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サブウェイシリーズが輝きを取り戻すために

杉浦大介スポーツライター

Photo By Antonio Gil

色褪せた地元対決

率直に言って、2013年のサブウェイシリーズは地元ニューヨークでも盛り上がりに欠けた感は否めなかった。

27日にシティフィールドで行なわれた第1戦の観客動員32.911人はシリーズ史上最低で、翌日は31.877人で2日連続で最低記録更新。ヤンキースタジアムに移動後もソールドアウトにならず、記者席にも空席が目立ち、かつての熱気からはほど遠かった。

「観客数は知らないけど、良い試合だったし、お客さんは惹き込まれていたと思うよ」

シリーズ中にヤンキースのジョー・ジラルディ監督はそんなコメントを残していたが、接戦になった1,2戦の終盤を除き、現実を指摘していたとは思えない。

筆者がニューヨークに住み始めた1999年頃、サブウェイシリーズは文字通りの“お祭り”だった(シリーズはMLBがインターリーグを開始した1997年にスタート)。入場券は正真正銘のプラチナチケットで、いわば“シーズン中に行なわれるプレーオフ”。開催期間が近づくと、少なくとも地元のスポーツファンの間の話題はヤンキース対メッツでもちきりになったと記憶している。

地元のライバル対決から生み出されたドラマも数限りない。ロジャー・クレメンスとマイク・ピアッツァという看板スター同士の間で、ビーンボールを巡る因縁があった。1999〜2000年には両チームともにプレーオフ進出を果たす強豪だったがゆえに、シーズン中の対戦時から全米的に注目されたもの。そしてヤンキースとメッツは2000年のワールドシリーズで世界一を懸けて激突し、ほとんど常軌を逸した街の盛り上がりはそこで頂点に達した感があった。

しかし、時は流れ、輝きが失せてしまった理由は複数あるのだろう。1997年から毎年6戦(ホーム&アウェーで3戦ずつ)も行なわれ続け、おかげで新鮮味が薄れてしまったこと。特に今年はデレック・ジーター、アレックス・ロドリゲスといったヤンキースが誇る重鎮たちが故障欠場していること。何より、2009年以降のメッツが4年連続負け越しレコードという不振を囲い、優劣の明白なカードになってしまっていることが大きいのかもしれない。

今季は転換点に成り得るか

もっとも、個人的には2013年はサブウェイシリーズのターニングポイントと成り得るかもしれないと感じている。

まず、他のライバル対決と同様に、去年までの6戦から今季は4試合に減らされたことは、少なからず希少価値を回復させるという意味で正しい方向性だろう。シティフィールドで2戦、ヤンキースタジアムで2戦と4連戦を行なうことによって、短期間に継続性と流れが生まれることはファンも歓迎のはずである。

個人的には、オリンピックのように4年に1度くらいでも良いのではないかと思う。また、ジラルディ監督が勧めていた通り、「奇数の試合数にしてシリーズの勝者を生み出す」というのも悪くないアイデア。あるいは1年に2戦のみにして、その2試合を過去にあったように1日に2球場間を移動してのダブルヘッダーにするというのもお祭り気分が煽られて良いかもしれない。

来年以降もしばらく4戦が続くだろうが、さらなる向上を頭に置いた改革は常に必要。ビジネスが絡んでくるがゆえに看板シリーズの数を減らすことは簡単ではないが、観客動員も減少傾向の昨今だからこそできることもあるはずだ。

メッツが復活へ?

そしてもう1つ、サブウェイシリーズにとって重要なのは、しばらくどん底の低迷を続けて来たメッツの行く手に少しずつ光がが見えて来たことである。

ヤンキース相手に4戦全勝という今季の意外な結果を見てそう言っているのではない。現在過渡期にいるメッツは、まさかのスイープの後でも22勝29敗で地区首位に9ゲーム差。攻守ともに駒不足は明白で、今季中の急浮上は考え難い。それでも、来季以降に向けて希望がないわけではない。

「誰もが厳しい時期を経験する。その難しい状況から、フラストレーションを感じながらも、何とか抜け出すことこそが最も難しいんだ。だからこそ、今回のサブウェイシリーズは私たちにとって重要な意味があった。私たちは史上最高のクローザー相手に逆転することだってできた。おかげで選手たちの気持ちも盛り上がるはずだ」

30日の4戦目が終わった後にテリー・コリンズ監督がそう述べた通り、ポジティブな要素は少なからず見えて来る。

もともと今季は、来季以降に勝ちに行く際の陣容を選別するシーズン。今のうちに使える人材を見極め、後半戦では3Aで腕を磨くザック・ウィーラー、トラビス・ダーノーといったトッププロスペクトたちをメジャー昇格させる。そして、ペイロールに空きができる来オフに必要な補強を敢行して勝負に出るのが今後の青写真である。

そんな“オーディションシーズン”の中で、負けが込む間も集中力を切らさなかったデビッド・ライト(打率.290、7本塁打、30打点)、ダニエル・マーフィー(打率.300、4本塁打)、ボビー・パーネル(9セーブ、防御率1.85)、ルーカル・デューダ(9本塁打、出塁率.354)らがサブウェイシリーズ完全勝利の立役者になったことは偶然とは思えない。そして何より、開幕から無敗で勝ち進む大器マット・ハービー(5勝0敗、防御率1.85)が、ヤンキース相手の大舞台でも堂々の投球を見せたことは心強い要素である。 

大切なのは”ライバル”に戻ること

例え同市内に本拠地を置いていても、勝てないチームにライバルは存在しない。まずはメッツが、毎年のように標準以上のチームを作って来るヤンキースに匹敵する陣容を整える必要がある。そのときにようやく、開始当初と同様とまでは行かないまでも、ニューヨーカーを落ち着かなくさせるだけの「Buzz(興奮した噂話)」をサブウェイシリーズは取り戻すだろう。

1990年代後半から2000年代前半にかけて、ニューヨークでベースボールはファンタジーだった。中でも街の視線が集中するサブウェイシリーズは、ほとんど天衣無縫のビッグイベントだった。

例え口に出さずとも、シリーズが当時の輝きを取り戻すこと願っているスポーツファンは少なくないはず。6戦から4戦に減り、同時にメッツが未来に向けて動き出した2013年は、近い将来にターニングポイントの1つとして思い出されるシーズンになっても不思議はないように思えるのである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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