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「不景気なら採用減」は当たり前? 氷河期支援に思う経営者と人事の責任

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「氷河期世代」は「人生再設計第一世代」へ・・・(提供:preart/イメージマート)

■いまさら「変われ」はひどすぎないか

2019年4月の経済財政諮問会議で、無業者や非正規雇用者の多い「就職氷河期世代」を「人生再設計第一世代」と位置づけ、キャリア支援を行っていく方向性が示されました。

この世代は(実は私もそうですが)バブル崩壊後に卒業した人たちを指し、今の30代半ばから40代半ばの約1700万人にあたります。

サポートは良いことですし、人手不足解消策のひとつでもあるのでしょう。それにしても遅きに失しています。人間には「臨界期」という特定の能力を学習するのに適切な時期があり、それを逃すといくら努力しても限界があるからです。

支援具体案はまだ曖昧ですが、私には「人生『再設計』」という言葉が「今までの人生設計を変えろ」と読めて気になっています。

再設計をするということは、今までの知識やスキル、大事にしてきた価値観や志向、重視してきた労働条件(お金や働く場所など)を変えろ、新しく作り直せ、そしてこれからの世の中に適応しろ、ということになります。

レポートを読んでも「人手不足産業への就職促進」「ICT等の能力開発」「新規能力開発プログラムの充実」「地方で求められる職業能力に沿った能力開発」と、やはり新しい能力を身につけよ、というスタンスがありありです。

■変わるべきは「受け入れ側」だ

しかし、ここまで守ってきたものを捨てさせるのは、アラフォー、アラフィフ世代にとって、あまりに酷というものではないでしょうか。

そうでなく、どうせお金や人を使うなら「受け入れ側」を変えるべきです。都心に人がいるのだから、地方に人を送り込むのではなく、都心に事務所を置くなり、リモートで仕事をしてもらうなりして雇用すればいい。

新たにICTの能力をつけさせるのではなく、簡単なインターフェイスを開発すればいい。今までの人に頼った業務プロセスを、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)化したりして省力化すればいい。

政府がお金を使うとしたら、そこではないでしょうか。

もちろん、「もう変われない」と決めつけているわけではありません。しかし、冷や水を浴びせる絶望的な話しかできず恐縮ですが、「変わりにくい氷河期世代」という前提を認めた改革でなければ、実効性は薄いように思います。

■「不景気期こそ採用数を増やす」戦略を

それにしても思うのは、こんな難題を後世に残さないのが重要ということです。氷河期世代の原因は、「景気が悪ければ採用を絞る」「景気が良ければ採用を増やす」という、企業の非戦略的な要員計画です。

労働人口は一定ですから、逆張りする方が優秀な人材を採れていたのに、体力ある企業まで短期的利益に目が行ってしまい、横並びで採用を抑制してしまいます。

まさに今も、オリンピック後の不景気を推測し、企業はまたも採用を絞ろうとしています。こういう時こそ優秀人材を獲得できるチャンスなのに、同じ轍を踏もうとしています。

そんな中で「不景気期こそ採用数を増やす」という戦略的な企業が増えれば、こんな問題はもう起こらないのではと思うのです。

私も経営者のはしくれで、不景気でも採用数を維持する大変さはわかるつもりです。しかし、この苦労はどんな投資よりも効くのではないでしょうか。

経費やボーナスを多少削っても、新しい人材への投資は減らさない。こういう決断を、勇気を持って行い、既存の社員に対してもその意義をきちんと伝えること。

これこそが、社会に対する経営者や人事の責任です。そして、単なる社会的責任というだけでなく、きっとその企業にも「将来を支える人材」を送り込むことができることでしょう。

キャリコネニュースで、人と組織のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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