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ジャニーズ会見、罪の清算に必要なこと

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(写真:ロイター/アフロ)

昨日(10月2日)の会見で、ジャニーズ事務所は、被害救済や補償を目指す組織(社名変更)と、タレントの活動をサポートする新たな名称の新組織に解体され、前者は補償が完了した段階で廃業、「ジャニーズ」という名前はすべてこの世から消えるという衝撃的な内容が報告された。私自身は、いろんな考え方があるとは思うが、「ジャニーズ」という名称を残したうえで、「ジャニーズ」が被害者の救済と補償に誠心誠意当たるのが良いと考えるが、報告された改革案はかなり思い切った内容であり、その方向性は肯定的に評価できるのではないかと思う。

会見では、ジャニーズ事務所が設置した被害者救済委員会に478人から連絡があり、そのうち補償を求めた人が325人いたことが報告された。その数を聞き、改めて被害の深刻さを思うとともに、今後の救済の難しさを思った。

ただ、報告内容に事態の大きな進展は感じたものの、「罪の清算」という本質的な部分に関わる議論があまりなされていなかったような印象を受けた。

今後、被害を申し出た人たちに対する丁寧な聞き取り調査が慎重に行なわれ、その内容が類型化されて具体的な補償や救済につながっていくだろう。

問題は、その調査の過程でもしも新たな性加害の事実が確認された場合である。

8月29日に公表された「調査報告書」では、「性加害」という言葉が使われた。私の個人的な記憶では、今までこのような問題が表に出たときには、たいてい「性被害」という言葉が使われることが多かったように思う。ところが報告書では、正面から「性加害」という言葉が使用され、ジャニーズ事務所の問題について、被害ではなく行為と行為者に焦点を当てて検討するという特別委員会の姿勢が表れており、たいへん重要な点だと思った。

そして、「性加害」という言葉でまとめられたジャニー喜多川氏の行為が、今後被害者に対する事実確認や被害についての調査の過程で、さらに個々具体的に明らかにされていくことになる。

問題は、あくまでも仮定の話であるが、そのときに被害者の申告内容から、万一ジャニー喜多川氏以外のジャニーズ事務所関係者がジャニー喜多川氏の性加害に関与していたという事実が明らかになった場合にどうするかである。

今、ジャニーズ事務所は過去の罪についてその清算に乗り出した。しかしその罪の清算は、万一それに関係した者があればそれも含めて、ジャニー喜多川氏が過去に犯した性加害の具体的な確認と事務所としてのその受け止めを前提とする。これらの上に立って初めて罪の清算が可能となる。被害者調査委員会としては、この点の総括もまた重要な任務だと思うのである。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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