受動喫煙の防止 マナーから罰則付きのルールへ

オーストラリアのタバコパッケージ(喫煙による肺気腫の写真)(写真:ロイター/アフロ)

 16~7世紀、南蛮船によって日本に伝えられたタバコ。火の不始末が火災原因となることから、江戸幕府は何度か禁止令を出しましたが効果はなく、タバコはまたたく間に日本人になくてはならない嗜好品となっていきました。刻みタバコをキセルで吸うのが日本独特の風習で、歌舞伎や、落語、講談などでは、吸ったキセルをタバコ盆でポンと叩いて間をとる場面がよく出てきます。昭和30年代頃まではまだキセルを愛用する人がいたものですが、次第に紙巻タバコが好まれるようになりました。

画像

 この喫煙の習慣が、受動喫煙防止を目指す4月全面施行の改正健康増進法によって大きく制限されることになりました。同法は、「受動喫煙」を「人が他人の喫煙によりたばこから発生した煙にさらされること」(健康増進法25条の4第3号)と定義しています。

 タバコの煙にはさまざまな有害物質や発がん物質が含まれていることは常識ですが、喫煙は直接吸う人自身の健康を害するだけではなく、家族や友人、職場の同僚など、大切な人の健康にも害を及ぼします。タバコの煙には、直接吸い込む〈主流煙〉と、火のついた先から立ち上る〈副流煙〉とがありますが、この副流煙にも主流煙と同じく多くの有害成分が含まれています(ニコチン、タール、一酸化炭素などの成分量は主流煙よりも多いといわれています)。この副流煙を、自分の意思とは関係なく吸い込んでしまうことが受動喫煙です。

 喫煙の健康影響に関する検討会編:『喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書』(平成28年8月)

 喫煙は、周囲の生活環境を間違いなく累積的に悪化させ、人びとの健康に対して悪影響を与え続けるという点に問題性があります。しかし、個々の喫煙は、それじたいを単独で考えると、生命や健康に対する抽象的な危険すら認められない行為であり、非喫煙者にとっては単に不快で迷惑な行為でしかありません。

 そこで、喫煙を法的に規制するといっても、生命や健康などに対する抽象的危険すら認められないような行為に刑罰を科せば、それが不快だという理由で処罰することになりかねず、そもそも刑罰は何らかの法益侵害を防止するために利用されるべきだという、刑法の基本原理に反するおそれがあります。

 このような点からいえば、愛煙家を〈犯罪者〉とすることは間違いで、行政罰の過料で対応することが妥当だと思います。改正健康増進法も同様の考えであり、同法は多くの人が集まる病院や役所、学校、鉄道、飲食店などの施設を原則屋内禁煙とし、違反行為を〈最高で30万円の過料〉に処すことになったわけです。

写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート
写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート

 余談ですが、私はかつて1日に80本ほどのタバコを吸う重度の愛煙家でした。しかし、身体に悪いということは自覚していましたので、禁煙を決意するのですが、2~3日で挫折し、なかなかタバコとの縁が切れませんでした。ところが、50歳のときにあることがきっかけで禁煙を決意し、成功しました。禁煙は〈やる気〉や〈根性〉の問題ではなく、〈病気〉なんだと気づいたからで、医師の適切な指導を受ければ禁煙は驚くほど簡単でした。とくにニコチン・ガムとニコチン・パッチを併用した〈ニコチン補充療法〉に顕著な効果がありました。そして、ニコチンへの依存が完全に切れてもう17年が経ちます。

 国立循環器病研究センター:たばこのやめ方

 改正健康増進法の具体的な内容については、次のサイトが詳しいです。とくに、政府広報オンラインは大変分かりやすく書かれています。

 禁煙に挫折した方は、この機会にぜひご近所の禁煙外来に相談されることをお勧めします。(了)

(注)〈過料〉は、交通違反の反則金と同じで、刑法や刑事訴訟法の適用がない行政処分です。これに対して〈科料〉は、罰金と同じく財産刑の一種です(1000円以上1万円未満)。〈科料〉は、金額についての規定(刑法17条)があるため、法令で罰則を決める際には単に「科料に処する」とだけ規定することが許されますが、〈過料〉の場合はこういった通則的な規定がありませんので、それぞれの法令で必ず金額について定めなければなりません。両者を区別して、〈過料〉は「あやまちりょう」、〈科料〉は「とがりょう」と呼ぶこともあります。