Yahoo!ニュース

#夏休み延長 日本はまた子育て罰を親子に課すのか?命と学びは置き去り?#一斉休校 は最悪の選択

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
子供達にとって家が安全な場所だとは限らない(写真:アフロ)

1.感染状況が深刻になる中で、夏休み延長や休校が論じられているが・・・

総理・国に休校決定の権限はない

大人の人流を止めずに子どもだけ休校にしても効果は限定的では?

 感染状況が深刻になる中で、夏休み延長や休校が論じられています。

いわき市や相模原市などは8月中は夏休み延長という判断を下しています。

自民党コロナ対策本部も、夏休み延長を検討というTBS報道(8月19日)が流れましたが、そもそも自民党や総理・国に休校決定の権限はありません。

 2020年一斉休校も安倍総理からの「要請」にすぎませんでした。

 感染症対策の場合には、学校保健安全法の規定により、学校と教育委員会に決定権があります。

 実際には、首長・教育長や医療の専門家をまじえ新型コロナウイルス対策本部等で地域の感染状況を把握し、話し合いながら、各自治体で決定がされている場合が多いのではないでしょうか。

 2020年2月末にはびっくりして安倍総理のいうことをおとなしくきいた自治体でしたが、感染状況に応じて早期学校再開した鳥取県や島根県の例を記憶されている方も多いと思います。

 教育行政も他の行政と同様、日本国憲法に定める地方自治の本旨にもとづいておこなわれるべきだからです。

 緊急事態宣言の中でもたとえば2021年7月は休校しなかったのも各自治体での判断にもとづいています。

 議論はありますが大阪市のように給食を保障しつつ独自の学校運営を模索することも可能なのです。

 そもそも、大人の人流を止めずに子どもの集まる学校だけ休校にしても、どの程度の効果が見込まれるのでしょうか?

 また学校を開始して良い目安が設定されていなければ、子どもたちの命と学びが延々と犠牲になるだけです。

2.安倍総理による一斉休校の爪痕

日本は母親に子育て罰を与えた

虐待・性暴力・子ども若者の自殺

 一斉休校に強く反対するのは、2020年の安倍総理による一斉休校の爪痕が、親子にとってあまりに深いものだったからです。

 子ども・若者の自殺は2020年過去最悪になりました。

文部科学省「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」(2021年5月7日)
文部科学省「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」(2021年5月7日)

 子ども若者のメンタルストレスも深刻化したこともわかっています(兵庫県調査の報道国立成育医療センター2020年6月調査報告)。

 新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中で、子ども若者たちの不安や悩み、家族との軋轢やストレスが、子ども若者をずっと追い詰めているのです。

大阪府立大学の山野則子教授らの調査では安倍総理による一斉休校・緊急事態宣言により児童相談所では性的問題の相談が激増し、世帯の貧困も深刻化したことが分かっています。

 安倍総理は一斉休校によって子ども若者にあまりに深い傷を残し、子ども若者に謝罪することなく辞職しました。

 また子どものいる女性、つまり母親も職を失った、職を追われた人がたくさんいます。

 一斉休校の中では、子育て女性の失業が深刻になったことが、山口慎太郎東京大学教授らの分析でも判明しています。

内閣府「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会報告書」図表より
内閣府「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会報告書」図表より

 一斉休校で日本は母親に子育て罰を与えた、私はそうとらえています。

 子育て罰とは、OECDのChild Penaltyを桜井啓太さんが日本語に訳してくださったものです。

 簡単にいうと、子育てする母親が賃金上不利になる課題を表現した概念です。

 2021年7月に出版した『子育て罰』(末冨芳・桜井啓太,光文社新書)では、一斉休校の爪痕について桜井さんが次のように指摘なさっています。

 新型コロナ禍によって仕事を続けられなくなり、休職や離職をする。それが子育て世帯の女性に偏っているという点では、これも新型コロナ禍が引き起こした「子育て罰」といえるかもしれません。(『子育て罰』p.94)

3.子どもの命を守る夏休み延長・期間休校を

休校期間中の困窮世帯への食の保障

学校にも子どもの居場所を確保する

居場所も食も地域・民間連携で

 一斉休校の爪痕の深刻さがエビデンスとして明確になっているからこそ、一斉休校は子どもの命にとっても学びにとっても最悪の選択肢だと指摘しておきたいと思います。

 もちろん感染状況が深刻な校区や地域での学校閉鎖等は必要な措置です。

 夏休み延長や期間休校をやむを得ずする場合には、子どもの命を守る休校中の困窮世帯への食の保障や、虐待リスクのある児童生徒や家に一人でいたくない子ども若者のための居場所の確保が必要です。

 一斉休校期間中にも、私の関わるいくつかの学校・自治体で実は学校を子どもたちの居場所として心配な児童生徒の安全を確保していました。

 家庭が安全な場所ではない児童生徒も多い日本の厳しい実態に自治体・学校は向き合い対応をする必要があるはずです。

 場合によっては地域の学習支援団体、児童館、図書館・公民館などで分散して、ディスタンスを保ちながらの居場所の確保も可能です。

 教職員だけの見守り負担が大きくなってしまうことは避けなければなりません。

 スクールサポートスタッフや支援員の雇用経費などを地方自治体への臨時交付金等として国が支援することも重要でしょう。

 食の支援については、希望者のみ簡易な給食(昼食)を学校で提供するケースもあれば、民間事業者や子ども食堂、子ども宅食などとの連携で、お弁当などの配布をした自治体もあります。

 学校にだけ負担を押し付けるのではなく、地域や民間連携で、子どもの命を守れる自治体が増えることを願っています。

 国・自民党は一斉休校を要請したり検討する時間があれば、子どもたちの命を守る自治体の取り組みに財政措置をする方に時間を使って、さっさと財務省を説き伏せてください。

4.一斉休校は最悪の選択肢、学びの保障はすでに可能

分散登校等での二学期始業も可能

オンライン朝の会や丁寧な連絡の重要性

命を守らなくてはならない児童生徒の在宅学習という「新しい日常」

 繰り返します、一斉休校は最悪の選択肢です。

 すでにオンライン授業や、課題学習、分散登校のノウハウは学校に蓄積されているはずです。

 通信環境の不備からオンライン授業への完全移行は難しい自治体が多いことも分かってきています(時間帯によっては大学ですらオンライン授業を受けづらいときがあるくらいです)。

 生活習慣の維持、学習のルール(学習規範)の確立が学力低下の防止、場合によって回復につながることが、東日本大震災の経験からもわかっています。

 たとえば、二学期の始業式を分散登校にし、自宅でのオンライン学習や課題学習のルールを確認したり、オンラインでのつながり方を確認することで児童生徒の意欲を高めることもできるでしょう。

 またオンライン朝の会(終わりの会)などで、生活リズムを整え、その日の学習計画を考える時間を作ったり、教員や同級生同士のやりとりを続けることも、学びを支える取り組みとして重要です。

 一斉休校時に学習意欲が落ちていた子どもが、先生と電話で話したことで学習意欲を回復したという話を私も把握しています。

 タブレットやパソコンにこだわらず、課題学習であっても児童生徒との丁寧な連絡が学びの意欲を高めることにもなるのです

 すでにGIGAスクール構想で開始された児童生徒1人1台のタブレットはすべての自治体に配備されており、できないという学校・自治体の言い訳は成立しません

 また予防接種を受けてもデルタ株感染は防げないことがわかっている今、自分や家族に基礎疾患等があったり、エッセンシャルワーカーの家族(や家族の関わる患者さん)がいるご家庭では登校自体をためらうケースも少なくありません。

 命を守るために家庭での学習を希望する児童生徒に対応することも新型コロナウイルス収束までの「新しい日常」にしていくべきではないでしょうか。

 すでに福岡市熊本市ではオンライン授業への対応もされています。福岡市はオンライン授業を出席認定する方針も明確にしています。

 ただしオンライン授業と対面授業のハイブリッド配信は教職員の負担が大きくなります。教員やサポートスタッフの増員も財源措置が必要でしょう。

 あるいは全国の自治体と文科省が連携して、教科・単元別のオンラインコンテンツを配信し、拠点校などで在宅学習の子どもたちのフォローアップや評価をする方式など、様々な工夫が可能であるはずです。

5.政府・大人が感染症対策に失敗しているから、子ども若者が犠牲になっている

このことをわからない政治家・大人が子育て罰の加害者

 そもそも夏休み延長や一斉休校について論じなくてはならないのは、政府・大人が感染症対策に失敗しているからです。

 夏休み延長にせよ、一斉休校にせよ、子ども若者の命や学びを犠牲にする行為です。

 このことをわからない政治家・大人が子育て罰の加害者なのです。

 夏休みを延長をし無策で子どもを放り出す自治体・学校があるならば子育て罰の加害者です。

 また子どもたちの命や学びを守るために必要な財源措置や支援をしない政府も子育て罰の加害者です。

 そのような加害者が、今回は出現しないことを強く強く願っています。

 休校してもしなくても、子どもにやさしくあたたかい日本にむけて私たちは進化しなくてはなりません。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

末冨芳の最近の記事