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残り時間31.4秒で逆転勝ちしたブルックリン・ネッツ ~背番号13の継承~

林壮一ノンフィクションライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ジェームズ・ハーデンが放った3ポイントシュートが決まり、スコアは126 - 124となった。試合の残り時間が31.4秒となって初めて、ブルックリン・ネッツは優位に立った。

ナッシュがブルックリン・ネッツの監督に就任したのは2020年9月
ナッシュがブルックリン・ネッツの監督に就任したのは2020年9月写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 2月16日、フィニックス、アリゾナ。ケビン・デュラント、カイリー・アービングをケガで欠くネッツは、TipOff直後から劣勢に立たされた。対戦相手のフィニックス・サンズは、ネッツの監督であるスティーブ・ナッシュが現役時代を過ごしたチームである。

 客席には「Welcome Back Steve Nash」と書かれたボードが見えた。

現役時代のナッシュ
現役時代のナッシュ写真:ロイター/アフロ

 ナッシュは18シーズンNBAでプレーし、サンズに在籍していた2005年、2006年と連続でMVPに選出されている。ポジションはポイントガード。2005年から3季連続、更に2010、2011年と5度アシスト王にも輝き、オールスターには8度出場した。

 ナッシュが引退をアナウンスしたのは、2015年の3月。その直前、クリーブランド・キャバリアーズは、カイリー・アービングのバックアップとしてプレーしないか? と彼にオファーを出した。

 今季より監督となり、そのアービングやデュラント、そしてハーデンを指導しているのだから、時の流れを感じる。

 人格者として知られるナッシュだが、NCAA等での監督やアシスタントコーチを経ず、いきなりNBAの監督となった点を疑問視する声も少なくなかった。

 だが、蓋を開けてみれば17勝12敗と、上位を争いながら首位であるフィラデルフィア・セブンティシクサーズを追っている。それでも、昨日のゲームでは、チームの顔であるデュラントが左腿裏、アービングは背中の痛みでベンチにも入っていない状況に立たされた。

 サンズのポイントガード、クリス・ポールは好調で、29得点7アシスト。ここぞという場面で3ポイントを決め、ゲームの流れはサンズが掴んでいた。

今日のサンズのコントロールタワー、クリス・ポール
今日のサンズのコントロールタワー、クリス・ポール写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 4Q開始時点で88-100と劣勢に立たされていたネッツだが、試合終了の5分33秒前にハーデンがコートに戻ると、猛攻を見せる。ハーデンは、かつてのチームメイトであるポールの動きを観察したうえで、ギアを入れたかのようにも見えた。

 そして終了間際に逆転し、さらにハーデンが2本のフリースローで加点。結局、128-124で西地区5位を下し、東地区2位の座につけている。この夜のハーデンは、38得点11アシストと大車輪の活躍であった。

現役時代のナッシュと同じ13を背負うハーデン
現役時代のナッシュと同じ13を背負うハーデン写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 試合後、ナッシュは言った。

 「チーム全体がいい。選手たちは非常に気持ちの入ったプレーをした。主力の二人はベンチ外だったが、各々がハートを見せたね。

 フィニックスが私にとって大きな意味を持っているのは当然だ。言葉に出来ないほど、素敵な時間を過ごせた。チームメイト、コーチ、組織と、全てがこの上ないものだった。加えてファンも素晴らしかった。ここに住んでいた10年間の毎分毎分、私は心から愛情を感じていたよ」

 シーズン途中からハーデンがネッツに移籍したことで、戦力は格段にアップした。とはいえ、16日のサンズ戦はナッシュの采配を強烈に印象付けるゲームであった。そのキープレーヤーが、現役時代のナッシュと同じ背番号13だというのも、偶然ではないように感じる。

 ナッシュに「名選手名監督にあらず」という言葉は当て嵌まらないか。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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