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【No!子育て罰】児童手当廃止で超少子化加速&子ども差別でいいのか?【総理と財務省は明石市に学べ】

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
雨の中を裸足で歩く子ども(写真:アフロ)

1.ひろがる子育て罰の厳罰化への批判

日本の子育て支援は「世界的に見ても貧弱」

 菅総理と財務省は、中・高所得世帯向けの児童手当特例給付を廃止・減額したうえで、所得基準を夫婦合算に変更して、その財源を待機児童解消にあてようとしています。

 子育て罰という言葉に驚かれた方も多いかと存じますが、日本はこの少子化の中で一生懸命働き、子どもを育てる人々ほど所得にかかわらず負担が大きくなり、受益が少なくなるという深刻な構造的な課題があります。

東京新聞のご協力により画像を掲載しております・東京新聞11月14日記事より
東京新聞のご協力により画像を掲載しております・東京新聞11月14日記事より

 【子育て罰の厳罰化】児童手当の特例給付を削って待機児童対策にあてる日本では、少子化解消しない(11月8日記事)は、大きな反響を呼びました。

 私だけでなく、財務省・財務総合政策研究所で少子化対策について提言しておられる研究者も、児童手当の特例給付廃止には否定的です。

  

「日本の少子化はもはや単体の政策で効くような状況ではない。個々の政策ではなく、少子化対策のパッケージとして捉え、経済的な負担を取り除く必要がある。児童手当や保育所の整備を含む支援策が、合計特殊出生率を上げたとする実証研究は世界中にある」

出典:世界的に見ても貧弱な少子化対策 日本は子育て支援増額を 東大・山口慎太郎教授インタビュー(東京新聞11月30日記事)

高所得世帯向けの特例が廃止されれば、若者世代がもらえたはずの手当がなくなるんだと萎縮し、第2子、第3子はやめておこうとなる。少子化対策には完全に逆行する。予算を削るのではなく、全体を底上げすべきだ。

出典:児童手当、高所得世帯の廃止を検討 「夫婦の合計」に変更、対象絞り込む・山田昌弘都央大学教授コメント(東京新聞11月14日記事)

 とくに家族経済学の第一線の研究者である山口慎太郎さんは、記事の中で「日本は世界的に見ても少子化対策にかけるお金が貧弱」と指摘しておられます。

 

 今回の児童手当の特例給付廃止は、そもそも貧弱な子育て世代への財源を削ってしまうという意味で、少子化対策に逆行するどころか、超少子化を加速させてしまう愚策なのではないでしょうか。

2.「子育て罰の厳罰化」の菅政権でいいのか?

むしろ児童手当も教育の無償化も低所得世帯加算増&所得制限緩和ではないのか?

 図1は政府による家族関係支出が増えれば、出生率が増えるという関係をあらわしたものです。

 財務省の研究機関である財務総合政策研究所で、山口慎太郎東京大学教授によって報告された資料です。

 国際的にみて日本政府の家族関係支出は、とても少なく、少子化も深刻な状況であることが確認されています。

財務省・財務総研・2020年11月10日・山口慎太郎氏報告資料より
財務省・財務総研・2020年11月10日・山口慎太郎氏報告資料より

 であるとするならば、日本政府がとるべきなのは、児童手当の特例給付の廃止どころではなく、むしろ子育て支援全般を手厚くする政策なのではないでしょうか?

 あらゆる子どもに基礎的な児童手当を支給しつつ、児童手当も教育の無償化も低所得世帯に手厚く加算をしたり、高校無償化や大学無償化の所得制限緩和をしていくことが必要なのではないでしょうか。

 

 貧弱な日本の子ども・子育て支援という現実から菅総理や財務省は目を背けているのでしょうか?

3.子育て罰の厳罰化でさらに1万人の子どもの生命が消える!?

少なくとも100万人の子どもをゼロ支援で放り出す菅政権?

 

 児童手当の特例給付廃止と夫婦合算への移行により100万人の子どもたちが、児童手当を奪われることになるそうです。

 これらの子どもたちが成長しても、高校無償化や日本学生支援機構・貸与奨学金すら借りられません。

 少子化の中で100万人のゼロ支援の子どもが日本社会に誕生してしまいます。

 政府が児童手当の特例給付を廃止し、子育て罰の厳罰化をしてしまうなら、削減対象となる年収960万円以上の子育て世帯が多く住む都市部を中心に、出生数が激減することも想定しなければなりません。

 ごく簡便な推計ですが、現在の少子化の状況が悪化し、さらに1万人の子どもの生命が消える可能性もあります。

 昨年度の出生数が約90万人、夫婦合算で年収960万円以上の世帯が10%と仮定します。

 (人口問題や統計学の専門家の緻密な推計もお待ちしております。)

 そのうえで 厚生労働省21世紀出生時縦断調査から、2010年~2015年の間にきょうだい数がどのように変化したのかのデータを参照します。

 この調査は、2010年生まれの子どもの保護者が、年1回ずつ回答するアンケートを縦断調査という手法で行われており、子育て世帯のリアルなきょうだい数の変化が把握できます。

 (残念ながら公開されている報告書では、所得データが不明です。)

厚生労働省21世紀出生児縦断調査より
厚生労働省21世紀出生児縦断調査より

 2010年にひとりっ子は48.8%でしたが、2015年には16.3%に減少しています。

 つまり32.5%の保護者に2人目・3人目が生まれています。

 もしコロナ禍の中で、児童手当の特例給付廃止が実行されてしまえば、支援の少なさにより子どもの将来を悲観する保護者たちは第2子・第3子を産まなくなってしまうでしょう。

 2019年に生まれた子どもの保護者のうち、3割が第2子・第3子(以降)をあきらめてしまうシナリオを考えましょう。

 つまりひとりっ子の比率が30%となる社会が到来するという仮定を置きます。

 この場合、2010年生まれ世代と比較して、ひとりっ子比率は13%増加するということになりますので、その分が児童手当廃止が無ければ本来生まれたはずの子どもの数ということになります。

 (緻密な計算では第2子、第3子・第3子以降の出生確率もモデルに組み込むことになります。またこの推計は厚労省調査をベースにしているので2019年⇒2023年の5年間での出生数減少を考えるごく簡易な推計となります。)

 2019年に生まれた約90万人の子ども×中高所得世帯10%×失われる出生数13%=11,700人

 あくまで例えば、のシナリオですが、中高所得世帯に厳しい政策をとるだけで、少子化の中でも本来生まれるはずだった子どもの生命1万人が失われてしまう可能性すら想定されなければならないのです。

 少子化解消のためには、むしろ所得にかかわらず、いかに第2子・第3子以降を育てるカップルを増やすかを考えなければいけない日本です。

 財務省はこのような超少子化加速のリスクをふまえて、特例給付廃止を提言しているのでしょうか?

4.ではどうすればいいのか?

菅総理と財務省は明石市に学んでください

 子育て罰国家の日本ですが、出生数・出生率ともに回復している自治体はちゃんとあります。

 実は安倍政権下での官邸でも、出生率が比較的高い市町村や、出生数や出生率の向上を実現している市町村の検証をしていたのです。

 出生数や出生率の向上を実現している自治体には以下の共通点があるそうです。

若い世代(男女)が、安心して結婚し、子どもを産み育てるために、(1)家庭・子育てと仕事とを「両立」しやすい環境であること、(2)「経済」的な安定が得られる就業・生活環境であること(※)、がポイントと考えられた。

(※)単なる所得の高さだけでなく、必要なときに仕事が得やすい、生活環境との関係で将来の見通しが立てやすい、不安感があまりないといったこと。

出典:内閣府・内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「出生数や出生率の向上に関する事例集」(平成31年3月)

 こうした取り組みをしている自治体の中でも、出生率が1.7と全国平均を大きく上回る明石市の取り組みは注目されます。

 5つの無償化、と呼ばれる充実した支援策が、出生率回復のポイントになっているのです。

 (1)中学生の学校給食無料

 (2)保育料が第二子以降完全無料

 (3)医療費が15歳まで完全無料(⇒11月に高3まで完全無償化の方針決定)

 (4)公共施設の遊び場が親子とも無料

 (5)満1歳までおむつ無料

兵庫・明石市独自「5つの無料化」が話題沸騰 市長は「市民が誇り持てる街づくりのために」(ニュースサイトしらべえ・2020年9月8日記事に一部加筆)

 明石市の子育て支援の一番の特徴は、所得制限がないことです。

 すべての子どもに支援をしたうえで、低所得層やひとり親世帯への支援はいっそう手厚くする、これが出生率・出生数ともに回復をさせる基本にあるのです。

 親の所得で子どもたちを差別・分断し、支援を受けられなくする財務省の発想と対極にあることは明白です。

 

 菅総理、そして財務省のみなさん、真剣に少子化対策をしたいのならば、実績ある自治体の取り組みに学んでください!

 それがこの国の未来をひらく唯一最善の選択肢ではないでしょうか。

最後に:財務省・自民党は日本国の未来のために「児童手当の特例給付廃止」を放棄する必要がある

 最後に警鐘を鳴らしておきますが、財務省・自民党は「児童手当の特例給付廃止」を言うだけで、本当は生まれるはずだった子どもの生命が日本から消えていくことに厳しい自覚をもってください。

 日本の子育て世帯は、大学までの教育費を親が負担する親負担ルールのもとで、若いカップルたちも注意深く出産のタイミングや子ども数を決定しています。

 だからこそ、稼ぐほど支援が削られる子育て罰の厳罰化となる「児童手当の特例給付廃止」は、新聞やテレビの報道で流すだけで、出産を断念させる大いなる負の効果を発生させてしまうのです。

 日本の少子化を改善させたいのなら、「児童手当の特例給付廃止」は放棄し、二度と実現しようとしない方が得策でしょう

 菅総理、財務省、あなたたちのいますることは、子ども・若者支援政策の充実と、そのための財源がいかにあるべきかを国民と真剣に対話することのはずです。 

 

 子どもを持つ人もそうでない人も、高齢者も、多くの人が少子化を憂慮する日本で、国民との対話と合意形成は決して実現不可能なものではないのです。

 すべての子どもを大切にする政治家がこの国のリーダーであってほしい、そう強く願わずにはいられません

 

※続編記事が大幅に遅れ申し訳ありませんでした。

※前編記事はこちらから

【子育て罰の厳罰化】児童手当の特例給付を削って待機児童対策にあてる日本では、少子化解消しない

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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