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7回KOで全勝対決を制した「ボクシング界の顔」

林壮一ノンフィクションライター
Esther Lin/SHOWTIME

 「特別リングサイドのチケットが5万ドルだって?! 私やメイウェザーの時代よりも遥かに高額だ! それだけ、ファンがこの試合を待ち望んでいるってことさ」

 試合前、ライアン・ガルシアのプロモーターであるオスカー・デラホーヤはそう語っていた。デラホーヤが手塩に掛けて育ててきたガルシアの戦績は、23戦全勝19KO。確かに目を引く数字だが、28戦全勝26KOのジャーボンテイ・デービスと比べると、真の強豪との対戦は無いと言っていい。

 <全勝対決>と話題になったデービスvs.ガルシア戦が催されたTモバイル・アリーナは2万842人のファンで埋まり、チケットはソールドアウト。久しぶりにラスベガスがボクシングで活気付いた。

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 とはいえ、両ファイターの実力差は歴然としていた。12度の世界戦に勝利したデービスと、暫定王座決定戦で一度勝利しただけのガルシアでは、潜って来た修羅場の数が違う。

 ガルシアが攻めたように見えたシーンもあったが、全てデービスの掌の上で踊らされただけであった。デービスは敢えて積極的に打って出ず、時にロープを背負いながら、じっくりとカウンターのタイミングを計った。そして第2ラウンド1分58秒、ドンピシャの左フックでダウンを奪う。

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 左フックを得意とし、19のノックアウト勝ちをマークしてきたガルシアだったが、ダウン後、デービスのカウンターを警戒して飛び込めなくなる。

 一方のデービスは余裕を持ってガルシアを丸裸にし、7回に左ボディーで仕留めた。その時点での採点は59-55、59-56、58-56と、デービスの圧勝だった。

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 ボディーを打たれてキャンバスに膝をついたガルシアは、レフェリーのトーマス・テイラーがカウントする中、立ち上がろうとした。しかし、ダメージは深刻で、同ラウンド1分44秒にカウントアウトされた。

 スーパーフェザー級、スーパーライト級に加え、WBAライト級王座を持つデービスは、これで4連続KO勝ちを飾った。

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 メガ・ファイトで会心の勝利を飾ったデービスは言った。

 「最初のダウンは、彼が自分のポジショニングを誤ったんだ。俺の方が体が小さいのは分かっていたし、トレーナーもキャンプで『ヤツは頭を上げてくるぞ。上を狙え』と言っていたよ。

 あのボディショットで決着がつくとは思わなかったが、ガルシアの顔を見て、終ったな、と思った。確かに手ごたえ十分の一発だった。彼が立ち上がるかとも感じた。俺は心理戦が好きだから、『来いよ!』と伝えようとしてヤツを見た。そしたら、ガルシアは首を横に振って『ノー』と言ったんだよ。

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 この試合に関するすべてがエキサイティングだった。俺はアマ時代、ゴールデングローブ大会に出場しながら育ったし、MGMグランドでフロイド・メイウェザーの戦いを見て、『いつか、自分もああなるんだ!』って誓いを立てた。そして今、ここにいる。夢が現実となっている。でも、引退するまで仕事は終わらないから、謙虚に、自分の仕事を続けていくつもりだ。俺は間違いなく、ボクシング界の顔だ!」

 ジャーボンテイ・"タンク"・デービス。確かに彼を止められる選手を挙げろと言われても、思い付かない。連勝記録をどこまで伸ばせるか。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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