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元世界チャンプの同士のベテラン対決に勝利した38歳が乗り越えた道のり

林壮一ノンフィクションライター
Photo:Scott Kirkland/FOX Sports 勝者ゲレーロ

 WBAウエルター級タイトルマッチ、マニー・パッキャオvs.ヨルデニス・ウガス戦のセミファイナルは、元世界チャンプ同士の対戦となった。

 IBFフェザー級、IBFスーパーフェザー級、WBA/WBO暫定ライト級、WBC暫定ウエルター級タイトルを獲得したロバート・ゲレーロ(38)と、元WBCウエルター級王者のビクター・オルティス(34)。共にサウスポーである。

 また、ゲレーロは2013年5月4日に判定で、オルティスは2011年9月17日に4回KOで、同一の相手ーーフロイド・メイウェザー・ジュニアに敗れていた。

Photo:Scott Kirkland/FOX Sports
Photo:Scott Kirkland/FOX Sports

 セミファイナル開始時、会場はかなり埋まっていた。この日は1万7438名の観客がT-Mobileアリーナにやって来たが、コロナ禍での興行としては上出来であろう。

 全盛期の動きと比較すれば流石に衰えは隠せなかったが、両者は決め手を欠きながらも意地を見せた。

Photo:Scott Kirkland/FOX Sports
Photo:Scott Kirkland/FOX Sports

 リング上に設けられた大型スクリーンにパッキャオの姿が映し出される度に、会場はヒートアップした。試合中だというのに、ファンの関心はリングで戦う2人の元チャンピオンではなく、あくまでもパックマンだった。

 フェザー級だったゲレーロがウエルター級ファイターとなり、スピードを失いながらも前進する様は、否が応でも時の流れを感じさせた。

Photo:Scott Kirkland/FOX Sports
Photo:Scott Kirkland/FOX Sports

 2010年3月、ゲレーロは保持していたIBFスーパーフェザー級タイトルを返上している。ガンとの闘いを強いられた妻に寄り添うためだった。14歳から交際し、生涯を共にすることを誓った妻は、造血幹細胞移植手術を受けねばならなかった。

 「手術の成功率は50%」と告げられたゲレーロは、時間の許す限り妻に寄り添い、食事を用意し、注射を打つ際には隣に座って励ました。

 56.7kgあった体重が44.5kgとなり、痛みに体をよじり、嘔吐を繰り返す妻を支えながら、ゲレーロはひたすら神に祈ったという。この時期、ボクシングからは離れていたが、自分の精神状態を保つために、時折ジムで汗を流したそうだ。

 「本当に苦しい日々だった。2人の子供の世話もあったしね。生きるには、いかに強いメンタルが必要とされるかを学んだ。同時に、どれほど家族が大事なのかが分かった」

 当時をそう振り返るゲレーロは、3名のジャッジ全員に96-94と採点され、勝利を掴んだ。

Photo:Scott Kirkland/FOX Sports
Photo:Scott Kirkland/FOX Sports

 「ファンの前で戦えて、実に嬉しい。彼らからエネルギーを頂いたよ。この試合が戦争となることは理解していた。ビクター・オルティスもベストを尽くしたよね。

 誰とでもファイトする準備はできている。今日の試合を家族に、そして、自分の功績すべてを、私たちを救ってくれたジーザス・クライストに捧げる」

 白星を一つ加え、自身の戦績を37勝(20KO)6敗1分けとしたゲレーロは、試合後に語った。

 ゲレーロの夫として、父親としての闘いを垣間見ることができ、胸が熱くなった。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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