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【いま子どもの貧困対策に必要なこと・3】安倍政権の一斉休校が子どもに与えた影響を調査し、説明責任を!

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:アフロ)

 2月27日の突然の一斉休校宣言、安倍前総理と、側近の今井前補佐官による独断であったことが報道されています。

 首相独断、官邸に亀裂 一斉休校要請 菅氏らに不信?決定から除外

 子ども若者や、教育をつかさどる文部科学省の抵抗をも振り切って実施した一斉休校、そして休校の長期化。

 その中で、給食すら食べられない子どもたちを締め出した教育委員会・学校、子どもたちに外で遊ぶな、マスクをしろと脅かす大人たち。

 

 子どもたちが「心のコロナ」に侵され、それを置き去りにした日本社会に対し、私は悲しみと憤りを込めて、この記事を書きました。

 

 【心のコロナは癒せるか?】子ども・若者の声を聞こう!日本の未来のために【学校・友達・お金】

 

 安部前総理、今井前補佐官、そして日本の子どもたちに心無い仕打ちをした大人のみなさん。

 みなさんは、子どもたち若者たちの心の叫びに、どのような説明責任を果たせるのですか?

 何も説明しないまま、一斉休校を子どもに強いたまま、「心のコロナ」を治癒させないつもりですか?

 

「心のコロナにかかっている」

「私たちの気持ちを一体誰がわかるんですか?」

「早く学校に行きたい」

「コロナにかかるのがこわい」

「お金のサポートがほしい」

「一斉休校で失われた教育機会に見合った成果があったのか、専門家が調査して説明してほしい」

 コロナ災害の中で、子ども・若者たちが発している声のほんの一部です。

出典:https://news.yahoo.co.jp/byline/suetomikaori/20200505-00177121/

 

 一斉休校の中で「心のコロナ」だけでなく、学習時間やオンライン学習環境の格差など、さらに深刻な事態が子ども若者を襲ったことも、研究者の分析、民間シンクタンク調査、非営利団体調査からあきらかになっています。

 2月27日の一斉休校宣言時に、安倍前総理は「こうした措置に伴って生じるさまざまな課題に対しては政府として責任をもって対応していく」と明言しておられます。

 だとすればいま必要なのは、一斉休校の影響を政府が調査し、子ども若者に生じた課題を明らかにし、責任をもって対応することです。

 とくに貧困世帯の子どもたちは、食事もままならず、学びもままならない状態でした。

 

 また政権は一斉休校がほんとうに新型コロナウイルス感染症拡大予防にとって有効であったのか、専門家による検証を実施する必要があります。

 政治が、子ども若者たちへの説明責任を果たすことから逃げて良いのでしょうか?

 以下、意見書の内容を紹介します。

(1)一斉休校・緊急事態宣言による休校期間中の困窮世帯の子ども・若者の生活・学習状況格差の検証

長期休校の疫学的効果の検証と説明責任の遂行

 2月27日の安倍前総理による突然の一斉休校宣言、その後の緊急事態宣言によるさらなる休校長期化によって、3か月もの間、学校での学びの機会が奪われ、女性保護者を中心に職を失った方も少なくありません。

 2月27日の一斉休校宣言時に、安倍前総理は「こうした措置に伴って生じるさまざまな課題に対しては政府として責任をもって対応していく」と明言しておられます。

 

 とくに困窮世帯の子どもたちは食事もままならず(しんぐるまざあず・ふぉーらむ2020)、オンライン学習環境も整わない世帯も相対的に多く、学習時間も短い傾向にあったことが内閣府調査の研究者による再分析(多喜・松岡2019,p.4,上図)、民間調査では明らかにされています(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,p.4,下図)。

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 しかしながら政府による困窮世帯に対する調査は行われておらず、子ども・若者への長期休校の与えた影響についてはあきらかにされていません。

 「さまざまな課題」をあきらかにし、「政府として責任をもって対応」いただくためにも、すみやかな実態把握をお願いいたします

(1)a 不登校等、生徒の心身の不調のニーズ等の調査や対策を

 あわせて新型コロナウイルスへの感染の不安、一斉休校期間中の生活リズムの不安定化により、不登校児童生徒も増加傾向にあるのではないかとの懸念を持っております、実際に関わっております学校現場でも、中高生世代を中心に不登校生徒数が昨年度より増加しているとの懸念も多く寄せられております。

 以上の状況をふまえ、長期休校の子ども・若者や子育て世帯への与えた影響を調査する必要があります。

具体的には、困窮世帯の子ども・若者の生活環境、心身の健康・学習時間・学習環境格差等の検証、現在の世帯の困窮度や支援ニーズの調査が急がれます。

 また学校現場で把握されております児童生徒の心身の不調や支援ニーズをあきらかにし、今年度の政府予備費や来年度予算編成において、対応をいただきますようお願い申し上げます。

子ども・若者の間で貧困による格差が拡大しないよう、迅速かつ着実な対策を講じることは、政府の役割であるはずです。

(1)b 政府は一斉休校・長期休校の疫学的検証と子ども若者への説明責任の遂行を!

 くわえて一斉休校、長期休校が本当に感染症対策として有効であったのかどうか、政府としての疫学的な検証も必要と考えます。冬場に予測される新型コロナウイルスやインフルエンザ等の感染症対策のためにも必要な検証です。

とりわけ休校の当事者でもあり、長期休校の中でつらい思いをしてきた子ども・若者そして保護者への説明責任を果たすためにも必ず検証が実施されるべきであると考えます。

※見出し番号等は、記事にあわせて修正しています。

引用参考文献

●しんぐるまざあず・ふぉーらむ,2020,「新型コロナウイルスの影響によるシングルマザーの就労・生活調査」結果速報レポート

https://www.single-mama.com/topics/200828kaiken/

●多喜弘文・松岡亮二,2020,「新型コロナ禍におけるオンライン教育と機会の不平等―内閣府調査の個票データを用いた分析から―」

●三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2020,『新型コロナウイルス感染症によって拡大する教育格差;独自アンケートを用いた雇用・所得と臨時休校の影響分析』

https://www.murc.jp/report/rc/policy_rearch/politics/seiken_200821/

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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