特別背任罪と業務上横領罪―企業トップに問われる罪―

(写真:アフロ)

■はじめに

 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン容疑者に対して、当初は有価証券報告書虚偽記載罪での逮捕、起訴がなされましたが、その後、特別背任容疑での逮捕が行われました。彼には他にもさまざまな疑惑が広がっていますが、ここではとくに企業活動で問題になる横領と背任という犯罪を取り上げ、その成立要件や区別などについて解説したいと思います。複雑なテーマですが、ニュースを理解するための一助となれば幸いです。

■横領罪と背任罪の基本的な内容

ーー横領罪の内容ーー

 まず、横領罪とは、自己が管理(占有)する他人からの預かり物を、無断で使用したり、売却したりするなどして、不法に自分のものにしてしまう犯罪です(最高5年の懲役)(刑法252条1項)。「横領」とは専門的には「領得する」という意味で、他人から預かった品物の売却や金の使い込みなど、本来ならば所有者でなければできないようなことを無断で行うことです。

 そして、横領罪は、他人の物を自分のものにするという意思が外部に現れた瞬間に既遂になります(未遂を処罰する規定はありません)。たとえば、他人から預かった品物をネットオークションに出品すれば、具体的な利益は得ていなくとも既遂になります。

 また、業務として他人の物を保管している者については、重い業務上横領罪が成立します(10年以下の懲役)。

 ところで、横領の客体である他人の物が行為者の管理下にある状態とは、

  1. 他人から奪った場合
  2. だましたり脅したりして得た場合
  3. 他人から委託を受けて預かった場合
  4. 他人の物を拾った場合

の4つの場合があります。(1)は窃盗罪や強盗罪で、(2)は詐欺罪や恐喝罪で、(4)は占有離脱物横領罪でそれぞれ処罰されますので、結局、横領罪として処罰されるのは(3)の他人から委託を受けて預かった物を、その信頼を裏切って領得したという場合です。したがって、条文には客体が「委託物」とは書かれていませんが、横領が問題になる前提には、物によって媒介された他人との委託関係(信頼関係)がなければならないということになります。図で説明すると下のようになります。

横領罪の基本構造
横領罪の基本構造

ーー背任罪の内容ーー

 次に、背任罪とは、他人からの委託を受けて他人の事務を処理する者が、自己または第三者の利益を図り(図利[とり]目的)または本人に損害を加える目的(加害目的)で、その任務に背く行為をし、その結果本人に財産上の損害を与えたときに成立する犯罪です(刑法247条)。法定刑は、5年以下の懲役か50万円以下の罰金で、未遂も処罰されます。

 単なる任務違背行為ではなく、そこに図利加害目的があったことが必要ですから、たとえ任務に背いたとしても、もっぱら本人(依頼者)のために行う場合は背任にはなりませんし、背任行為があっても、本人の財産状態が全体として悪化していなければ背任は未遂になります。

 背任罪の場合は、業務上横領罪のような業務者に対する加重規定はありませんが、会社法や保険業法には、会社の取締役や監査役などが背任を犯した場合を特別に重く処罰する規定が置かれています。これが、特別背任罪と呼ばれる犯罪です(会社法960条、961条、保険業法322条、323条)。特別背任罪の法定刑は、10年以下の懲役か1000万円以下の罰金(併科もあり)です。

背任罪の基本構造
背任罪の基本構造

ーー横領罪と背任罪の共通点と区別ーー

 以上のように、横領は品物を預けた人の信頼を裏切るという点で、また背任は事務を任せた人の信頼を裏切るという点で、両罪には共通点がみられます。そこで、両罪の区別が問題になってくるのですが、実際はこの区別は法律の要件から機械的に決まってくる場合がほとんどです。

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 たとえば、行為者が他人から預かっている品物を無断で売却したような場合、彼は他人の事務を処理する者ではないので、この場合は横領しか成立しません(図でいえば1の場合)。

 また、客体が物ではなく、情報や権利などの経済的利益であるとか、行為者が管理(占有)していない物などの場合は、横領罪は成立せず、背任罪だけが問題となります(図でいえば2の場合)。

 問題は3の場合です。これは、たとえば管理を任されている他人の金銭を私的に流用した場合のように、とくに金銭に絡んで不正がなされた場合です。ここで区別が問題になるのは、金銭は物として扱われる場合と経済的な利益として扱われる場合があるからです。ただし、3では形式的には横領も背任も成立するように見えますが、被害の実態は一つですので、判例や学説は、この場合(法的刑や犯情のより重い)横領罪が成立するならば背任罪は成立しない、と考えています(大は小を兼ねる)。つまり、横領か背任かが問題になった事案では、まず横領の成否を考え、それが否定された場合に背任の成否を検討するということになります。

 具体的には、だれの名前で行われたのか、また経済的な損失や利益がだれに帰属するようになっていたのかが問題にされます(判例では、名義と計算という基準で判断されることがあります)。つまり、自己の利益のために(つまり、自己の計算で)、他人の物(金銭)をあたかも自分の物(金銭)であるかのように(つまり、自己の名義で)処分していたと評価されるときには横領が成立するとされています。

■まとめ―ゴーン容疑者の場合―

 ゴーン容疑者に対する特別背任容疑に関しては、次のような事実が問題になっています。

 特捜部などによると、前会長は自分の資産管理会社と銀行との間で、金融派生商品であるスワップ取引を契約していたが、2008年秋のリーマン・ショックの前後に多額の評価損が発生した。同年10月、契約の権利を資産管理会社から日産に移すことで、約18億5千万円の評価損を負担する義務を日産に負わせた疑いがある。

 前会長はさらに、この契約を再び自らの資産管理会社に戻そうとしたが、銀行側から追加の担保を求められた。この際、サウジアラビアの知人に依頼して別の銀行による信用保証を取り付けてもらった。保証があることで、担保を差し入れるのと同様の効果が生まれ、前会長側に契約の権利が戻ったとみられる。前会長は、日産の子会社からこの知人が経営する会社に、09年6月~12年3月に4回、計1470万ドル(現在のレートで約16億3千万円)を入金させ、日産に損害を与えた疑いがある。

 特捜部は、この損失の日産への付け替えと、子会社を介した知人への入金について、二つの特別背任容疑が成立すると判断した。

出典:朝日新聞デジタル(2018年12月22日05時07分)
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 ここでは、多額の損失が発生した契約の権利が問題になっていますので、横領の成否は問題になりません。そこで、特別背任罪が検討されることになりますが、同罪は、取締役等が、「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えた」(会社法960条1項)ときに成立します。報道によると、取締役であるゴーン容疑者は、多額の損失が発生した契約の権利を、日産側に損害が発生することを認識しながら、取締役としての任務に背いてゴーン容疑者の資産管理会社から日産に移したということです(付け替え)。ただし、証券等取引監視委員会の指摘を受け、契約の権利は元に戻されています。ゴーン容疑者は、この点で実際には日産に損害は発生していないと主張しているとのことです。しかし、たとえば万引きが見つかった後で商品を返しても窃盗の事実は消えないように、この弁解はちょっと無理だと思いますが、かりに損害の発生について裁判所が否定したとしても、少なくとも損失の付け替えは実行されていますので、背任の未遂罪は成立しているのではないかと思われます。

 また、信用保証のための知人の会社への約16億円の入金ですが、これについてゴーン容疑者は業務委託の対価だと主張しているとのことです。しかし、もしもそのような取引実態がなく仮装のものであったならば、取締役としての権限を大きく逸脱し、手続きを偽装して、日産の資金を私的に流用したとして、背任よりもより犯情の重い業務上横領罪が成立する可能性もあります。

 他に、ゴーン容疑者には、日産の子会社による海外での複数の高級マンションの購入、家族の高額な海外旅行費用の肩代わりなど、いくつかの疑惑が報じられており、これらがかりに事実ならば、これらについても横領が問題になる可能性はあると思います。(了)