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会社役員の贈収賄罪とはどんな犯罪なのかー汚れた原発マネー

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
原発13基が立地 「原発銀座」福井県(写真:ロイター/アフロ)

■はじめに

 衝撃的なニュースが飛び込んできました。

 関西電力の八木誠会長や岩根茂樹社長を含む同社幹部ら6人が2017年までの7年間に、関電高浜原子力発電所の建設に関連して、福井県高浜町の元助役の男性(今年3月に死亡)から、計約1億8千万円の金を受け取っていた疑いがあるとのことです。関電高浜原発の工事受注に絡んで、地元の有力者に巨額の金がわたり、その一部が、関電の会長、社長を含む幹部に還流していたというのです。

 このような事実に関して、これは会社取締役の贈収賄罪を規定した、会社法967条1項に該当するのではないかということが問題になっています。

 この会社取締役贈収賄罪とは、あまり適用されたことのない犯罪規定であり、刑法の本でもほとんど解説されることがないので、どのような犯罪なのかについて解説しました。

■取締役等贈収賄罪の内容

 賄賂罪(収賄罪)は、普通は公務員が対象で、一般人が商取引に関連して不正に金銭などを受け取っても、モラルが問題になるだけで犯罪の問題は生じません。しかし、会社法は、株式会社の取締役等の職務に強い公共的性格が認められることから、その公正さを守るために特に取締役や会計参与、監査役、執行役などの民間人についての贈収賄罪を規定しています。具体的な条文は次のようになっています。 

(取締役等の贈収賄罪)

第967条 次に掲げる者が、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。

 一 第960条第1項各号又は第2項各号に掲げる者

 二 第961条に規定する者

 三 会計監査人又は第346条第4項の規定により選任された一時会計監査人の職務を行うべき者

2 前項の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。

(没収及び追徴)

第969条 第967条第1項又は前条第1項の場合において、犯人の収受した利益は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。

刑法上の収賄と比較すると、要件は狭く、刑も軽い

 刑法上の収賄罪は、公務員が「その職務に関し」て、賄賂を収受・要求・約束の各行為が処罰されており、法定刑は「5年以下の懲役」です。このときに「請託」(具体的な要求)を受けていれば、法定刑は「7年以下の懲役」に加重されます。

 会社法では、「不正の請託」を受けた場合についてのみ処罰され、しかも法定刑は「5年以下の懲役」以外の罰金刑が規定されており、軽くなっています。

 また、刑法の場合は、単純収賄・事前収賄・ 第三者供賄・加重収賄および事後収賄・あっせん収賄といったように、複雑な賄賂罪規定が整備されていますが、会社法にはこのような規定は存在しません。

 さらに、刑法における「賄賂」とは必ずしも金銭である必要はなく、人の欲望を満たすものであればよいとされていますが、会社法の「賄賂」とは「財産上の利益」に限定されています。

 このような要件の相違は、私企業の役職員の職務の公共性および廉潔性を、公務員の場合の職務の公共性および廉潔性と同じように考えることはできないという発想があると思われます。つまり、(血税で生活が保障されている)公務員の場合は、どんな理由であれ職務に関連して賄賂を受け取っただけで公務への信頼が揺らぐわけですが、私企業の場合は、「(金銭を伴った)不正の請託」がある場合に役職員等の職務の公正さに対する社会の信頼が揺らぐ危険性がとくに高いので、この場合が特別に取り出されて処罰されているのだと解されます。

具体的な要件

*「その職務に関し」

 正当な理由のない収賄ではなく、当該役職員の職務と対価関係(〈職務の見返り〉という関係)があれば処罰するという趣旨です。

*「職務」

 当該役職員の「地位に伴い職務として取り扱うべき一切の執務」を意味します(最高裁昭和20年10月27日判決)。

*「請託」

 刑法の場合は不正な職務の依頼であるか、正当な職務の依頼であるかは関係がありませんが、会社法では、「不正な」職務行為への依頼であることが必要です。つまり、積極的な行為や消極的な行為によってその職務に違反する一切の行為を意味します。

■今後の見通し

 本件について弁護士の郷原信郎氏は、次のように述べられています。

 関電の会長、社長ら会社幹部の、高浜町の有力者からの金の受領については、そもそも、その原資となったのが、原発関連工事発注に絡む手数料だというのであり、工事発注に関して、そのような手数料の支払を行うこと自体が「不正行為」と言えるので、そのような不正行為を行ったことと関電幹部への「還流」が関連していて、関電幹部側にその認識があれば、過去に例のない「会社役員の収賄罪」が成立する可能性も全くないとは言えない。

出典:https://blogos.com/article/407036/

 まさに正当な指摘だと思います。ただ、キーパーソンである「賄賂」を贈ったとされている元助役の男性はすでに亡くなっているので、「不正な請託」があったのかどうか、また「還流」の実態解明についてはかなりの困難が予想されるのではないかと思われます。(了)

*参考文献:山口厚編『経済刑法』(商事法務、2012年)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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