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オーストラリア戦間近! サムライブルーのGK、シュミット・ダニエルをインタビューした

林壮一ノンフィクションライター
(写真:松尾/アフロスポーツ)

 カタールW杯アジア最終予選、アウェイでのオーストラリア戦が近付いてきた。この試合で勝ち点3を奪えば、カタール大会出場が決定する。3月24日の同ゲーム、そして29日ホームでのベトナム戦に挑むメンバー27名が発表された。コロナ禍における2連戦ということで、通常より4人多い27名が招集された。

 2022年1月27日の中国戦、2月1日のサウジアラビア戦に続き、シュミット・ダニエルの名前も挙がった。

 相変わらず熾烈なポジション争いは続くが、今回のインタビュー中、シュミットからは精神面の充実度を感じた。

写真:STVV提供
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 現在、シュミットが所属するシント=トロイデンVVは18チーム中10位で6試合負けなし。2月3日に30歳となり、Aキャップ7を数えるシュミットは言う。

 「コンディションの調整法というのでしょうか、疲れを上手くコントロール出来るようになった気がします。体の衰えを感じたことはありませんが、疲労を抜くための手段を掴めた感じです。睡眠と、入浴の重要性を再確認しています。

 シント=トロイデンVVで3年目ですが、今シーズンはいい感覚でやれています。余計なことを考えずに、ただ自分の仕事、役割に専念しています。何をすべきか、ということがハッキリと僕の中で整理出来たかな…。そういう意味で、プレーにメリハリがついたように思います。ちょっと安定してきたかなという感じですね」

写真:STVV提供
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 表情も発言も、1年前のシュミットとはまるで違う。確かな落ち着きが感じられる。やはりそれは、一つの壁を乗り越えたことと無関係ではあるまい。

 2021年6月15日に行われたカタールW杯アジア2次予選、対キルギス戦を境に、シュミットは6試合、代表から遠ざかった。本コーナーで度々登場する元アルゼンチンユース代表のセルヒオ・エクスデロは、「何故、彼が選ばれないのか、解せない!」と憤慨していたが、本人は冷静に受け止めていた。

写真:松尾/アフロスポーツ

 「僕の代わりに谷晃生選手が入りましたね。正直、東京五輪での谷選手の活躍は目覚ましかったので、彼が選ばれるならあのタイミングだったと思うし、自分の中では納得していました。外れたからと言って、やることは変わらない。毎日コツコツ努力し続けるしか自分には無かったです。それが試合で結果に繋がれば、また代表に選ばれる可能性が出てくると信じていたので、とにかく自分が出来ることを精一杯やろうとだけ考えました。

 代表を外れている間にグンと強くなったっていうような感覚は無いです。一日一日集中してやった結果、日々の取り組みによって選出されるってことに繋がるんだなと。当たり前のことですが」

写真:STVV提供
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 谷、そして現在サムライブルーの正GKとなっている権田修一、ベテランの川島永嗣と共にシュミットはオーストラリアに向かう。ヨーロッパで2シーズンを戦ったシュミットは、少なからず積み重ねた物を感じているそうだ。

 「内容にもよりますが、失点からの切り替えが速くなったと思いますね。試合中にどれだけ悔やんでも、もうそのプレーは返ってこないので、次にいいプレーするんだ、というマインドでやっています。

 自分の映像を見返すと、失点する時って、相手にシュート打たれる寸前のタイミングがズレていたり、小さなディティールの狂いなんです。どんなGKもそうでしょうが、ズレが原因で失点していることが多いので、細かい部分を突き詰める作業が必要ですね。シュートストップの前、打たれる時にいいタイミングで構えられていて、手をセット出来ているかとか。今の課題を挙げるなら、シュートを打たれる時のセットポジション、セットのタイミング、それが合っていればある程度の対応が可能となり、パフォーマンスを上げられると感じています」

写真:松尾/アフロスポーツ

 およそ一年前のインタビューの際、シュミットは「重圧の中でどれだけ落ち着いてプレー出来るかを課題としている」と話していた。

 「今、ベルギーリーグでどれだけの重圧を感じているか? と問われたら、そこまで大きな物でもないと思うんです。もちろん、毎試合、プレッシャーはありますが、客観的に見ると、それほど大きくないと受け取るところがあるのも事実です。

 もっと大きなヨーロッパのリーグでプレーする折に、落ち着きが試されると思うんですね。ベルギーリーグの重圧を感じないくらいの気持ちでプレー出来るようになれば、次のステップへの準備となるんじゃないかと考えています」

写真:STVV提供
写真:STVV提供

 現在10位のシント=トロイデンVVだが、順位を2つ上げると、5位~8位によって争われるプレイオフIIへの出場権を得られる。

 「8位以内に入ると、約1カ月かけて、ヨーロッパ・カンファレンスリーグの出場権を懸けたゲームが待っています。5位から8位までの4チームが、ホーム&アウェイで2試合ずつ戦うんです。残り3試合で8位に入れるようにやっていきたいですね。一応、そこが見えている状況ですが、目の前の試合に勝つということだけを考えています。

 クラブの課題としては、決定機、チャンスを作る回数、そしてチャンスになる形のバリエーションを増やす点でしょうか。守備はこの6試合で2失点と上向きなので、もっと色々な形の攻撃を見せられるようになったら、面白いチームになるんじゃないかな」

 ご存知のように、シント=トロイデンVVはシュミットの他に、松原后、橋岡大樹、香川真司、林大地、原大智と計6名の日本人選手を抱える。

 「日本人同士でお互いをサポートし合っています。日本人独特の献身性が、ピッチで生きているようにも感じます。それが、チームにいい影響を及ぼしているんじゃないでしょうか。強いて言えば、デメリットは英語のコミュニケーション能力が停滞するってことかな」

写真:松尾/アフロスポーツ

 現役選手なら当然だが、その誰もがW杯に対して特別な思いがある。シュミットは言葉を続けた。

 「自分の夢はW杯に選ばれてピッチに立つことです。そしてヨーロッパの4大リーグでプレーすることです」

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 東日本大震災から11年が過ぎ、つい先日(3月16日の23時36分頃)は、牡鹿半島の南南東70km付近を震源地とするマグニチュード7.3の地震が発生した。

 「3.11から11年も経ちましたが、被災した方々については、おそらく昨日のことのように感じる出来事だったと思うし、そこからの気持ちのリセットと言うのは、おそらく一生、難しいでしょう。

 僕に何か出来るとすれば、相手がシュートを打つ瞬間に飛び込むような勇気あるプレーや、逞しさを見せて被災した方々に少しでも何かを感じて頂く……ということですかね。被災地の方々と同じ土地で育った一人間として、そういう目で見てもらえれば。少しでも親近感が湧いて喜んでもらえるんじゃないかなと思っています」

 W杯が開催される2022年は、シュミットにとって勝負の年だ。更なる飛躍を期待したい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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