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大地に根を張って生きる"BIG"ジョージ・フォアマンの言葉

林壮一ノンフィクションライター
撮影:著者

 「フィラデルフィアに来ていたんなら、会いたかった。私は車で一時間の場所に住んでいるんだぜ」

 先日、ジョージ・フォアマンの実弟、ロイがそんなメールを送って来た。確かにフィラデルフィア滞在には、もっと時間を費やしたかった。

 実は今回の渡米前、米国南部のテキサス州ヒューストンで"BIG"ジョージとも3年振りの再会を果たそうと取材を申し込んだ。が、「コロナ禍で教会を閉じているので、パンデミックが去ってからにしよう」との回答だった。

 2月に入ってから、ヒューストンは30年に一度とされる寒波に見舞われ、40名以上が命を落とした。コロナに加えての惨劇である。

米大統領バイデンも2月26日に寒波被害のテキサス州を訪問した
米大統領バイデンも2月26日に寒波被害のテキサス州を訪問した写真:ロイター/アフロ

 私なりにフォアマンを励まそうとメールを送ると、翌日、返事が届いた。

 「心遣い、ありがとう。私自身、家族、そして隣人たちは今のところ大丈夫だ。こんな時でも喜びを見出して生きよう。早く再会したいものだな」

 と書かれていた。

2018年3月のインタビューより  撮影:Troy Taormina
2018年3月のインタビューより  撮影:Troy Taormina

 本コーナーでも2018年6月に触れたが、ハリケーン・ハービーがヒューストンを襲った折、フォアマンは住居を失ったヒューストン市民に、自身の活動の場であるユースセンターを開放している。

 当時、フォアマンは言った。

 「水も食料も毛布も用意するから、好きなだけここを使ってくれ。遠慮はいらない。隣人を支えるのは当然のことだ」

 今、彼がどのように新型コロナウイルスや寒波による被害と向き合っているのか訊きたいが、じっくりとインタビューするのは少し先になりそうだ。

2018年3月のインタビューより 撮影:Troy Taormina
2018年3月のインタビューより 撮影:Troy Taormina

 よって、今回は「ボクシングから学んだこと」について、過去にフォアマンが語った言葉を紹介したい。

撮影:著者
撮影:著者

 「ボクシングは、人生において大切なものを私に教えてくれた。例えば、自分の耳に入って来る声援やブーイングは何の意味も無いということだ。リングで感じるのはパンチのみ。もし、自分がキャンバスに倒れても、観客に文句を言うのは筋違い。彼らが、私を含めたボクサーを築くのではない。

 食らったパンチの痛みを即座に払いのけ、試合を終わらせるべく闘わねばならない。グラスジョーとされる顎は、次のラウンドに頭が働かないという意味だ。

 私は、常々人類と共に生き方を追求している。ボクシングとは勝利が全てではなく、他者に何を与えられるかが大事だ。試合後に対戦相手と握手を交わすこと、小切手を使う場合は急いで銀行に預金すること、そんな積み重ねが生きるってことなんだよ」

1994年11月5日、45歳で世界ヘビー級チャンピオンに返り咲いたフォアマン
1994年11月5日、45歳で世界ヘビー級チャンピオンに返り咲いたフォアマン写真:ロイター/アフロ

 フォアマンは、昨年11月末に行われたマイク・タイソンvs.ロイ・ジョーンズ・ジュニアのエキシビションを目にし、前座に出場して初回KO負けを喫した元NBA選手、ネイト・ロビンソンを慮っている。

 「失望するな。ボクサーなら誰もが、キャンバスに倒れた苦い経験がある。でも、我々はまた立ち上がって、人生にTRY出来るんだ。君は負けたかもしれない。でも、私はその勇気に敬意を払うよ」

 ジョージ・フォアマンは人として"BIG"であり、一言一言が本当に深い。再会の日が待ち遠しい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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