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【解説】高校「情報」教員配置・指導体制の自治体間格差は大丈夫か? #共通テスト #改善指導 #文科省

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
高校「情報」、教員配置の遅れている長野、栃木、福島、茨城等の高校生が置き去りに(写真:アフロ)

1.高校「情報」、教員配置・指導体制の自治体間格差が懸念されている

高等学校「情報Ⅰ」をめぐり、かねてから問題になっていた教員配置・指導体制の自治体格差問題について、文部科学省が最新の調査結果と施策パッケージを公表しました(文科省HP公表資料)。

国立大学協会は2025(令和7)年度入試から「情報」を、入試科目として課す基本方針を示しています。

一方で、高校「情報」の教員の自治体間格差があり、一部の国立大学では「情報」を配点ゼロとする予告を出し、専門学会から反発も起きています。

※IT Media NEWS,一部国立大の共通テスト「情報」配点ゼロ予告に情報処理学会が反発 「不適切な入試を看過できず」,2022年10月13日.

高校「情報」の指導体制は、新学習指導要領への対応をめぐって、高校の設置者(都道府県立学校の場合は都道府県教育委員会)に責任があります。

単なる高校教育の問題ではなく、大学入試をめぐる公平性・公正性の確保という原理原則に関わる極めて重要なイシューです。

私自身、英語4技能や記述式問題に揺れた大学入試改革の見直しプロセスにおいて、「大学入試のあり方に関する検討会議」の委員を務めた経験から、本件には関心を寄せてきました。

大学入試における科目出題は各大学の判断に委ねられていますが、国立大学で共通テストで「情報」を課す方針を示しているのであれば、高校設置者は国立大学受験を希望する高校生のために、指導体制を整備しなければなりません。

2.高校「情報」の教員配置・指導体制の自治体間格差は、今年度中に改善見通し?

―NHK高校講座やオンライン授業の活用も

今回の文部科学省発表について、私なりにポイントをまとめれば以下の通りです。

(1)2年半前に1,233人いた臨時免許・免許外教科担任は437人減り、796人となった。

(2)一方で、今回文部科学省が提出を求めた改善計画が履行されれば、この796人は2023(令和5)年度には80人まで減少する見込み(文科省は「強い」改善指導により2024年度にはゼロに、という見通しを立てている)。

(3)スーパーティーチャー(指導能力の高い教員)による授業動画の配信やNHK高校講座「情報Ⅰ」の番組制作・広報への全面協力など、複数のセーフティネットを文科省主導で整備している。

文科省HP,高等学校情報科担当教員の配置状況及び指導体制の充実に向けて
文科省HP,高等学校情報科担当教員の配置状況及び指導体制の充実に向けて

これらの対応については、大学団体だけでなく、事態を懸念していた 与野党議員からも評価の声があがっています。

3.責任は地方自治体に

―国の異例の「強い」改善指導まで、無為無策だった一部地方教育委員会

―置き去りにされる高校生

今回の文部科学省の取組は、遅きに失した部分はあると思いますが、2025(令和7)年度からの国立大学や共通テストでの「情報」必修化に、ギリギリ間に合うタイミングと判断されます。

教科書的には文科省は、地方教育委員会に対し、地方分権の趣旨を尊重し「指導・助言」を行う「弱い」行政しか行いません。

これに対し、今回、文科省は各県に対して思い切った指導を行い、複数のセーフティネットを張ったことは教育の機会均等の確保、入試をめぐる公平性・公正性の観点から、極めて重要な取組であったと思います。

むしろ、批判されるべきは、2年半前の調査結果公表以降、国から過去3回(2021年度に2回、2022年4月に1回)にわたる指導通知を受けながら、十分な改善を行って こなかった一部の教育委員会(長野、栃木、福島、茨城、北海道、広島、鹿児島、岐阜、長崎、岩手などの県)です。 

文科省HP,高等学校情報科担当教員の配置状況及び指導体制の改善に向けて
文科省HP,高等学校情報科担当教員の配置状況及び指導体制の改善に向けて

これらの県では、高校「情報」に対応できない高校生たちの進学機会が狭められ、「情報」への対応が進んでいる県や私立学校に対し、著しい不利を被ることを無視してきたといっても良い状況があります。

特に国立大学への進学を希望する高校生を置き去りにしてきたと言っても過言ではありません。

度重なる指導にもかかわらず、一向に動こうとしない道県に対して、業を煮やした国が「強い」改善指導をし、「情報」教員の配置・指導体制充実のための計画の提出を求めた、というのが事態でしょう。

※NHK,「情報1」の教員不足 国が都道府県などに改善計画の提出求める,2022年10月31日

この間、国は指導通知を3回出したり、複数校指導や外部人材の活用の手引きなどを出したりしてきましたが、マスコミもこの問題を大きく報道してきました。これらの県の教育長や人事担当は一体何をしていたのでしょうか。

また、知事や県議会は一体何を見ていたのでしょうか。

4.デジタル人材育成に後れを取る日本、「情報」と高校生置き去りの地方自治体は何を見ていたのか?

もちろん、大学入試のために高校教育があるわけではないですが、現実問題として50%を超える高3生が大学入学共通テストを受けるわけで、指導体制の整備は喫緊かつ最重要の課題であったはずです。

国全体としていわゆるデジタル人材が圧倒的に他国と比べて不足し、それが我が国の国際競争力を著しく損なっていることは周知の事実です。

また、私自身の専門である教育学を含め、今やあらゆる学問領域でデータを扱う知識・技能はマストのものになりつつあります。

民間だけでなく、霞が関にもデータを扱える官僚が圧倒的に足りません。

そうした意味でも高等学校における情報教育の振興は、教育政策・産業政策の両方の観点から、極めて重要な課題であることは論を待ちません。

今回遅ればせながら、高校「情報」の指導体制が2022(令和4)年度中に整うこととなりました。

また、NHKやスーパーティーチャーも協力してセーフティネットも張られたわけですが、文部科学省においては、単に改善計画を取りまとめただけで安心するのではなく、年度末に向けてしっかりと各県の取組をフォローアップする必要があります。

特に、免許を保有していながら情報を教えていない教員を機械的に情報科担当として配置換えするだけでは、授業力はむしろ落ちてしまいかねません。

免許を持ち、指導力がある教員の複数校兼務を推進することが重要です。

また、これまで臨時免許や免許外で担当していた教員のうち指導力が高い方も沢山いらっしゃると思いますので、例えば免許保有者とのティーム・ティーチングを行い、免許保有者による指導体制を整えつつ、力量ある教員に研修等を通じ普通免許を取ってもらう仕組みを整えることも一案でしょう。

そのために国・県で予算措置を行うことも考えられます。

そもそも、教育委員会と地元大学が連携し、専科で指導する教員を継続的・安定的に養成し、採用する取組が必要です。

この点について、施策パッケージでは産学官の協議の場の設置に国が財政支援を行う意向が示されています。

また、大学入試センターは、「情報」試作問題を公表しましたが、この問題で大丈夫と早合点するのではなく、指導体制の改善をめぐるこれまでの経緯をよく踏まえ、関係者の声に真摯に耳を傾けた上で、初年度の問題作成に臨んで頂きたいと思います。

私自身、これらの関係機関の動きを今後もウォッチし、国・地方自治体が、高校生に対する責任を怠るようであれば、厳しく指摘していきたいと思います。

また私立高校間の格差も懸念されます。

文科省は、設置形態(国公私立)に関わらず、高校「情報」の指導体制が、「教育の機会均等」にふさわしい状況で配置されているのか、調査と情報公開、必要に応じた改善指導を継続的に行うべきです。

高校「情報」に対し、無為無策の教育委員会や学校法人 のせいで、進路が閉ざされる被害者は高校生なのですから。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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