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みんな幸せになっていい、無差別平等の原理、日本国憲法と生活保護の基本のキ #DaiGo氏差別発言

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:beauty_box/イメージマート)

DaiGo氏のヘイトスピーチが問題になっていますが、生活保護がなぜ重要で、どのような制度か実は知らない方も多いのではないでしょうか?

 ヘイトや差別の根本は、相手を知らない無知と、知ろうとしない傲慢さから生まれます。

 そうではなく、この機会に生活保護について、正しい理解をしていきませんか?

 ※第一弾記事はこちら「生活保護をためらわないで、失業疾患は社会の被災者、#生活保護はみんなの権利 #DaiGoさん差別発言

 生活保護制度にくわしいソーシャルワーカーの佐藤真紀さんに教えていただきました。

 佐藤さんは、シングルペアレント世帯や若者の支援に日々尽力されており、生活保護の利用につないだり、生活保護を受給している方たちにも寄り添った支援を続けておられます。

 以下、佐藤さんとのインタビューの内容をまとめました。

1.みんな幸せになっていい、基本的人権として誰もが幸福を追求する権利がある

 まず生活保護制度の前に、日本国民は、憲法第13条に定める幸福追求権を持っています。

 これは学校では教わることですが、具体的にどのようなことか、理解できていない人が多いのではないでしょうか。

 基本的人権として誰もが幸福を追求する権利がある、ということです。

 わかりやすくいうと「みんな幸せになっていい」、あなたも私も、ということです。

日本国憲法

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

2.だれもが生活保護を利用できる、無差別平等の原理

生活保護制度では自立を原理原則にはしていない

生きることをそのものを保障することが生活保護制度

 生活保護制度では、いくつかの大切な原理原則がありますが、その1つが無差別平等の原則です。

 無差別平等の原理とは、すべて国民は、生活保護法に定める要件を満たす限り、この法律の保護を、無差別平等に受けることができる、という権利になります。

 また、よく誤解されているのですが、生活保護制度には経済的自立をしていくことが大切(自立助長)で絶対であるという考え方は含まれていません

 ここで大切なのは自立とは経済的自立のみをさしません。自分で自分の人生を決定し、幸せを追求するということです。

 生活保護の対象者には高齢者世帯や、障害者、疾病を持つ人々なども含まれており、経済的自立を原則にしてしまうことで、そのような方々への差別につながってしまう危険な面があるからです。

 逆にいえば、自立すべきだという無意識の前提を他人に抱いてしまっており、それがDaigoさんのヘイト発言につながっている面もあると思います。

 強調したいのは、生活保護制度に自立しないといけない原則はどこにもないということです。

 もちろん働ける人は働きましょう、というルールもありますが、働きたくても働けない人たちが利用するのが生活保護制度でもあり、政府・自治体が就労を強制することなどありえません。

3.はたらきながら生活保護を受けることもできる、貯蓄もできる

困難な人同士がたたき合うより、積極的に生活保護制度を利用するほうが幸せになる人が増える

 低所得の人やシングルペアレントが、生活保護を受けている人たちをバッシングする悲しい構図がありますが、それでは誰も幸せになりません。

 むしろ生活保護制度を積極的に使ってください、というのが私のアプローチの基本にあります。

 これも、知られてはいないことですが、はたらきながら生活保護を受けることもできる、貯蓄もできます。

 これは最低生活保障の原理、という生活保護制度のルールにもとづくものです。

 たとえば全国で一番受給金額が高い東京23区(一級地の1)の母1人(20歳から40歳)、子ども1人(3歳から5歳)の世帯では、最低生活費である月収約21万円(うち6.4万円は住居費で、住居費が下回る場合は減額されますし、諸条件で変動があります)に不足する金額が支給されます。

 生活保護制度は、補足性の原理という足りない部分を補うというルールなので、働いていても低所得で苦しい場合には、受給できるのです。

 医療費や義務教育に要する経費、NHK受信料などが免除されます。

 こうして生まれた生活のゆとりが気持ちのゆとりになり、前向きな気持ちを心の中に貯蓄していくことが可能になります。

 また生活保護では貯金が許されないというのも誤解です。

生活保護世帯でも、現実に保護費から貯金できる、できないという課題はありますが貯蓄は可能です。

 ※金額は個別対応になる場合があります。

 これは、たとえば生活保護費に含まれていない電動自転車の購入費や、将来の子どもの進学に備えた学資資金などに充てることもできます。

 パソコンやテレビも購入できます。

 また生活保護では、条件を少し整える必要がありますが家電なども、決まった金額の中で購入することもできます。  

 たとえばエアコンは工事費込みで5.4万円以内というルール(東京23区の場合)がありますが、大手量販店なら型落ち品で購入が可能なのです。

 ※詳しくは福祉事務所や支援者にお問い合わせください。

 この貯蓄は、生活保護をやめられる状態になっても、自治体や政府が取り上げず、そのまま家計で使うことができます。

 正規社員での就職が決まれば生活保護は打ち切られるというのも誤解です。

 実際には、安定した就労に移行できるか見守りの期間があり、仕事が合わなくてやめた場合には生活保護が再開できます。

 また、正社員で働いていたとしても、最低生活費に満たない収入の場合、受給は継続されます。

 地方では生活保護世帯は原則として車を持てないので、受給をためらう人が多いですが、車も地方での生存権や最低生活保障に必要なものでもあるので、その点はすみやかな制度の改善が必要だと思います。

4.お金以外のサポートも大事

暮らしを支える伴走型支援がしたくてもできない実態

 実際に生活保護世帯の支援をしていると痛感するのは、生活保護制度はお金の支援。これはとても大事だけれど、お金以外のサポートも大事だということです。

 日本の行政は、公務員数を削りすぎており、困ったときに相談して一緒に考えたり動いてくれる人があまりに不足しています。

 そのため自治体も私のような民間のソーシャルワーカーも暮らしを支える伴走型支援がしたくてもできない実態があります。

 地域の民生委員、児童委員もとくに若い世代の生活保護受給者にあまり関わっていません。

 民生委員、児童委員も、生活保護世帯の6割を占める高齢者世帯への対応でていっぱいなのです。

 生活保護を受ける子育て世帯は、訪問すらされていない家庭も多くあります。

 自治体の子ども家庭支援センターも人員不足で、生活保護世帯の開始時点で手厚い支援というわけにはいきません。

 お金だけでなく、暮らしを支えるための伴走型支援があることで、前向きになれる家族は多いはずですが、手が回らないのです。

 たとえば、親が重度の鬱などで朝起きられない世帯もあります。

 親子を起こして、子どもと朝ごはんを食べて学校に行くところまで付き添ったりして少しずつ生活習慣を整えたり、服薬のサポートをすることも、生活を前向きにしていくためには大切です。

 また買い物に行けない世帯のために、食料を届けてくれる、掃除してくれる、就職活動をしているときに子どもを見てくれるベビーシッターなどのエッセンシャルワーカーも不足しています。

 これらの制度は自治体のファミリーサポート事業で利用することもできますが、有料や事前申込制なので、突発的な体調不良の時など、一番使いたいときに思うように利用できません。

 低所得で要介護状態の高齢者や障碍者世帯は無料で生活面での支援を受けることができるので、制度の改善の余地を感じます。

 生活保護を受けていない低所得層向けの生活困窮者自立支援事業で受けられる支援メニューについては、生活保護世帯は子どもたちの学習支援事業を除き多くが利用できません。

 制度のバリアが存在し、せっかく自治体に支援のメニューがあっても、生活保護世帯だと利用できないという状況が発生しています。

5.生活保護につながることは、死から遠ざかること

生活保護を受けなくてよかったという人はいない

 生活保護の受給者をバッシングする前に、生活保護によって死から遠ざかった人々がたくさんいることは知っておいてください。

 私が関わっている人たちで、生活保護を受けなくてよかったという人はいません。

 たとえばシングルペアレント世帯の場合、食事すらできない、明日の命も見えない状態で、このまま放置すれば親子の死が予測でき、子どもへの深刻な虐待も起きてしまう、それが生活保護を受けていない状況での日常なのです。

 しかし、生活保護生活を受給して、衣食住を立て直すことができます。就労につながるために教育訓練を開始したり、合わなくて休んだり、やめたりと、行動することや失敗することが許される状況になります。

死と隣り合わせの状態から一段、生の階段をのぼることができます。

 もちろん生活保護を受給することも当事者にとっては苦しいことなのです。

 「生かされている」、という言葉を口にする受給者もいます。

 ほんとうなら自分で働いて子どもを育てないといけない、国のお金で生活していて苦しい、そんなことを考えながら日々を生きているのです。

 とくに支援をするソーシャルワーカーとして心がけているのは、生活保護受給者、児童虐待のハイリスク家庭のようなある特徴的なキーワード、フレームにそった問題解決の視点だけでとらえていると、その人たちが幸福の階段をあがっていくことを支えられないということです。

 DVから逃れて来たり、学校や職場でひどい目に遭い続け頑張る気持ちも奪われていたり、心身の疾患に悩んでいたり。

「生かされている」とつぶやかなければならない心苦しさをつねに抱えていたり。

だからこそ、その人、その家族の悩みや課題、それだけでなく楽しみや前向きさを、人と人としてとらえていくことが大切だと考えています。

それが「みんな幸せになっていい」この国のルールを実現していく基本だと思っています。

おわりに:自立というプレッシャーをかけないことが自立につながる

 ヘイト発言の根っこには、日本社会に根強い自立イデオロギーがあるととらえています。

 頑張れる環境にめぐまれた努力家ほど自立イデオロギーを簡単に他人に押し付けます。

 しかし24時間365日がんばる、そうする人こそ偉いと思う社会のほうがおかしいのではないでしょうか。

 私自身も生活保護世帯の人たちと関わっていると、せっかく朝起きられるようになったと思ったら、すぐ不規則な生活習慣に戻る、教育訓練をはじめたのに時々さぼる、など少し腹が立つときもあります。

 これは私が未熟で、ソーシャルワーカーの多くはそうではないのですが。

 しかし、頑張る気力すら奪われてきたり、心身の疾患により朝起きたくても起きるのが難しい人たちでもあります。

 ちょっとぐらい自堕落な生活でもいいんだよ、社会ってそういう状態でいいんだよ、と思って関わり続けるほうが、結局は、生活保護世帯の自立にもつながります。

 わかりやすくいうと自立というプレッシャーをかけないことが心の余裕にもつながり、しいては自立につながるのです。

 自立イデオロギーを無意識に持っている人ほど、自分の価値観を人に押し付けます。

 生活保護世帯のことがわからない、知らない、だからからこわいという気持ちが生じてしまうことは理解できます。

 でも、違う価値観で生きてる人を否定しないでほしい、というのが日本の大人にお願いしたいことです。

 また低所得世帯やシングルペアレントが、生活保護受給者をバッシングする悲しい現象が見られますが、そのようなバッシングに意味はないとも思います。

 お互いにたたきあいおとしめ合う社会では誰も幸せになりません。

 自分と違うからって批判したり攻撃するのはやめたほうが良いと思います。

 自分と違うからといって批判する権利は誰にもない、基本的人権がお互いに守られているというのはそういうことです。

 「みんな幸せになっていい」社会であるためには、あらゆる人がお互いの価値観を否定されず、またギリギリで頑張り続けるのではなく、少しゆとりのある生活を実現していくことが大事だと思っています。

 生活保護世帯なのに、外食をしているとバッシングする人すらいますが、それではあなた自身の生活が苦しくなったときに外食すら許されない社会を実現することにしかなりません。

 そうではなく、生活保護世帯の人達だって、私たちだって、時々ケーキや焼き肉、お寿司を食べていい。

 生活保護世帯の女子高生がスマホを持っていたとバッシングされた事件もありましたが、若者にとってはいまやスマホは学ぶため、友達と友情をはぐくむためのライフラインです。

 スマホだって必要だよね、できれば通信費安くなるといいよね、のように考えられるほうが、自分も見知らぬ生活困窮者であっても幸せにつながる発想ではないでしょうか。

 私自身は、生活保護世帯含め、困窮した若者や親子が前向きになり、生活を立て直していくためには、少しだけでいいからゆとりのある中で、心のエネルギーを貯金していくステップが欠かせないと思っています。

 バッシングは、大変な状況の人々が前向きになっていくための心の貯金を奪う行為でもあります。

 幸福追求権を憲法に定める我が国では「誰かが幸せになる」ことをとがめる権利は誰にもありません。

 「みんなが幸せになる社会」では、あなた自身が幸せになることが尊重されます。

 同様に、「誰かが幸せになる」ことも尊重してください。

 生活保護世帯であろうがなかろうが、誰かが幸せになる、心の貯金をためていくことを邪魔せず見守れる社会が、「みんなが幸せになる」日本だと思います。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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