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YouTuberファイターの次戦は、元世界ヘビー級王者の息子

林壮一ノンフィクションライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 YouTuberのジェイク・ポールが8月6日にリングに上がる。今回もSHOWTIME がPPVでの放送を決めた。場所は、あのニューヨーク、マディソン・スクエア・ガーデン。クルーザー級での8回戦で、対戦相手はハシーム・ラクマン・ジュニアだ。

写真:REX/アフロ

 様々なYouTuberの活躍が目覚ましい昨今、名ファイトを長年放送してきたSHOWTIMEも、ボクシング史に多大なる貢献を見せているマディソン・スクエア・ガーデンも、カネを生むYouTuberを使うようになった。

 こういった傾向がボクシング界にとって、良いことか悪いことかの論議は別として、私は"ラクマン"の名を聞いて懐かしくなった。

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 2001年4月22日、ハシーム・ラクマン・シニアは南アフリカでWBC/IBFヘビー級王者のレノックス・ルイスを5ラウンドでKOして王座に就いた。

 試合の1カ月前から南アフリカ入りしてコンディションを整えたラクマンに対し、ルイスは8日前までラスベガスに滞在し、ハリウッド映画『オーシャンズイレブン』の撮影をこなしながらの調整だった。

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 11人の窃盗団が1億5000万ドルを盗み出すその日、ラスベガスでは世界ヘビー級タイトルマッチが行われ、ルイスは本人そのままの役で出演した。もっとも映画の中で彼がスクリーンに登場するのは花道を歩くシーンと、リングで戦う数カットに過ぎず、時間にすれば1分にも満たない。

写真:ロイター/アフロ

 IBF4位だったラクマンは2度のKO負けを喫しており、安全な咬ませ犬とルイスが感じたことは想像しやすい。試合直前に現地に降り立ったルイスの躰は、現役生活で最も重いものだった。

 同ファイトをライブ中継したHBOのアナウンサーは「1990年に、東京ドームでマイク・タイソンがジェイムス・ダグラスに敗れて以来の番狂わせだ!」と叫んだが、両者の実力差は大きく、7カ月後のリターンマッチでルイスは4回ノックアウト勝ちでタイトルを奪い返す。

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 ルイスとラクマンの第2戦が催された折、当時10歳だったラクマン・ジュニアは、会場となったマンダレイベイ・イベントセンターにやってきていた。

 そのジュニアも早31歳。190.5センチ、126キロのプロボクサーとして13戦して12勝(6KO)1敗。今年の4月29日に初黒星を喫して以来の再起戦となる。

ベルトを掲げるのが10歳だった頃のジュニアだ
ベルトを掲げるのが10歳だった頃のジュニアだ写真:ロイター/アフロ

 ジュニアは言う。

 「ジェイク・ポールとは2年前にスパーをしたんだ。簡単な相手だったよ。でも、今回はスパーじゃない。きちんと準備して、ヤツをKOしてみせる。自分の名が汚されることは許されないんだ」

写真:ロイター/アフロ

 2年前のスパーとは、ポールがプロデビューを控えていた頃である。ラクマン・ジュニアにしてみれば、ボクシングの厳しさを教えてやりたいところだろう。

 8月6日のジュニアは、父がルイスに挑んだ一戦とは違った形で注目されそうだ。YouTubeファンに自身の存在を知らしめるにはいい機会である。シニア以上の圧勝を見せることが出来るだろうか。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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