニー・パジエンザ、イベンダー・ホリフィールド、ザブ・ジュダー、フェルナンド・バルガス(すべてアメリカ)、トマス・アダメク(ポーランド)、セルゲイ・コバレフ(ロシア)・・・・・・数え上げたらきりがありません。HBOの撤退で業界には大きな穴が開く。今後、どうやってその穴埋めがされていくのかが興味深くはあります。

ーーただ、以前から話は出ていて、予想されていたことではありますよね? 

KD : ここに来て突然キャンセルが決まったことには驚かされましたが、NBCの幹部との話し合いの中でもHBOが撤退するという話は出ていました。私たちの見方は正しかったわけです。それでも最後まで一縷の希望は捨てず、自身の予想が間違っていることを願っていましたが、結局はこうなってしまいました。

ーーHBOが去る一方で、今夏からゴールデンボーイ・プロモーションズとの提携でスタートしたFacebook 興行はファンには好評です。この新シリーズには満足されていますか?

KD : Facebookというプラットフォームで興行を打つ機会を得たことはとても光栄です。もう何年も話してきて、実現に至ったプロジェクト。他の多くのシリーズ興行とは違い、Facebookの売り物は無料で、世界中で視聴できることです。反響の大きさを嬉しく思っています。

ーーもともとどういったシリーズにしたいという狙いがあったんですか?

KD : 現代では多くのエリートファイターには様々な場所でビッグマネーを得る機会がありますが、ビッグファイトがベストファイトであるとは限りません。オスカー・デラホーヤ(アメリカ)やフロイド・メイウェザー(アメリカ)の試合がFight of the Yearに選ばれることはまず考えられませんでした。それより、私たちが目指しているのはアーツロ・ガッティ(アメリカ)対ミッキー・ウォード(アメリカ)のようなカード。このプラットフォームを生かすため、私たちは11月1日はサリバン・バレラ(キューバ)対ショーニー・モナハン(アメリカ)戦という実力の拮抗したファイトを組みました。これからも優れたカードを組んでいくつもり。このシリーズにはESPN、DAZN、Showtimeのような予算はありませんが、誰が出場するかを知らないファンでも会場に来れば楽しめるようなマッチアップを目指しています。

ーー日本の一部の熱心なファンも、合法のストリーミングでファイトが見れるFacebook興行を歓迎しています。 

KD : そんな意見が聴けるのは嬉しいですね。今後のモチベーションになります。

ーー来年以降も続けていくと考えて良いのでしょうか?  

KD : 12月にもう一度開催予定で、来年も継続するという話は進んでいます。

NBCとの新シリーズは?

ーー先ほどNBCの話が出ましたが、メインイベンツが地上波のNBCと組んで新シリーズをスタートされるという噂が飛び交っています。それについてここで何かシェアできることはありますか? 

KD : 現時点ではありません。すぐに何か発表できるはずです。

ーー良い方向に進んでいると考えて良さそうですね。 

KD : そうですね。ただ、今日言えるのはそこまでです。トラブルを引き起こしたくはないので(笑) 

ーーそれではもう少し待っておきます(笑)。話は変わりますが、コバレフとエレイデル・アルバレス(カナダ)のリマッチは来年2月2日に挙行され、ESPNが生中継するとの報道がありました。この試合に勝ったとして、コバレフの今後はどうなるのでしょう? 

KD : ESPNとセルゲイの契約は今回の1戦だけではありません。リマッチで勝てばさらに多くの報酬を要求できるようにもなるので、そこでまた話し合うことになるでしょう。アルバレス戦でのセルゲイはほとんどのラウンドを奪っておきながら、ガス欠を起こしてしまいました。アンドレ・ウォード(アメリカ)戦でも同じことが起こりました。年齢を重ねた後で、25歳の頃と同じようにトレーニングをすべきではないと気づいたはずです。今ではバディ・マクガードがセルゲイのトレーナーを務め、キャリアを立て直そうと取り組んでいます。マクガードにはガッティのキャリア最後の12戦でコンビを組み、タイトル奪還を助けた実績があります。同じ魔法を再現できるか、楽しみにしておきましょう。

ーー確認ですが、アルバレスとの再戦に勝った場合、コバレフはもうしばらくESPNの興行で試合をすることになるのでしょうか? 

KD : はい、その通りです。

ーーESPN、DAZNはこれまでの業界の常識を超えるほどの金額をボクシングに費やしていますが、この流れはボクシング界にとって良いことだと思いますか? 

KD : コバレフのチームが喜んでいるのに象徴されるように、一部のトップファイターにとっては素晴らしいことです。(パスカル戦後の)ビボルも同じように感じるでしょう。ただ、スポーツにはエリートより1つ前の段階にいる選手のためのステージも必要です。Facebook でのシリーズはそのためのもの。私たちが他に何かを始めるとすれば、狙いはそこになります。

ーー育成も考えたテレビ興行があれば、ということですね。

KD : メインイベンツはこれまでもパジエンザ、ガッティ、アダメクといった熱狂的な支持者を持つ選手たちをサポートしてきました。もちろんパーネル・ウィテカー、レノックス・ルイス、メルドリック・テイラー(アメリカ)といった一流どころも抱えてきましたが、それだけではないということ。誰も見向きもしなかったコバレフを発見できたのは、エリートに辿り着く前の選手に目を向け、厳しいマッチメークを課してきたからです。一部のトップ選手を70人も集め、彼らに勝たせるだけのビジネスモデルでは長続きはしない。私たちはそういったことをやるつもりはありません。メインイベンツが目指すのは最高のファイトなんです。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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