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50得点、1点差で勝利、千両役者の背番号0

林壮一ノンフィクションライター
リラードの鬼気迫るプレー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 試合終了まで、残すところ5分56秒。ポートランド・トレイルブレーザーズは、100-117でニューオーリンズ・ペリカンズにビハインドを負っていた。

 NBA2年目の新人ながら、ペリカンズの主力となり、先日のオールスターにも選出されたザイオン・ウィリアムソンは、24得点8アシスト5リバウンドと存在感を見せた。スモール・フォワードのブランドン・イングラムも30得点5リバウンドでチームを引っ張り、シューティング・ガードのニッケル・アレクサンダー=ウォーカーも、20得点5リバウンドの活躍だった。

 西地区で11位と苦しみながらも、同6位のブレーザーズを下してリーグ終盤に巻き返しを計るーーペリカンズはそんなプレーぶりで、勢いを感じた。

結局、この日のザイオンは28得点8アシスト5リバウンド
結局、この日のザイオンは28得点8アシスト5リバウンド写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ブレーザーズはこの日、シューティング・ガードのCJ・マッカラムがスターティングメンバーとしてコートに立った。1月16日のアトランタ・ホークス戦で左足を複雑骨折して以来の復帰である。

 26分4秒間プレーして、10得点4リバウンド2アシスト、ターンオーバー4回と、身体のキレが戻るにはまだ時間が掛かりそうだ。

ケガを乗り越え、ようやく復帰したCJ ・マッカラム
ケガを乗り越え、ようやく復帰したCJ ・マッカラム写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 そんな同僚を鼓舞するかのように、エースの背番号0、デイミアン・リラードが落ち着いて得点を重ねていく。ペリカンズに隙を見付ければ3ポイントを、相手がロングシュートを警戒してディフェンスの綻びを見せると、ドライブしてのレイアップと、劣勢に立たされながらも黙々とゴールに向かう。

リラードとザイオンが1対1になる。ブレーザーズのエースは期待の若手に勝負の厳しさを教えた
リラードとザイオンが1対1になる。ブレーザーズのエースは期待の若手に勝負の厳しさを教えた写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 そしてファールを誘い、フリースローを得ると、絶対に外さない。まさしく練習の賜物である確かな技術と、"マスター"と呼んでいい精神力の強さだ。

 リラードがレイアップを決め、120-120の同点に追いついたのはタイムアップの52.2秒前だった。

12度の50得点超えは、NBA歴代7位で、レブロンと並んだ
12度の50得点超えは、NBA歴代7位で、レブロンと並んだ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 しかしながら、ペリカンズもザイオンのジャンプショットとドライビングレイアップで4点を追加し、再びリードを奪う。

 ここからリラードは、千両役者ぶりを見せ付ける。ドリブルで切り込んではファールを奪い、フリースローを獲得。

 結局、5本連続でフリースローで得点し、勝利を掴む。

現地時間16日は、20本のシュートを放ち13本成功させた
現地時間16日は、20本のシュートを放ち13本成功させた写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 この日のリラードは40分36秒プレーし、50得点10アシスト6リバウンドをマーク。50得点は今シーズンのハイであり、彼が1試合で50得点以上を挙げるのは12回目となった。

 特筆すべきは、50得点のうちの20を最終Qに挙げたことと、18本のフリースローを全て決めた点である。

 試合終了から44分後にスタートしたZoom会見で、リラードは「リードされていた時間帯も、過去の経験からこうなることは分かっていた」と訥々と話した。

 彼は、先日、66歳で急死した伝説のボクサー、マーベラス・マービン・ハグラーのシャツを着て会見に臨んでいた。その姿は、3日前に本コーナーでハグラーの追悼文を記したばかりだった私の胸を熱くさせた。https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20210315-00227409/

3月13日に急死した元統一ミドル級王者のマーベラス・マービン・ハグラー
3月13日に急死した元統一ミドル級王者のマーベラス・マービン・ハグラー写真:REX/アフロ

 確かに、リラードのメンタルの強さは、ハグラーと共通するようにも思える。改めて、リラードの魅力を感じる一日であった。

 ひとつだけ残念だったのは、リラードにハグラーに関する質問をしようと挙手したのだが、指されずに終了時間が訪れてしまったことだ……次の機会を待ちたい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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