転職エージェントは人工知能(AI)に代替されてしまうのか?

「Newspicks」の記事を見て

3月1日に、弊社でインターンとして活躍してくれている慶応大の学生佐藤優一君がジーニアスさんのインターンシップブログで書いた以下の卒業論文が「Newspicks」というニュースアプリのカテゴリリートップ欄に掲載されました。

画像

人材紹介業の動向、大手・中小人材紹介会社の今後とは ~過去-現在-未来から分析~

記事中にもあるように、彼は4月から大手人材紹介会社JAC Recruitmentに新卒として入社します。同記事は今後の人材紹介、転職エージェント業界の未来を占うような内容となっており、大学生のレベルとは思えない程、 人材業界を俯瞰した内容となっています。 記事中の人工知能による転職エージェントの代替ついての考察に感心が高い方が多い印象があったため、私自身も良い機会と思い、「転職エージェントは人工知能(AI)に代替されてしまうのか?」に関して考察してみました。

※折角なので、ジーニアスさんにも許可をいただき、佐藤君自身に当記事のインフォグラフィックを作成してもらいました。

私自身は、現場サイドの人間で、むしろこうしたリサーチをベースとしたレポートではないため、一部の人工知能分野などについては知識が浅い中での持論の提示となってしまう分、むしろ上記のインターン生の記事よりもファクトや説得力に欠けるお話になってしまうかもしれませんが、ご容赦くださいませ・・。

画像

「転職エージェントは人工知能(AI)に代替されてしまうのか?」を考えるのにあたって以上のトピックをあげさせて頂きます。

ビッグデータや機械学習を活用した求人レコメンド

3月3日のNHKクローズアップ現代「クローズアップ現代 人工知能社会の行方」で報道されていましたように、人工知能等が人の力を超え得る。もしくは、代替するかもしれないと言われるテクノロジーに注目が集まっております。

画像

引用:NHKクローズアップ現代「クローズアップ現代 人工知能社会の行方」

既に、人材業界でもビズリーチ社が運営している「キャリアトレック」等のデータ解析により、高い精度で求人をレコメンドするサービスがリリースされ始めています。

既にリリースされている人工知能のサービスについてはジーニアス代表の三上さんが書かれている「オープンソースと人工知能と人材ビジネス」にまとめられております。

人材紹介大手のリクルートキャリアでも、ビッグデータ解析・機械学習を活用して、転職者に求人紹介をするような取り組みが行われているそうです。

転職市場において、こうしたサービスが求められてきている背景としては、転職市場自体が成熟してきた中で、大手転職エージェントを中心に、転職支援サービスが画一化・効率化され、転職者にとって期待値を満たすサービスとなっていないという課題があると思われます。

画像

「Newspicks」というニュースアプリは、一般ユーザーが記事に対する意見や感想をコメント欄に投稿する機能があります。その内容を見ていると、「転職エージェントという人が介在した上で、低いサービスレベルであるのであれば、機械やテクノロジーを活用した方がより精度の高いサービスを提供できるのではないか」といった論調が、実際に転職エージェントに登録して転職活動をした経験のある方からも多く見られました。

確かに、転職者は、忙しい仕事の合間に、交通費と時間をかけて、転職エージェントにわざわざ会いに行くわけです。

しかし、面談で画一的な対応をされたり、大量に希望しない求人を案内されるだけであれば、転職者にとっては求人広告サイトを見ていたほうが無駄がないです。そういった論調になるのもうなづけます。

弊社でも、佐藤君にも手伝ってもらい、面談に行かずにWeb上で気軽に転職エージェントに相談ができるよう「Callingood(コーリングッド)」を提供していますが、まだまだアナログで課題の大きい業界ではあると思います。

求人企業の利害や自社の利益にとらわれた「ヒト」よりも、転職者が何を求めているかをデータ分析してレコメンドしてくれる「人工知能」の方が期待できるという事でしょうか・・

転職者にとっての顧客価値とは

前述の話は転職エージェント会社を経営する者としては切ない話です。

人が良いのかそれとも人工知能の方が良いのかという議論はあくまで手段の話ですので、転職者の顧客価値をいかに満たすべきかと思います。

何時の世も、「どちらの手段が良いのか?」という議論は、常にそれぞれが自分たちに都合の良いメリットの押し付け合い、相手側のデメリットのけなし合いになってしまいます。

それよりも、目的となる顧客価値をしっかりと定義して、これらを満たす手段として、それぞれヒトと人工知能の得意な分野を役割分担していけば良いのではないでしょうか。

そもそも、転職者にとって、転職エージェントの顧客価値とは何なのでしょうか?色々とあるとは思いますが、以下があげられるでしょう。

画像
  1. 自分にあった求人を選定してくれる
  2. 自分の市場価値を教えてくれる
  3. 自分にどんな仕事が向いているのかを気づかせてくれる
  4. 業界の専門知識・情報などを提供してくれる
  5. 内定率を高めてくれる
  6. 入社後の満足度を高めてくれる(ミスマッチを防ぐ)
  7. 新卒と異なり1人で不安な転職活動、第三者に相談できる安心感を提供してくれる
  8. その会社を選んで良いのだと思える意思決定への納得感がほしい

人工知能等を活用した代替価値というのは、主に1の代替という観点で議論されている事が多いように思います。ただ、この自分に合ったというのも求人分野については、クセモノでして、何を持って自分に合ったと感じるかを定義するのが難しい課題なのです。

記事中でも、学生の佐藤君は期待値調整というキーワードを用いて、人工知能の代替の難しさを指摘していましたが、

実際現場で日々転職者と向き合っている中で、「転職者が求めている求人 ≠ 求人企業側に求められている」という事がほとんどなのです。

転職マッチングは期待値調整?

画像

前述の背景が、(こういった言葉は個人的には好きではないのですが)マッチングサービス=期待値調整とも言われる所以です。

そのため、仮に転職者やユーザーが、自分の希望の求人条件をアプリやシステムにインプットしていったとして、聞き触りの良い、一見、魅力的な求人が並べられる事は期待できるかもしれません。

ただし、実際にエントリーしたとしても、その求人のほとんどは、求人企業の対象者に当てはまらず、内定どころか書類も通らないことが多いです。一方で、 対象と異なるエントリーにうんざりして、求人企業がその媒体やアプリに求人掲載を控えるといった事にまでなってしまうかもしれません。

「受かる可能性があるといったロジックも組み込めば良いでしょう」となると思うのですが、この受かる可能性を定義するのも非常に難しいのです。

スキル等、デジタルスペックで評価がしやすい専門職種であればまだしも、日本の企業はそうした専門職種であっても、アナログスペックと言われる人柄を重視した採用を行いがちであるため、面接官ごとの主観で採用が行われがちです。

少し話は逸れますが、こうした面接官の主観の壁を解決するために、優秀な人材紹介コンサルタントやリクルーティングアドバイザーは企業担当者との「握り」と「信頼」を武器にして、このアナログスベックの定義を固めていくのです。

画像

1点目の「握り」に関して

「握り」というのは、期待値調整の事です。

わかりやすさを重視するために、カナリ極端且つ乱暴な表現をしてしまうと、要は、採用決済者や面接官に対して、採用ターゲットの具体的な定義・事例を何度もぶつけてみて、本当の本当にこのターゲットで良いですね?と明確な同意を得ることです。

その上で、会社に戻り、転職者を求人企業に推薦する際に、採用決済者や面接官に電話をします。電話ではあなたは先ほどの打ち合わせでこういうヒトがほしいと言いましたよね?だったら約束通り会いますよね?といった事を行う事で、採用ターゲットの定義を固めて、結果的に書類の通過率を上げているわけです。

かなり極端なたとえにはなりましたし、強引に書類通過させれば良いものではないだろうと思われる方も多いと思います。

私もそうした意見に同意です。しかし、誤解しないでいただきたいのですが、書類を強引に通過させる事が大事だというということではありません。

採用現場では、採用決済者も、実は明確なターゲットをイメージできていない事も多いのです。

そうしたふわっとした採用ターゲット要件を、そのままに放置して、何人もの転職者を求人企業に推薦したとしても、なんとなく違うな~と誰も書類が通過する事はなかったりしてしまいます。まさに、頼れるのは運だけで、転職者にとっても貴重な時間を使い振り回されるだけとなります。また、採用企業にとっても、いつまで経っても採用成功ができない。つまり、予定している事業展開が進められないと、お互いの時間の無駄となってしまうのです。

2点目の「信頼」に関して

「信頼」というのは、求人企業の採用決済者に「末永が勧めるなら、書類も見ないで会うよ!」と言ってもらう事です。

こうした求人企業からのコンサルタントへの信頼・信用を担保として、採用ターゲットを実質コンサルタントに委託してもらうという事です。

ヒトを動かすのはコンテンツよりもコンテキスト

話が脱線し過ぎてしまいましたが、転職者にとって内定がとれそうというデータをインプットする事は、上記の背景もあり、非常に難しい作業となるのです。

もちろん、その他、諸々の転職者ユーザーの多面的なデータをインプットする事で、逆に企業にこういったデータの傾向を示している転職者を採用すべきだと提案でき、採用決済者も実際にそれにもとづいて内定を出すという事ができれば、実現は可能かもしれません。

あとは、強引に一定レベルに定義して、データとして組み込む事はできるかもしれません。一方で、そうしたミニマムなデータから抽出された求人は転職者からの希望値からかけ離れた一見、魅力度の低い会社ばかりが並んでしまう可能性が高いと思います。

画像

例えばですが、LAMP環境での開発経験が3年あるエンジニアには、社名を知らないIT/WEB業界の企業のエンジニア求人10件並ぶでしょうけれど、「・・・で?」という事です。

「・・・?」の・・・部分に隠れている言葉は、「なんで私に、この求人なの?」だと思います。

これ自体は、理論値を提示するという事で一定のレベルでは解決が可能かもしれません。

転職者にロジック・アルゴリズムを開示するという方法ですね。

ただ、理論値の提示にも限界があるのではないかと私は考えています。あくまで現場での体感値・持論ではありますが、理論値は、静的な情報=コンテンツであると考えています。転職者が転職という人生の節目において、重大な意思決定を行うには、動的な情報、コンテキストが必要なのです。

では、動的な情報・コンテキストとは何でしょうか?

結論からお伝えすれば、転職者の人生の過去~現在~未来を含んだストーリーです。

弊社では、私を含めキャリアコンサルタントは初回面談では、1時間半~2時間程、じっくり転職者の方のお話を聞いています。

面談といいますか、インタビューですね。

初回面談では転職者に求められなければ、私は意図的に求人紹介をほとんどしていません。

では何をするかといえば、転職者の人生のストーリーを要約・サマリー化して、フィードバックしています。

ここで転職者の方は、漠然としていた自分の志向性を客観視・自覚されるのです。なので、面談の最後に皆さんがおっしゃるのは、「自分の考えが整理され、スッキリしました!」です。一方で、ヒトによっては、面接対策や、悩みの相談で、4時間以上長電話する事もあります。これも非常に効率が悪いかもしれません。

画像

ただ、転職活動は、それくらい真剣に悩まれますし、迷われる心理状態なのです。転職者にとっての最適な選択肢自体が、常に人間心理とともに変動しているものです。

最初に希望していた求人への条件が、180度変わってしまう、という事もしょっちゅうです。

そもそも、ヒトの人生の意思決定自体を効率化しようというアプローチは、部分的には可能であっても、包括的には難しいのかもしれません。

ヒトとテクノロジーの役割分担

画像

こうした転職者のコンテキスト・ストーリーをどのように、ヒトとシステムでサポートしていくべきか、というのが本来の議論だと思います。

転職エージェントという価値が、人工知能に代替されるものではなく、転職エージェント業務の一部機能が代替されるのだと考えています。

そう考えてみると、ビッグデータや人工知能があれば、今までできなかった新しい業務も代行が可能となるでしょうが昔からあった業務支援システムと大きな差はないのかなと思います。

むしろエージェントの業務が楽になり、より転職者の心の動きに寄り添い、向き合う時間が増える。

それは転職エージェントにとっても、喜ぶべき事です。

長文となり、論点もブレてしまいましたね・・。読みづらい文章となってしまい、申し訳ございません。

私自身の何かのメッセージというよりも、皆さん自身も、自分の仕事の価値について考えるキッカケになれば幸いです。

また、以下のコメント欄で、「人工知能が具体的にどのように転職エージェントサービスを代替し得るのか」について、簡単で構いませんので、皆さんのご意見や仮説についてコメントいただけますと幸いです。