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稲垣吾郎・草なぎ剛・香取慎吾、元SMAPが進む道――3人の“独立”報道を読む

松谷創一郎ジャーナリスト
2017年6月19日のスポーツ新聞各紙。

3人独立、中居残留

 6月19日、SMAP元メンバーの稲垣吾郎・草なぎ剛・香取慎吾の3人が、ジャニーズ事務所との契約を終了することが発表された。3人は、元マネージャーが設立した新会社に合流すると見られている。その一方で、ともに脱退すると見られていた中居正広は、残留することになった。

 今回の一件で注目されるのは、やはり契約解除となる9月8日以降のことだ。その将来について、さまざまな憶測が飛び交っている。また、ジャニーズ事務所との契約を更新した中居についても、その選択がなにを意味するのか推察されている。

 果たしてマスコミはこの一件をどう報じ、そして3人は9月以降どのような立場となるのか。

ネットを恐れる芸能界

 昨年末のSMAP解散を経て、今回のジャニーズ事務所脱退は十分に予想されていた。その予兆として見られたのは、16年間続いてきた香取慎吾司会のテレビ朝日の番組『SmaSTATION!!』が終了するとの報道だった。5月までに「3人脱退・中居残留」の報道はすでになされており、結果としてはそのとおりになった。

 19日のジャニーズ事務所からの発表で異例だったのは、ジャニー喜多川社長からのコメントが添えられていたことだ。

この度3名が自分達の決意で異なる道を歩み始めますが、どこにいようとも、又どのような立場になろうとも、彼らを想う気持ちに変わりはありません。

出典:毎日新聞2017年6月19付「元SMAP:3人との契約終了 ジャニーズ事務所の全文」

 事務所を去る人間にジャニー社長から惜別の言葉が送られるのは、極めて異例だ。これを受けてか、昨年の解散報道のときのように報道が加熱する様子は見られなかった。全般的に、3人の今後を案じた内容が増えた印象がある。

 たとえば日刊スポーツの久我悟・文化社会部長は、過去の例からジャニーズ出身者が「干される」ことばかりではないと解説し、さらにこのジャニー社長のコメントによって「今後起用する側がジャニーズに遠慮なく手を差し伸べることができる」と明言した(6月19日付/ネット配信なし)。

 これは解散報道をリードしたスポーツニッポンも同様だった。そこでは、明確に「干す」ことが不可能だと書かれている。

確かにかつては強大な力を持った芸能事務所が、独立したタレントを出演させないようテレビ局などに圧力をかけることもあった。しかし、今はファンの指摘や批判がSNSなどですぐに拡散する時代。事務所も「炎上」の対象になる怖さは分かっており、タレントをあからさまに「干す」ことは事実上、不可能になっている。

出典:スポーツニッポン2017年6月19日付「香取、草なぎ、稲垣を待つ険しい道のり テレビ局の“忖度”起用しづらく…」

 こうした内容の是非はともかく、昨年しばしば見られたような過剰な煽りは観られない。たとえば当時サンケイスポーツは、独立すれば「新しい仕事のオファーはほとんど来ない可能性が高い」(2016年1月20日付)とまで書いたが、今回はそうした強い論調のスポーツ紙は見られなかった。

 マスコミ報道で特筆すべきは、テレビのワイドショーでも独立後の3人の将来について言及されていたことだ。それは、昨年までの解散報道ではあまり見られなかった光景だ。もちろんスポーツ紙の報道を引きながらではあったが、当事者でもあるテレビ局にとっては、芸能プロダクションとメディアの力学について触れることはデリケートだからだ(とは言え、局の幹部に取材するなどをしていないが)。

 また、このときにしばしば見られたのが、ジャニーズに残留する中居が緩衝材になるというアングルだ。これは、SMAPファンにも共有されている。つまり、3人を孤立させないために中居がジャニーズに残り、同時にそれは木村拓哉を悪役にしないためである──そうした見方だ。

 これらももちろん推測でしかないが、やはり大きな変化と言えるのは、マスコミが芸能界特有の力学について言及し、そして敏感になっていることだ。この背景にあるのは日刊スポーツも指摘するとおり、ネットにおけるファンたちの声や、業界の力学に左右されないネット報道があるからだろう。

 なかでも大きかったのは、37万筆を集めたファングループ・5☆SMILEによる署名活動である。ネットでの呼びかけがなければ、それは成し遂げられなかった動きだった。

 要は、マスコミと芸能プロダクションが仕掛けていたパワーゲームが、ネットによってかなり無力化されてきているのである。

SVODが活動の中心に?

 では、現実的に9月以降の3人の活動はどうなるのか?

テレビ番組は四半期ごとに改編されるが、9月8日以降に存続されるかどうかが注目されている。そのなかには、『「ぷっ」すま』や『おじゃMAP!!』のように「SMAP」をもじったタイトルの番組もあるので、簡単ではないはずだ。

 芸能界の案件も多く手がけている佐藤大和弁護士は、レギュラー出演しているフジテレビの『バイキング』(6月19日)において、契約はテレビ局とジャニーズ事務所によって締結されていると話した。よって、今後3人がそれらの番組に出演し続けられるかどうかは、ジャニーズ事務所しだいという情勢だ。

 現在、タイミング的にはテレビ局とジャニーズ事務所、そして本人たちが交渉している最中なので、存続の有無についてはまだ決まっていないと考えられる。NHK『ブラタモリ』の草なぎ剛のナレーションは存続するのではないか、という見方も出ているが、まだまだ不透明だ。

 報道では、3人が元チーフマネージャーの飯島氏と合流するのは確実だと見られている(スポーツニッポン6月19日付)。そして、中国や韓国など活躍の場を東アジアに求めるという見方もある。

 また日本の地上波テレビから締め出されても、活動の場はほかにもある。映画や舞台、そして動画配信サービス(SVOD)など選択肢は多い。なかでも注視したいのは、NetflixやAmazonプライム・ビデオなどSVODの動向だ(Huluは日本テレビ傘下、AbemaTVもテレ朝関連会社であるために、民放局と連動した動きとなる可能性が高い)。

 アミューズ製作の『深夜食堂』がNetflixで、吉本興業製作の『ドキュメンタル』がAmazonプライムで配信されているように、SVODは地上波テレビ放送とは異なるチャンネルとして、順調に存在感を増している。よって、もし地上波テレビから3人が追い出されても、単にSVODで活動すればいいだけの話だ。

 テレビ局がジャニーズ事務所に“忖度”して、これまでどおりの振る舞いをすれば、単に人気タレントを3人失う結果になるだけだ。逆に考えれば、NetflixやAmazonにとって、それは願ってもない展開かもしれない。つまり、ここでもネットによってテレビ局が相対化されている。

 ジャニーズ事務所は9月以降のことはあらためて説明するとしているが、今回のリリースもファクスで送り、いまだにネットでのタレント画像の使用を認めないジャニーズが、こうしたメディアの現状をどれほど読めているかはわからない。

 フェイクニュースやレイシズムの蔓延など、ネットには問題も山積している。しかし、その存在感は既存メディアにとってかなりのプレッシャーになっていることは間違いない。今回の3人に対する報道を見ても、それは十分に感じ取れたことでもあった。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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