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若手社員をストーキングする「マイクロマネジメント」上司と思われないために〜ケアと粘着の違い〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「君、昨日あれしてたよね。いいと思うよ〜」(写真:milatas/イメージマート)

■電話をするのに別室にこもる若者

これまで多くの新人を迎え入れてきましたが、彼らの中での「あるある」として、「電話をするときに別室にこもる」という現象があります。

最初は周囲にうるさいから気を使っているのかと思っていたのですが、どうもよく聞くとそうではないようです。単純に、周囲の先輩や上司に自分が電話で話しているのを聞かれて、言葉遣いや内容について細かいことを言われるのが嫌だからというのが理由でした。

確かに、最初は自分の机で話していたのに、周囲に「あの言葉遣いはないな」とか「お、結構上達してきてるじゃん」とか言われた挙句、若者は別室にこもるようになるのでした。

■「観察されたい」となど思っていない

管理職教育の研修などではよく「上司たるもの部下の日頃の行動をきちんと観察しておくべし」と言われます。私もたまに言ったりしてしまっています。

もちろん、部下のやっていることをきちんと把握していなければ、マネジメントはできません。しかし、部下の若者のことを「把握」することと、「観察」することは微妙に違います。「観察」は対象の実態を知るために注意深く見ることですが、別の言い方をすれば「じろじろ見る」ことです。

実験動物ではないのですから、上司からずっとじろじろ見られていることは、若者にとってはストレスです。誰も観察して欲しいなどとは思っていないでしょう。

■プライバシーを重視する若者たち

さまざまな世代調査などを見ていると、我々中高年世代より、20代の若者たちはプライバシーを重視しているようです。

SNSの危険な側面なども熟知しており、個人情報保護やサイバーセキュリティにも詳しく敏感です。SNSで情報を共有する場合なども、インスタグラムのストーリーズ機能(24時間で消える投稿)のように、あとに残らない気軽なものを好むようになってきました。

オフィスについてもパーティションなどで区切られているプライベートな空間を望む人が多く、オープンスペースで人目にさらされながら仕事をするのが苦痛だという人もいます。

■若者からストーカー扱いされないために

こんな若者たちが、「君はあのとき、あんなちょっとした工夫をしていたよね。あれ、とてもいいと思うよ」と、じっと見ていなければ分からないような細かい事柄について褒められたとしたらどんな気持ちになるでしょうか。

もしかすると、「え、そんなことまで知ってくれていたんですね、とてもうれしいです」ではなく、「え、そこまでじろじろ見ていたんですか、ちょっとキモいんですけど……」かもしれません。

まるでストーカーのように、自分のプライバシーをじっと観察しているように思われてしまえば、彼らは上司から身を隠そうとすることでしょう。

そして、結局何をしているのか分からなくなってしまいます。

■状況を把握するなら、さりげなさが重要

つまり、若手の部下のことを把握したいのであれば、「いつもお前のことをじっと見ているぞ」みたいな強い関心をストレートに示すのではなく、さりげなく「実は知っている」ということが必要なのではないでしょうか。

ましてや、「知っていることも伝えない」ほうがいいかもしれません。「なんでこんなことも知っているの?盗聴器でもある?」などとさらに気持ち悪がられてしまう可能性さえあります。

見てないようで見ている、聞いていないようで聞いているというさりげなさが必要なのです。

さらに言えば、自分が直接見るのではなく、間接的に誰か近い人から情報を収集する方がいいかもしれません。

■恩着せがましくないサポートをすればよいだけ

若者たちは仕事においてはまだまだ未熟でサポートを必要としています。ですから、先輩や上司は彼らに手を差し伸べてあげなければならないこともあるでしょう。そういうサポート自体はバンバンすればいいと思います。

しかし、そこで上司自身の承認欲求という邪念が出てはいけないと思うのです。例えば、「俺はこんなことまで気づいてあげているんだぜ。だからこんなサポートだって、できちゃうんだぞ。イケてる上司じゃない?」というような恩着せがましい思いを捨てましょうということです。

別に若者から尊敬されなくても、サポートできて、成功体験を積んでもらえればそれでいいではないですか。

■「ふるさとは遠きありて思ふもの」

室生犀星の詩の一節に「ふるさとは遠きにありて思ふもの」という言葉があります。若者にとって社会人になりたてのころの上司たちはまさに「ふるさと」です。

別に彼らが今の自分をどう思っていようが取り立てて気にする必要はなく、いつか遠くに行ったとき、つまり一人前の社会人になったときに、どこかで「今の自分があるのはあの上司がああいうことをしてくれたからだ」とか「実は上司は気づかない振りをしながらも、自分のことをちゃんと見ていてくれたのだな」とか分かってくれればいいのではないかと思うのです。

そうしてまた、彼らが中高年になったときに、同じように若者をサポートしてくれるようになればいいのです。

OCEANSにて若手のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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