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連続強窃盗犯の量刑はどうなるのか?

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
大阪地方裁判所・大阪高等裁判所(写真:イメージマート)

 今、各地で住居侵入窃盗や強盗などを、集団で連続して犯す事件が問題になっています。このような場合に、その量刑はどのようになるのでしょうか?

 1回の犯行よりも、2回、3回と犯罪を重ねる場合、刑罰が重くなるのは当然ですが、どのように重くするかについては考え方の違いがあります。

 大きく分けて「併科主義」「吸収主義」「加重主義」という3つの考え方がありますが、日本刑法は最後の加重主義を原則としています。

  1. 併科主義とは、単純に犯された犯罪に対する刑罰を加算していくやり方で、欧米のいくつかの国や地域で取られています。時々「懲役○百年」という判決が出てニュースになることがあります。
  2. 吸収主義とは、一番重い刑に他の刑が吸収されるというやり方で、伝統的に中国法がこれです。
  3. 加重主義とは、犯された犯罪に対する一番重い刑を加重するやり方です。

 例えば、Aが2人の被害者に対してそれぞれ別々に、合わせて2個の窃盗罪を犯したとします。この場合、2個の窃盗罪の扱いは、併合罪(へいごうざい)と呼ばれる処理になります(刑45条)。そして、その場合の量刑原則は、最も重い罪について条文に規定された刑の長期を1.5倍するというルールです(刑47条)。

第47条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮(拘禁刑)に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

 窃盗罪の法定刑は、長期10年の拘禁刑ですから、10年を1.5倍した15年が量刑の上限になります。

 これが日本刑法の加重主義という原則ですが、これには重大な例外があります。

 それが、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律(盗犯等防止法)という昭和5年にできた特別法です。

  • 盗犯等防止法は、大正末期から昭和の初めにかけての経済不況を背景として、とくに首都圏において強盗や窃盗が多発したため、その対策の一環として制定された法律です。犯人の中には、強盗に入り、被害者に「戸締まりが悪いので強盗に入られるんだ、もっとしっかり戸締まりしなさい」などと説教を行なう「説教強盗」がいて全国的な話題になりました。盗犯防止等は正当防衛の要件を緩和しており、重要な法律です。

 盗犯等防止法は難解な法律ですが、その第2条を要約しますと、次のような条文です。

 常習として次の方法で、窃盗を犯した場合は、3年以上の有期拘禁刑(20年)となり、また強盗、事後強盗、昏酔強盗、及びこれらの未遂を犯した場合は、7年以上の有期拘禁刑となる。

  1. 凶器を携帯した場合
  2. 2人以上現場で共同した場合
  3. 鍵を壊すなどして住居・建造物などに侵入した場合
  4. 夜間、住居・建造物などに侵入した場合

 なお、常習強窃盗罪は「職業犯」(集合犯)と呼ばれる類型で、常習として行なった場合は、何回であろうと犯罪としては1個と数えることになります。

  • 例えば、ニセ医者の無免許医業罪(医師法第31条1項1号)は、1回の診療行為も100回の診療行為も1個の無免許医業罪だと数えることになります。

 これは、条文で最初から複数の行為が予定されているので、上記の併合罪の適用はなく、単純に1罪と数えることになるわけです。

 今日本の各地で問題になっている強盗罪や窃盗罪も、盗犯等防止法の適用が問題になるだろうと思います。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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