Yahoo!ニュース

どうなる、こども庁?子どもの意見も聞いた有識者会議の骨子案と展望 #子ども基本法 #こども政策・予算

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
日本のこども政策は大きく前に進めるか?(写真:アフロ)

はじめに:11月20日は世界子どもの日!

世界こどもの日の前日に公表されたこども政策の理念

11月19日にこども庁や子ども政策のあり方を検討する有識者会議の報告書(骨子案)が、公開されました。

偶然ではなく、今日11月20日は「世界こどもの日」(World Children's Day)と呼ばれる、子どもの権利の認識向上や子どもの福祉の向上を目指し、世界中で子どもたちのためのイベントや啓発活動が行われる日なのです。

「世界子どもの日」とは?

毎年の11月20日には、子どもの権利の認識向上や子どもの福祉の向上を目的として、世界中で子どもたちが主体となって参加する催しが行われています。

11月20日の「世界子どもの日」は、1954年、世界の子どもたちの相互理解と福祉の向上を目的として、国連によって制定されました。

その後、1959年11月20日に国連総会で「子どもの権利宣言」が採択され、さらに30年後の1989年の11月20日、すべての子どもに人権を保障する初めての国際条約『子どもの権利条約』が、国連総会で採択されました。この条約が生まれたことにより、世界中で子どもの保護への取り組みが進み、これまでに多くの成果が生まれました。

ユニセフホームぺージより

しかし日本は、これまで、国連児童の権利委員会より度重なる勧告を受けているとおり、先進国を自称しているにも関わらず、子どもの権利が守られておらず、法も政府計画も予算もすべて不十分な国なのです。

だからこそ、日本でこどものための法律、政策や予算確保の推進が必要な状況にあります。

それは、単にこども庁をつくればいいということではなく、日本の政治も社会も子ども若者とともに成長をしていけるよう、理念を浸透し、政治家・大人に行動変容を起こし、法・政策や予算などを整備していくか、という大きな挑戦を必要とするのです。

いかに子ども若者たちを尊重し、一緒に考え、子ども若者に丁寧にかかわる大人を増やすのか、これも大事です。

こうした課題に、いま日本政府の中で正面から向き合い、進めようとしているのが、内閣官房に設置されたこども政策の推進に係る有識者会議です。

以下、こども政策の推進に係る有識者会議(以下、こども政策有識者会議)の議論の特徴と、報告書(骨子案)の特徴をまとめていきます。

こども政策有識者会議の特徴1・子ども若者の意見が聞かれている

こども政策有識者会議の第1の特徴として、子ども若者の意見が聞かれていることが挙げられます。

こども政策有識者会議HPより
こども政策有識者会議HPより

こども政策有識者会議HPより
こども政策有識者会議HPより

限られた時間の中で、野田聖子大臣はじめ担当閣僚の思いや、実務を担う内閣官房の官僚たちの熱い行動力が理解できる取り組みです。

児童養護施設・里親施設などで育った子ども若者たち、子どもの権利の実現に取り組んできた子ども若者とたちに限定されてはいますが、子どもたちのこども政策や子ども基本法、そして日本の政治への期待が表明されていることは注目されます。

骨子案にもに内閣府・13-29 歳のユース特命報告員 170 名子ども若者の意見や思いが書き込まれています。

十分な形ではありませんが、限られた時間と人員で、なんとか子ども若者の声を反映させたいという関係者の思いの反映だと受け止められます。

すでに文部科学省、内閣府・子どもの貧困対策などでは、若者の参画・意見表明にも取り組んでいます。

今後、こども庁やこども政策だけでなく、国・地方のあらゆる分野で、子ども若者の参画や意見表明が実現されることにつながる、重要なステップとしても期待されます。

こども政策有識者会議の特徴2・子ども若者に丁寧に関わる大人・研究者が集まったチーム

この有識者会議のもうひとつの特徴は、有識者のメンバー構成にあります。

子ども若者に丁寧に関わる大人・研究者が集まったチームです。

構成員には、日本政府で子ども若者関係の政策や、教育政策の主要審議会の会長・座長など、経験も知見も豊かな研究者・実践者が集まっています。

より注目すべきなのは、臨時構成員です。

子ども若者に関わる支援団体のリーダーのうち30代を中心とする若い世代が、構成員に選ばれています。

東京だけでなく地方で活動する団体も含まれている点も重要です。

研究者も構成員メンバーにはない経済学、心理学分野の研究者などが選ばれており、政府DXの活用や、子どもに関する投資戦略など、実証的に、かつ子ども若者の最善の利益の実現のためにと思いのこもったプレゼンや発言がされています。

この素晴らしいチームは急ぎ結論を出さねばならない今回の有識者会議だけでなく、今後も国のこども政策の応援団として、引き続き政府の議論や政策に関与していっていただきたいと、期待しています。

こども政策有識者会議HPより
こども政策有識者会議HPより

また事務局からのヒアリングでは、39名もの多くの関係者も対象になっており、そのすべてが、子ども若者に寄り添う丁寧なアプローチを行ってきた大人なのです。

私もヒアリングで意見を申し述べています。

幼保一元化など大人の論理にすぎず、子ども若者自身のウェルビーイングや状況の改善のための仕組みを作ることが急がれることを述べています。

「こどもを守る」だけでなく「こどもと進める」ことの重要性も指摘しています。

こども政策有識者会議ホームページより
こども政策有識者会議ホームページより

こども政策有識者会議の報告書(骨子案)の特徴

さてこども政策有識者会議の報告書(骨子案)の特徴についてまとめます。

いちばん目をひくのは、今後のこども政策の基本理念です。

まず何よりも第一に、こども・子育て当事者の視点が強調されていることが注目されます。

1.こどもの視点、子育て当事者の視点に立った政策立案

2.全てのこどもの健やかな成長、Well-being の向上

3.誰ひとり取り残さず、抜け落ちることのない支援

4.こどもや家庭が抱える様々な複合する課題に対し、制度や組織による縦割りの壁、年度

の壁、年齢の壁を克服した切れ目ない包括的な支援

5.待ちの支援から、予防的な関わりを強化するとともに、必要なこども・家庭に支援が確

実に届くようプッシュ型支援、アウトリーチ型支援に転換

6.データ・統計を活用したエビデンスに基づく政策立案、PDCAサイクル(評価・改善)

政策の詳細はあきらかになっていませんが、「今後取り組むべきこども政策の柱と具体的な施策」としてライフステージ別に重要なトピックが網羅されている点は、評価できます。

1.結婚・妊娠・出産・子育てに夢や希望を感じられる社会を目指す

2.全てのこどもに、健やかで安全・安心に成長できる環境を提供する

3.成育環境に関わらず、誰ひとり取り残すことなく健やかな成長を保障する

とくに最終的な報告書が、どうなるか注目されるのは、以下の部分です。

4.政策を進めるに当たって共通の基盤となるもの

〇こどもの人権・権利の保障

〇必要な支援を必要な人に届けるための情報発信やアウトリーチ型・伴走型の支援

〇関係機関・団体間の連携ネットワークの強化

〇こども・家庭支援のためのデータベースの構築

〇こどもや家庭の支援に関わる人材の確保・育成、ケア

〇財源と人員体制の確保

4.にまとめられたトピックこそが、これまでの日本の政策の弱点でもありました。

こどもの人権・権利の保障については子ども基本法についても有識者会議では多くの委員が必要性を強調しています。

またアウトリーチ・伴走型支援をするにしても、今のように公務員としても非正規・低所得の雇用形態や、ケチなNPOへの委託予算などでは、優秀な人材の確保は難しい状況があります。

財源と人員の確保を含め、どのような提言が盛り込まれるのか、注目していく必要があります。

どうなるこども庁・こども政策?有識者会議以降の注目ポイントは子ども基本法と予算・人員

子ども若者の参画や子どもの権利を守る職(こどもコミッショナー)の実現も重要

最後に、今後の動きについて、どのようなポイントに注目すればよいか述べていきます。

11月中(遅くても12月上旬)には、こども政策有識者会議の報告書がまとまり公表されるはずです。

この時に注目すべきは、以下の内容がどのように盛り込まれているか、です。

・子どもの権利を守り進めるこども基本法

・こども政策を支える予算・人員

・子ども若者の参画の仕組み

・子どもの権利を守る職(こどもコミッショナー)

この提言を受けて国会にこども庁設置法が提出されるはずです。

こども庁発足の時期についても注目されます。

まこども庁発足が2023年春になるという報道もされていますが、なるべく早い発足が期待されます。

多くの心無い日本の大人たちから性暴力・人権侵害に遭ったり、いじめに悩んだり、不登校で置き去りにされている子ども・若者のことを考えれば、こども政策の推進には一刻の猶予もないからです。

私も子ども若者とともに考え、進んでいくための法・政策・予算の充実の取り組みをできる限り応援したいと思います。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

末冨芳の最近の記事