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こども政策が躍進した自民党総裁選!野田氏出馬・女性候補2名の意義、こどもまんなかの自民党議員は誰だ?

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
女性向け政治塾での野田聖子氏(写真:アフロ)

こども政策・若者政策を無視した総裁選はこれ以降、自民党には許されない

野田氏出馬・女性候補2名により躍進したこども政策

国民政党・自民党にとどまりたければ2021衆院選・2022参院選でも「こどもまんなか」への進化を見せよ

自民党総裁選もいよいよ明日が投開票日です。

子どもの貧困対策、教育政策の研究者として、かつてない関心をもって見守った総裁選でした。

9月16日の野田氏出馬表明、9月22日のこども政策公開討論会、9月26日の子ども・若者からの質問も受け付けた「国民の声に応える政策討論会」。

こども支出倍増に4候補全員が賛成しました。

短期間に、野田氏以外の候補(岸田氏、高市氏、河野氏)も、こども政策・若者政策や教育政策へのビジョン・具体策が「進歩」しました。

※末冨芳「【速報】「こどもまんなか」の総裁選討論会―予算倍増・こども庁・子どもの権利―脱子育て罰政党への進化?」(Yahoo!個人・2021年9月22日)

野田氏出馬だけではここまで政策論争は深まったかどうかと考えると、高市候補の存在の大きさも考慮すべきであろうと考えています。

両候補とも、児童手当や教育の無償化の所得制限拡充に総裁選の初期段階からふみこみ、そのことが男性候補2人の主張を引っ張り上げてきたという構図が確認できるからです。

なお今回の総裁選でだけ、こども政策・若者政策を大切にして済ませることは、もはや自民党には許されません。

超少子化はまったなしの課題です、大胆な政策が必要であるにもかかわらず、これまで通りのお手盛り政策で、日本という国家を消滅・衰退に導くのならば、それは保守政党と呼ぶに値する政党なのでしょうか。

とくに子育て世代の国民や超少子化を憂慮する支持者は、子ども関連支出倍増に賛成し、奨学金政策・子どもの人権・いじめ対策・虐待死ゼロ・子どもの貧困対策を進めることを、総裁選で明言した各候補のことを忘れることはないでしょう。

国民政党・自民党としての座にとどまりたければ2021衆院選・2022参院選でも「こどもまんなか」への進化を、予算増加と効果ある政策の充実で証明し続けることが必要です。

男性中心の政治は野党も同じ

性別にかかわらずマイノリティ政策(こども・若者・障害者・外国人・ジェンダー平等など)に献身する政治家はもっと増えなければならない

女性2名の総裁選の意義は、まだ研究者によって十分語られていないと、現状を把握しています。

女性政治家の役割や今回総裁選の意義や課題を考えるためにも、ジェンダー研究者、政治学研究者による分析・考察と発信は不可欠です。

※参考記事:朝日新聞「男性中心の自民は変わるか 総裁選の半数が女性『ようやく舞台に』」(2021年9月20日・有料)

わきまえる女批判も可能ではありますが、女性2名の出馬で、こども政策がこれほど政治の優先度において躍進するのであれば、女性の国会議員や女性の政治リーダーはもっと増えるべきだと、私自身は実感する機会にもなりました。

多くの野党も、幹部が男性中心であるジェンダー不平等の構造に変革をもたらせていません。

国会議員の女性比率は9.9%、11月に予定されている衆議院議員では10.1%に過ぎません。

衆議院ホームページより女性議員数()内
衆議院ホームページより女性議員数()内

衆議院の女性議員比率は、少ない順に以下の通りです(衆議院HPより筆者算出)。

自民(7.6%)<維新(9.1%)<立憲民主(13.3%)<公明(13.8%)<共産(25.0%)<国民民主(27.3%)。

自民党、日本維新の会が、特に女性議員比率の少ない酷い状況であることは一目瞭然です。

しかし立憲民主党や公明党も女性衆議院議員比率が2割に到達していません。

比較的女性議員の多い共産党・国民民主党も3割未満なのです。

野党も自民党を批判するのであれば、女性のリーダーを選ぶこと、女性議員を増やすことについて、党の姿勢を明確にし迅速に取り組み、すみやかに国会議員比率においてジェンダー平等を達成すべきでしょう。

また今回の自民党総裁選のように、女性リーダーが、こども政策やジェンダー平等政策、マイノリティ政策を推進する構図もおよそジェンダー平等とは言えません。

野田氏が問題提起してきた弱きもの、小さきものを排除する政治を日本で克服するためには、性別にかかわらずマイノリティ政策(こども・若者・障害者・外国人・ジェンダー平等など)に献身する政治家はもっと増えなければならない、私はそう考えます。

こどもまんなかの自民党議員は誰だ?

自民党を脱・子育て罰政党に進化させようとする議員は確実に増えている

ところで、総裁選後は衆議院選挙です。

私自身は、『子育て罰-「親子に冷たい日本を変えるには」』(光文社新書・桜井啓太氏との共著)において、与野党を問わず、子ども若者にも、親にもあたたかくやさしい日本に進化するには、子ども・若者に十分な財源を確保し、政策を充実させる議員に投票することがもっとも重要な手段であることを指摘しています。

また子どもの人権を尊重し実現する候補に投票することも重要です。

では誰に投票すればいいのでしょうか?

子育て罰』第5章にはすでにその実績を残されている主要政党・国会議員のお名前を具合的に紹介しています。

今回の総裁選で判明したのは、自民党の中にも、自民党を脱・子育て罰政党に進化させようとする「こどもまんなか」の議員が確実に増えているということです。

自民党だけでなく与野党含めた、子どもにやさしくあたたかい政党・候補者のリストの整備・公表は今後、私も進めていきたいと思います。

現時点で、私自身が注目している「こどもまんなか」の自民党議員は、以下のリストの方々です。

まず誰よりも、野田聖子氏であることは言うまでもありません。

総裁選の争点に、こども政策を据え、自民党のリーダーの条件を進化させた功績は、自民党議員こそ尊敬し感謝すべきだと考えます。

また野田氏出馬を追い風に、こども政策を総裁選のまんなかに躍進させた、立役者である、Children First の子ども行政のあり方勉強会呼びかけ人の国会議員です。

とくに勉強会を主催いただき、「こどもまんなか」の自民党への進化にご尽力いただいている山田太郎参議院議員、自見英子議員の思いは、こども政策公開討論会でも感じられた方もいたのではないでしょうか。

Children First子ども行政のあり方勉強会HPより
Children First子ども行政のあり方勉強会HPより

また野田聖子氏の総裁選立候補推薦人の中でも、こども政策や若者政策に実績ある議員に注目していく必要があります。

野田聖子氏総裁選立候補推薦人(日経新聞・産経新聞報道をもとに筆者作成)
野田聖子氏総裁選立候補推薦人(日経新聞・産経新聞報道をもとに筆者作成)

衆議院議員の木村弥生氏は子どもたちを性犯罪から守る日本版DBSの構築にご尽力いただいており、シングルマザーの貧困問題にも精力的に取り組んでいただいています。

また三原じゅん子厚労副大臣は、ふたり親世帯を含む困窮子育て世帯への給付金という歴史的なこども政策の進化にご尽力いただきました。

くわえて、閣僚として実績を残してきた議員にも注目する必要があります。

私自身は教育財政の研究者でもあるので、最近の文部科学大臣の実績を無視するわけにはいきません。

萩生田光一文部科学大臣は、小学校35人学級、児童生徒1人1台タブレットの配備等GIGAスクール政策で実績を残されています。

林芳正元文科大臣、柴山昌彦前文科大臣も、教育財源のそもそもの不足に立ち向かい、教育の無償化、GIGAスクール政策の種を撒き、育て、財源を確保してこられました。

子ども若者を思う気持ちとともに、政策手腕において、傑出した政治家ということができるでしょう。

9月24日の大臣会見で、萩生田光一文部科学大臣は総裁選について「候補の人たちがこういう時にかぎって随分こどもたちに理解を示してくれて、OECDの中でも教育・子ども支出が少ないと。私がいままで声を枯らして言ってきたことをいっていただいている」と述べておられます。

地道なご尽力に感謝申し上げます。

教員の性暴力、子どもの権利、「教育機会確保法」でフリースクールや夜間中学校のために尽力してこられた馳浩衆議院議員が首長選挙への転身をなさると報じられています。

これまでのご活動に感謝するとともに、個人的には「こどもまんなか」の政治家がひとり国政を去られることが残念でなりません。

おわりに:衆議院議員選挙でこそ、自民党は脱・子育て罰政党への本気を見せよ!

こども政策重視といっても、公明・立憲民主・共産党・国民民主党>>>自民党?

衆議院議員選挙はここからが本番です。

すでに公明党は、すべての子どもへの給付金支給、0-2歳保育・医療の無償化、教育の無償化の大幅な所得制限など、こども若者政策をきわめて重視した公約を発表しています。

国民民主党もいち早く、児童手当の増額・高校生延長、教育の無償化の拡充を明確にしています。

立憲民主党、共産党などの「野党連合」も、児童手当、教育の無償化等について、大幅に踏み込んだ公約を、打ち出してくるでしょう。

「こどもまんなか」の総裁選をたたかった自民党の新総裁が、ここで他党に劣る公約しか打ち出さないのだとすれば、結局は自民党は子育て罰政党のままだと、国民の失望の対象になるでしょう。

そうではなく、こども・若者を大切にする、大胆な公約を打ち出せば、日本は親子にあたたかくやさしい国になる、そのような希望と前向きな未来像を国民は持つことでしょう。

この国が親子だけでなくすべての人々にやさしくあたたかい国になれるかどうか、その命運は自由民主党こそが握っているといっても過言ではありません。

明日の総裁選、そして衆議院選挙の行方を私も見守ります。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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