終身雇用の代わりに会社が社員に与えられる「安定」とは~令和時代に求められるポータブルスキル~

(写真:アフロ)

こんにちは。アクシス株式会社・転職エージェントの末永です。

中途の人材採用支援をしつつ、月20万人以上の読者を持つ「すべらない転職」という転職メディアを運営している中で、Yahooニュース上では2013年から「働き方3.0」というテーマでキャリアや雇用分野について発信させてもらっています。

久しぶりの更新となってしまいましたが、今回は経済界トップが語った終身雇用の崩壊についてのニュースについて取り上げてみたいと思います。

終身雇用の崩壊と人材の流動化

経済界トップが語った「終身雇用の崩壊」

先日、終身雇用の崩壊について経済界のトップが連日発言したことがネット上の波紋を呼んでいますね。経団連の中西宏明氏は4月19日、「正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです」と、豊田自動車の豊田章男氏は5月13日、「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言しました。

トヨタ自動車の豊田章男社長の終身雇用に関する発言が話題を呼んでいる。13日の日本自動車工業会の会長会見で「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べた。

出典:「終身雇用難しい」トヨタ社長発言でパンドラの箱開くか

終身雇用は、企業に勤める社員に対し、経済的安定だけでなく精神的安定を与えていたと考えられます。

これまで終身雇用が与えてくれていたのは、老後までの見立てが立つ経済的安定だけではありません。自分自身で専門的なキャリアを磨くなどの努力をしなくても、この会社が定年まで面倒をみてくれるという精神的な安心感がありました。

バブル崩壊以降、終身雇用はいずれ崩壊すると言われていました。しかし、今回のように経済界のトップが実際に発言したのは初めてです。終身雇用崩壊のニュースは、経済的安定以上に精神的安定を脅かしているのではないでしょうか。

進む人材の流動化

1つの企業で働き続けることが難しくなった今、人材の流動化が進んでいます。4月27日付の日本経済新聞朝刊で、2018年の転職者数は17年比5.8%増の329万人と、8年連続で増加している現状が伝えられました。

日本では転職率は欧米に比べると低く、1つの企業に長期にわたって勤務し続けるという働き方を好む人が大多数でした。しかし、終身雇用の崩壊についてのニュースが連日報道され、「人材の流動化」の動きがさらに高まっていくと考えています。

というのも、やりがいは感じられずとも経済的安定を得るために「安定企業」で働いていた人材が、今、終身雇用の担保されない企業で働くという意義を見出せなくなっていくと考えられるからです。個人の自己実現のためのキャリアが広がりを見せていくとも考えられます。

社内価値ではなく市場価値を高める時代

人材の流動化が進むと、社内における評価つまり社内価値は重要ではなくなります。代わりに、市場価値が大切になってきます。市場価値とは、労働市場での価値ということです。なぜこれが重要になるかというと、中途市場では、「どの会社の人か」ではなく「何ができるか」という観点でみられるようになるからです。

ビジネスパーソン自身がキャリアを開発する姿勢を持つことが大切なのはもちろんです。しかし、企業側が社員に対して終身雇用という「安定」を与えられなくなった今、「終身雇用の代わりに企業が何を社員に与えられるのか」の議論をすることが大切である、と若者トレンドに詳しい原田曜平・サイバーエージェント次世代生活研究所所長は語っています。では、終身雇用の代わりに企業は何を社員に与えられるのでしょうか。

終身雇用の代わりにポータブルスキルを与える

中途採用や転職支援の現場で日々仕事をしている身として私は、終身雇用の代わりに企業が社員に与えられるものはポータブルスキルの育成だと考えています。従来、会社に終身雇用されるにより得ていた「安定」を、ビジネスパーソン自身のポータブルスキルに置き換えるということです。

ポータブルスキルとは、その言葉通り、特定の業種・職種・時代背景にとらわれない能力のことです。一般社団法人「人材サービス産業協議会」によると、3つに分けられます。

  1. 専門知識・技術
  2. 仕事の仕方(対課題)
  3. 人との関わり方(対人)
ポータブルスキルの構成要素(引用元:厚生労働省「”ポータブルスキル”活用研修」)
ポータブルスキルの構成要素(引用元:厚生労働省「”ポータブルスキル”活用研修」)

一般社団法人人材サービス産業協議会の調査によると、中途採用で転職者を受け入れた企業に、入社後に活躍している人の属性をインタビューしたところ、「同業種・同職種」出身の人も、「異業種・異職種」出身の全くの未経験者も、ほとんど活躍度合いに変わりがないことが明らかになったそうです。専門的な知識や経験をたくさん持っているからといって、転職後の活躍が期待できるものではないということです。

むしろ、そのような時代になるからこそ、同じスキルでも、専門知識や専門スキルではなく、自分の中のポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)を理解し、活用することが重要になるのではないでしょうか。

出典:終身雇用なき時代の転職 新しい前提は「長く、いろいろな職場で働くこと」

長年転職エージェントとして活動してきた中で、転職者側が転職先を考える際、未経験の他業種・他職種に転職したいと考える人がほとんどです。それに対し、求人企業側は中途採用=即戦力・経験者採用を前提に間口を絞り込みがちです。しかし、これからの労働人口減少の流れや、大手の終身雇用崩壊による人材流動化の流れの中では、上記に示したようなポータブルスキルをベースとして人がより多様な業界や職種に転職していく事になるかもしれません。

ポータブルスキルの育成に必要な「定義づけ」

ポータブルスキルの育成として主に考えられるのは、一般的には研修サービスだと考えられます。現在では、厚生労働省が「”ポータブルスキル”活用研修」を開発しているだけでなく、様々な民間企業で人材教育・研修サービスを行なっています。

しかし、研修サービスのみで本当にポータブルスキルは身につくものなのでしょうか。

NewsPicksのキャリアショック特集の「【直撃】経団連・中西会長、「終身雇用は限界」発言の真意」の記事によると、中西氏は、自身が会長を務める日立において、人材マネジメントシステム「Workday」を導入し、全社員に対して「自分が出来ることをどんどん入れなさい」と指示したがあまり書き込まなかったと語っています。これはもちろん日本独特の、自分のできることを大きな声で発言しないという文化による影響もあると思います。しかし、これまで明確なキャリア戦略を持たないまま何度も会社都合による人事異動を重ねた現場の社員が、自分自身のもつスキルについて自覚をして言語化することは困難なことではないでしょうか。

そうした状態の中で企業側に求められるのは、ポータブルスキルの「定義づけ」であると考えています。ポータブルスキルとは具体的にどのような仕事・経験で得られるものか、ポータブルスキルを他のどの業界や企業、職種でどのように活かせるか、市場価値を年収換算するといくらになるのかなどです。

企業側がポータブルスキルの定義づけを行うことで、ビジネスパーソン自身も自分自身の市場価値について意識する機会が与えられます。これにより市場価値を高めようと動機づけされ、結果として社内の活性化と生産性も向上する可能性も考えられます。

ポータブルスキルの獲得が新たな「安定」の手段

人材の流動化が進むと、企業が社員に与えられる「安定」は、終身雇用を守ろうとすることよりも、ポータブルスキルの育成により、どこでも活躍できる力を育成することが、企業が社員に対して与えられる価値であると考えています。

ビジネスパーソン自らがポータブルスキルをつけることで「安定」を作っていく意識を持つことが大切です。また企業側も社員のポータブルスキルの育成に注力することがこれから求められてくると考えています。