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【解説】こども庁、ここがすごい!幼保一元化よりすごい「ゼロを1にする」こども政策 #なくそう子育て罰

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:PantherMedia/イメージマート)

こども庁について、幼保一元化ばかりを問題にするマスコミの取材の多さに心底うんざりしています。

この記事では、使い古された幼保一元化という問題ごときに日本のジャーナリズムが停滞せず、こども若者にもやさしい報道に進化いただくために専門家として解説するために発信しています。

こども庁で何が起きるのか、こども政策のここがすごい!というポイントをまとめていきます

親子に冷たく厳しい「子育て罰」大国・日本を変えるうえでも、こども庁でのこども政策推進はきわめて重要です。

ただしそれは幼保一元化(こども庁への文科省統合)ではありません。

いまそんなことをしても、待機児童問題や保育の質の向上にはなんの問題解決にもならないのです。

幼保一元化ばかりの報道が大きな問題であることは下記の記事、ポッドキャストをご確認ください。

一部の厚労省幹部・利権団体・厚労族議員も幼保一元化にいま固執することが、ほんとうに子どもの最善の利益を最大化することになるのか、冷静に考えるうえでも、ご確認をおすすめします。

※末冨芳,子どもも親も置き去り?設置先送り批判・幼保一元化偏重のこども庁報道が危険な2つの理由 #こども政策(2021年11月22日)

※Amazon Music,2021-12-08 望月衣塑子「こども庁」JAM THE WORLD - UP CLOSE(6:41以降で末冨がこども庁について幼保一元化ばかりの報道の問題点をコメントしています)

1.こども庁・こども政策、2つの基本文書

12月末の岸田政権基本方針にむけて与党調整も進行中

現時点でこども庁・こども政策に関する基本文書は2つです。

(1)内閣官房・こども政策の推進に係る有識者会議報告書(2021年11月29日)

(2)内閣官房・こども政策の推進に係る作業部会こども政策の新たな推進体制に関する基本方針(原案)~こどもまんなか社会を目指すこども庁の創設~(2021年12月2日)

(1)有識者会議報告は、子ども若者の支援団体、研究者などを中心に、充実したこども政策の内容について提言した素晴らしい報告書です。

以下の記事でもその議論のすばらしさをまとめました。

※末冨芳,どうなる、こども庁?子どもの意見も聞いた有識者会議の骨子案と展望 #子ども基本法 #こども政策・予算(2021年11月20日)

こどもの政策の推進に関わる有識者会議報告書概要(p.1,内閣官房HPより)
こどもの政策の推進に関わる有識者会議報告書概要(p.1,内閣官房HPより)

(2)作業部会方針(案)は、官房副長官をトップとし、内閣府・警察庁・総務省・法務省・財務省・文科省・厚労省・農水省・経産省・国交省の1府9省の関係省庁の幹部級会議であり、こども庁の組織についてまとめたものです。

現在の2つの基本文書や自民党・公明党それぞれの提言をもとに与党調整が進行しています。

12月末に岸田内閣で子ども政策の基本方針について閣議決定されますが、これは主に(2)にもとづいて提言される見通しです。

以降、(1)有識者会議報告、(2)作業部会方針(案)より、こども庁・こども政策のここがすごい!というポイントをまとめていきます。

2.こども政策、ここがすごい!

こども庁3要件=財源・人員・こども基本法を明記

こども・子育て当事者のウェルビーイング(幸せ)・参画・視点を重視

「ゼロを1にする」目玉政策

まず(1)有識者会議報告書に示されたこども政策のすごさをまとめていきましょう。

〇こども庁3要件=財源・人員・こども基本法を明記

私がこれまで強調してきた、こども庁3要件=財源の確保・人員の拡充、こども基本法(仮称)の制定が明記されています。

有識者会議でも多くの委員がその重要性を指摘し、報告書にも盛り込まれています。

〇こども・子育て当事者のウェルビーイング(幸せ)・参画・視点を重視

こどもの視点・子育て当事者の視点に立ち、ウェルビーイングを重視する、という基本姿勢が貫かれていることも、これまでの政治・行政からの進化を期待されるすごい点です

同時に、子ども・若者の参画を進めるために、国・地方での取り組みが行われる方針も重要です。

・こどもや若者、子育て当事者からの意見聴取・反映、(中略)意見が反映される過程や成果の見える化、フィードバックなど、こどもの視点、子育て当事者の視点に立った政策の推進

〇「ゼロを1にする」目玉政策が目白押し!

また、いままで日本では子どもたちのために必要だとされてきた政策でも、大人ファーストの政治・行政の中でとりくみゼロだった政策もあります。

それらの政策が具体的に明言されています。

とくに関係者の注目を集めているのは、日本版DBSと日本版CDR、ヤングケアラー対策、性暴力や望まない妊娠を防ぐための支援など「子ども・若者を守る」仕組みでしょう。

障害を持つこどもたちにも乳幼児期から切れ目のない支援を実現するための提言も行われています。

私自身も国の予算が必ず必要だと考えてきた学校内居場所についても、重要政策として盛り込まれています。

・保育・教育現場において小児性犯罪歴のある者の就労を防ぎ、こどもを性犯罪被害から守るための日本版DBSの早期導入に向けた検討

・こどもの予防できる死亡を減らすため、こどもが死亡した場合にその原因に関する情報の収集・分析、活用等チャイルド・デス・レビュー(CDR)の推進方策の検討

・欧州のユースクリニックも参考にした、ユースフレンドリーな情報提供、相談支援

・妊娠・出産、性に関する情報提供と伴走型支援の充実

・こどもの権利を保障し、性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないための教育・啓発である「生命(いのち)の安全教育」の内容充実と全国展開

・ヤングケアラー対策

・NPOと学校との連携による学校内での居場所(学校(2nd プレイス)と地域(3rd プレイス)を繋ぐ「2.5 プレイス」)づくり等

3.こども庁、ここがすごい!

こどもの最善の利益・基本的人権の保障を強調

安定財源の確保を明記する本気

人員増で成育部門・支援部門・企画立案・総合調整部門の3部門活動を充実

つづいて(2)作業部会方針(案)に示された、こども庁の組織・機能のここがすごい!という点について整理していきましょう。

作業部会方針(案)は前述のとおり、官房副長官をトップとし、1府9省の幹部で構成される”典型的なお役人会議”でもあります。

にもかかわらず、本気でこども政策に取り組む内容であり、霞が関文書を長年見慣れている私も良い意味で驚きました。

この原案から年末の閣議決定に至るまでに大きな変化がないことを期待します。

自民党右派がこども庁設置やこども政策に反対しているという報道もありますが、子どもを大切にするのは国の基本であり、子どもを大切にする思いは同じだと考えています。

〇こどもの最善の利益・基本的人権の保障を強調

報告書には9か所で「こどもの最善の利益」の実現がこども庁において重視されることが明記されています。

本文の2頁に1回登場する頻度です。

ここまで子どもを大切にする姿勢を、幹部級会議の報告書(案)として打ち出したこと自体がすごい、といえるでしょう。

とくに、子どもの人権・権利の実現を強調した以下の部分は、すごいです。

日本国として憲法に定める基本的人権が子ども・若者にも適用されるという当たり前ですが大切な姿勢を明記することで、行政でも子ども・若者の最善の利益・意見表明、尊厳の保持・差別の禁止などを実現していくことが明確にされています。

今後のこども政策の基本理念

(2)全てのこどもの健やかな成長、Well-being の向上

全ての国民に基本的人権を保障する日本国憲法の下、児童の権利に関する条約に則り、

・ 全てのこどもが生命・生存・発達を保障されること

・ こどもに関することは、常に、こどもの最善の利益が第一に考慮されること

・ こどもは自らに関係のあることについて自由に意見が言え、大人はその意見をこどもの年齢や発達段階に応じて十分に考慮すること

・ 全てのこどもが、個人としての尊厳が守られ、いかなる理由でも不当な差別的取扱いを受けることがないようにすること

といった基本原則を、今一度、社会全体で共有し、必要な取組を推進することが重要で ある。

〇安定財源の確保を明記する本気

なによりすごいのは、安定財源の確保を明記したことです。

国民なくして国家はありません、超少子化を食い止めるためには子ども・若者にも十分な財源が必要です。

こども政策を強力に進めるために必要な安定財源の確保

こども政策を強力に進めるために必要な安定財源の確保について、政府を挙げて、国民各層の理解を得ながら、社会全体での費用負担の在り方を含め、幅広く検討を進め、確保に努めていく。その際には、こどもに負担を先送りすることのないよう、応能負担や歳入改革を通じて十分に安定的な財源を確保しつつ、有効性や優先順位を踏まえ、速やかに必要な支援策を講じていく。安定的な財源の確保にあたっては、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討する。

〇人員増で成育部門・支援部門・企画立案・総合調整の3部門活動を充実!

すでに報道もされていますが、成育部門・支援部門・企画立案・総合調整部門の3部門で、「強い司令塔」機能を持つことが明記されています。

この体制を機能させるために、人員を充実・登用することも明記されており、そこがすごいと言えるでしょう。

新規の政策課題への対応や司令塔機能や政策立案機能の強化に必要な人員を置くために、移管する定員を大幅に上回る体制を目指す。また、政策立案機能の強化のため、地方自治体職員や民間人材からの積極登用を行う

〇こども庁の機能は幼保一元化ではなく「共通化」

さて(2)作業部会方針(案)には、こども庁の機能は幼保一元化ではないと明記されています。

簡単に言うと次のような役割分担になります。

・こども庁:幼保子ども園(3施設)の共通方針(就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針(仮称))の推進

・文科省:教育内容の基準の策定

これは責任の所在を明確にし、専門行政の蓄積にもとづく省庁の役割分担を実現するうえで適切な判断です。

また認定こども園について、幼保あわせた通知・調査・施設整備の「共通化」が明記されている点も重要です。

これを起点に、幼保こども園3施設の「共通化」の議論が拡大していくことが期待されます。

私自身も、幼保こども園共通化(ユニバーサル化)がここからの乳幼児への保育・教育には必要だと考えているので、別の機会に、保育・幼児教育の最前線で頑張るみなさんの取り組みに焦点をあて、検討してみたいと思います。

幼保一元化については、こども庁が肥大化しすぎ、組織内縦割りが起き、責任の所在が不明確になると、元大蔵官僚で公共政策学研究者の田中秀明氏も批判的に指摘なさっています。

※田中秀明,子ども庁の問題点,日本経済研究センター(2021年5月5日)

幼保「共通化」で責任の所在を明確にし、専門行政が生かされる判断がされたことは重要であり、こども庁の「司令塔機能」が活きる前提でもあります。

〇こども基本法は議員立法へ?

(1)有識者会議報告書に明記されたこども基本法ですが、議員立法として検討されているとの報道が行われています。

私自身は、こども庁がこども政策に横串を通す基本理念として、子どもの人権・権利を規定する国内法があってこそ、こども庁の機能が十分に発揮されるので必要だと考えています。

こども基本法に反対する勢力もいるという情報がありましたが、その方たちの主張を確認したところ、子どもの権利を否定するものではなく、むしろ子どもを大切にしようという姿勢は同じものだと受け止めています。

こども基本法の立法についても、自民党含め全政党が衆議院選挙時に賛成していました。

貧困・虐待・不登校・自殺、いずれも過去最悪の水準で、子ども若者の命も尊厳も守れない冷たく厳しい国をなんとかしたいという思いは政党を越え、共有されているでしょう。

与野党を越え、日本国憲法に明記されながら、十分に実現していない子どもの人権を、女性・障害者と同様に国内法でも明記し、実現をしていくため、大人である政治家同士が子どものために協力するが求められます。

4.「報道の縦割り」、大人ファースト目線こそ問題では?

報道の役割は、これらの「ゼロを1にする」政策がどのようなものか、子ども若者や家族にどのような効果が期待されるのかなど、子どもや子育て当事者の視点にたち丁寧な取材にもとづく発信をすることなのではないでしょうか?

支援の現場で活躍するこども政策有識者会議のメンバーにも積極的に取材すべきです。

こども政策の推進に関わる有識者会議メンバー(内閣官房HPより)
こども政策の推進に関わる有識者会議メンバー(内閣官房HPより)

内閣記者クラブが総理会見専用の機能に特化されてしまっている点も課題です。

こども庁・こども政策の報道が文科記者クラブと厚労記者クラブの「報道の縦割り」の隙間におちこんでいる状態の解消も必須なのではないでしょうか?

「報道の縦割り」を解消できないからこそ幼保一元化などの浅薄な報道しかできないのではないでしょうか?

報道関係者は幼保一元化の縦割りを批判するまえに、まず自らを省みて、「報道の縦割り」を解消してください。

また大人(の男性幹部)ファーストの報道になっていないか、この国の子ども若者に報道の果たすべき役割を問い直してはいかがでしょうか?

年内に岸田政権が打ち出すこども政策の報道に対し、それでも幼保一元化に拘泥する記者・ジャーナリストは、大人(の男性幹部)ファーストで、こども庁・こども政策の浅薄な理解しかしていない人々なのかもしれません。

そうではなく、こども・若者や支援の現場に寄り添い、丁寧な報道で、より良いこども庁・こども政策のあり方を考える報道が増えることを期待しています。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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