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「若いうちから活躍できる職場」は本当によい職場か〜人生100年時代、生き急いでいる若者は実は一部〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
そんなに急いでどこへ行く(提供:アフロ)

■一時的に求人が減っても、長期的には「人手不足」は確定

現在の日本は言うまでもなく「少子高齢化時代」です。コロナで不景気になっても、新卒の求人倍率は平均でもまだ1.5倍もあり、サービス業など業界によっては数倍というところもあります。このため、企業は若者が魅力に感じる職場を作ることで、若者を惹きつけようと必死になっています。そして一様に「当社は若いうちから活躍できますよ!」とアピールするのです。

しかし当の若者は、若いうちから活躍できるかどうかを特に問題にしていないようです。ある調査によれば、企業側は4割程度が「若いうちからの活躍」を訴求したいと考えているのに対して、学生側はそれを重視するのは1割にも満たないという結果でした。こうしたズレはどのようなところから生じるのでしょうか。

■人生100年時代「生き急ぐ人」は多くない

一見するとよい職場のように思える「若いうちから活躍できる」職場が、なぜ若者に人気がないのか。私個人の感覚でいうと、早く出世できて責任者になれて自分のやりたいようにやってよい職場は、そんなに悪くない、いや、素晴らしい職場ではないかと思います。私が新卒で入社した頃のリクルートは、そんな感じでもありました。

ただ、人には好きなペースというものがあり、ゆっくり成長したいという人も大勢います。人生100年時代ともいわれる現在、リクルートのようにある意味「生き急いでいる」人の多い会社はむしろ少数かもしれず、そこが今の若者の感覚とずれているのかもしれません。

若者は何も「若いうちに活躍したい」のではなく、面白い仕事で成長したい、やった分だけきちんと認めて欲しい、そして役職や報酬など働きに見合った待遇が欲しいというだけなのでしょう。それが若いうちかどうかは別にどちらでもよい、適切な時にそうなればよいだけです。

会社側は若い人に受けようとするあまり、良かれと思って「若いうちに活躍できる」と喧伝するわけですが、若者は冷ややかな目で見ているという構図です。会社が若者にアピールすべきは「若さを欲している」ではなく、「うちは頑張っただけ報われるフェアな会社ですよ」ということなのかもしれません。微妙な差ですが、このあたりの機微に若者を惹きつけることができるかどうかがかかっていると思います。

■むやみに「重い責任」ばかり負いたくない

仕事の裁量が全く与えられないと、モチベーションが上がらないのは確かです。その一方で、活躍するという言葉の裏には「重い責任を負う」という意味も暗に含まれています。責任のないところに、大きな仕事はありません。責任を持たない人は、誰がやってもよい、大勢に影響のない仕事をするしかありません。

正直、有望な若者にはこういうことでひるまず、積極的に責任を負う勇気をもって欲しいものです。しかし会社の中には、本来経営者や管理職たちが負うべき責任を現場の若手に背負わせ、リストラをさせたりクレーム処理や謝罪をさせたり、トラブルの尻ぬぐいをさせたりする例もあるので、若者側も敏感になってしまうのかもしれません。

また、若手の側からみても、もちろん自分が早くから活躍できること自体には一定のうれしさもあるのでしょうが、お手本となるたいした先輩たちがおらず成長できない、と感じるかもしれません。たかだか入社して数年の若手に活躍されてしまうのは、ベテランとしてはどうなのでしょうか。

若いうちにすべきことは必要な能力開発が一番であって、決して弱い人たちの集団で勝って留飲を下げることではありません。目指すべき先輩、尊敬すべき先輩がいてこそ「まだまだ自分も頑張らねば」と奮起できたり、先輩たちから様々なことを学べたりするのですが、自分が一番になってしまっては、それもままなりません。

■きちんとした「教育」を受けられない不安も

若いうちから自由に勝手にやってよいという職場には「型はめ」のステップがないともいえます。人が一人前の自分の型を身に付けていくステップを表す言葉として、「守破離」があります。この考えでは、最初は先輩や上司の言動の「完コピ」から始めるのがよいとされています。

新人のうちは、先輩や上司の仕事ぶりのうち、何が本質で何が彼らの趣味なのか判断する力は当然なく、とりあえずは全て同じようにやってみるのは合理的です。新人が勝手に不要と思っていた行動が、実は仕事のコアであるというようなことは多々あります。このような型にはめられることは悪いことでは決してなく、むしろ最初から我流でやっている人は、どんな領域でも、どこかで壁にぶち当たって伸びません。

若くても活躍できるのは、すぐにノウハウを身に付けることができる簡単な仕事しかないということも想定できます。当社の例で恐縮ですが、新卒採用で受けてくださる学生には「人事はそうそう簡単にわからない深い仕事なので、最初はしばらくずっと下積みだよ」と伝えています。時代錯誤に聞こえるかもしれませんが、本当なので。

しかし、私はだからこそ人事の仕事は面白いと思っています。たかが数年で手のひらに乗ってしまうような仕事なら、簡単すぎてすぐに飽きてしまうのではないでしょうか。また簡単すぎる仕事では、層の薄さを感じる場合と同じように成長できないと思うかもしれません。人は、頑張ればギリギリできる仕事でこそ成長するからです。

■「歳を取ったら使い捨て」の会社はお断り

若い人が活躍する職場だと聞くと「では、若くなくなったらどうなるのだろう」と思うのも自然です。すぐに想像されるのは「使い捨て」です。若い元気なうちは最大限その力を使われて(しかも安く)、力が衰えてきたら「はいさよなら」では報われません。リストラまではされなくとも、窓際の閑職に追いやられて重要感を感じることができないつまらない業務に従事するというイメージは全く魅力的ではありません。

若いうちとベテランになってからでは活躍の仕方が違う、例えば、若手は最前線、ベテランは後方支援や全体戦略立案ということだと思うのですが、それをうまく伝えられないと、若者は単純に「使い捨て」のイメージを持ってしまいます。このように「若いうちから活躍」だけでは、会社の都合だけを勝手に打ち出しているように見られがちです。この視点から採用広報などを見直してみてはいかがでしょうか。

キャリコネニュースで、人と組織の問題について連載しています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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