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日本人男子最年長勝利記録を更新した46歳の現役ファイター

林壮一ノンフィクションライター
撮影:筆者

 12月16日にスーパーミドル級8回戦のリングに上がり、2ラウンドKO勝ちを収めた野中悠樹。46歳の野中は、日本人男子最年長勝利記録を更新した。

撮影:筆者
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 野中は振り返る。

 「今回の試合で学んだ事は特に無いのですが、6月から3ヶ月のスパンでリングに上がり、ノーダメージで3試合できたのは、キャリアでほぼ初です。身体を作り上げるにはちょうど良かったかなと感じます」

 兵庫県尼崎市出身の野中は、小・中と9年ほどサッカーに打ち込む。ポジションは右ウイングだった。

 「でも、中学校でレギュラーじゃなかったので、自分のスポーツじゃないんやな、と感じ、高校時代はバンド活動なんかをやっていました。格闘技には興味があったんですよね。高校卒業後の19歳の時に、バイクの事故で半寝たきりのような状態となってしまったんです。高速道路で160キロくらいで走っていて吹っ飛んだんで、鎖骨が折れ、両手両足も動かなくなって…。スピード出すのが好きだったんですよね(笑)。

 入院中、体を動かして自分を追い込みたいという気持ちになって、両腕にギブスを付けたままでボクシングジムに見学に行ったんです。その日の夜に、友人に糸鋸でギブスを切ってもらって、翌日、入門しました」

撮影:筆者
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 当時、関西のボクシング界には辰吉丈一郎というスターの存在があった。大阪ドームでタイのウィラポン・ナコンルアンプロモーションに挑んだ頃である。

 「勝ったり負けたりしながらですが、漠然と、自分は上に行けると思っていました。負けても、止めようという選択肢は無かったです。それは46歳になった今も同じです」

 ジョージ・フォアマンがマイケル・モーラーをKOして世界ヘビー級チャンピオンの座に返り咲いたのは45歳である。

撮影:筆者
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 「去年まではミドル級で世界ランキングに入っていましたし、4~5年前はスーパーウエルター級で世界4位につけていたので、世界挑戦まではしたいです。いずれボクシングを引退し、どんな仕事に就くか分かりませんが、世界の頂きに手が届くって、ほぼ無いじゃないですか。あとちょっと、というところまでは来たので、世界挑戦するまでは諦め切れないですね」

撮影:筆者
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 とはいえ、日本においては"重量級"に括られるクラスで、世界戦を組むのは至難の業だ。

 「これまでに2度、スーパーウエルター級で、世界戦が決まりかけたことがあるんですよ。本当に、あと少し、というところまでは来たので……」

 しかし野中は、2022年7月24日にWBOアジアパシフィック・ミドル級タイトル3度目の防衛戦でベルトを手放し、2023年6月10日にも、日本スーパーミドル級王座決定戦を落としてしまう。

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 「確かに遠のいてしまいました。が、やっている限りは、0パーセントじゃない限りは、続けたいですね。納得いくところまで。

 瞬発力やスタミナが多少なくなってきていますし、疲れやすくなったり、筋肉の発達が遅くなったりもしています。でも、時間を掛けたら、ある程度のピーク、30代半ばくらいの状態は作れるんですよ。

 キャリアを重ねたことで、昔は足で外していた相手のパンチをブロッキングで躱せるようになったとか、老獪になっている自負もありますよ。この階級ですから、パワーとスピードは落とせないので、そういうトレーニングをしています。まぁ時間もないので、チャンスに食い込んでいけたらと思っています」

撮影:筆者
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 目下の野中の戦績は、37勝(11KO)12敗3分け。先日のファイトは、23歳の娘から贈られた手作りのトランクスを穿いてリングに上がった。

 大ベテランは、今後、どんな戦いを見せていくのか。「納得いくところまで」と語る彼の言葉が瑞々しかった。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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