年俸32億円強の絶対的エースが見せた己の価値
2Qが終了し、ポートランド・トレイルブレイザーズは70-50でニューヨーク・ニックスをリードしていた。
この時点で、ゲームの最多得点者はブレイザーズのポイントガードであるデイミアン・リラード。15分4秒の出場で、18得点、5アシストを挙げていた。身長188センチとNBA選手としては小柄ながら、抜群の戦術眼でチームを牽引する。
5度のオールスター出場。30歳にして、年俸3162万ドル強を稼ぐスター選手である。
現地時間1月24日、今シーズン8勝6敗のトレイルブレイザーズはホーム、モダ・センターで、8勝9敗のニックスと対戦した。
昨シーズンの今頃---新型コロナウイルスが地球上を覆い尽くす前---モダ・センターは、リラードがフリースローを打つ度に「M・V・P!」「M・V・P!!」と大合唱に包まれた。
だが、リラードは2020年オールスターの直前に鼠径部を痛め、2月12日以降、治療とリハビリを余儀なくされる。復帰したのは、八村塁が所属するワシントン・ウィザーズがポートランドにやって来た3月4日のことであった。32分間プレーし、22得点5アシストをマーク。
八村とマッチアップするシーンもあった。リラードが切れのいいカットインを見せると、八村はその動きに付いていけなかった。
高校入学時に165センチしかなかったリラードは、周囲を活かすパスと巧みなドライブで己を磨いた。
ニックス戦でも自らが得点を重ねるだけでなく、パスで相手を翻弄した。特に私が唸ったのは、1Qの終盤にベンチスタートだったパワーフォワードのナシアー・リトルがフリーになった瞬間に絶妙のボールを出したシーンだ。
2年目のリトルはこの日、5分55秒間コートに立った。リバウンド1、アシスト1を記録したものの、1本もシュートを放つことができなかった。リトルはニックス戦を含め、今季5試合に出場中だが、どれだけ要求してもアンファニー・シモンズやCJ・エレビーといった若いガード陣から、パスが回って来ない。
そんな新人に経験を積ませる優しいパスが出せるリラードのリーダーシップは、見上げたものであった。
2Q、ブレイザーズの監督は頭から8分56秒リラードを温存した。37-24でリードしていたため、若手に出場時間を与えたのだ。2Qの残り3分余り、そして3Qにコートに立ったブレイザーズの背番号0はコンスタントにシュートを決め、自身だけで32得点と格の違いを見せる。
4Qも89-77でリードしていたブレイザーズは、スタートから4分5秒間、リラードを休ませ、若いガードを投入する。しかし、その間にニックスは息を吹き返し、差を縮めていった。
必死で追い縋るニックスに対し、コートに戻ったリラードやベテランのカーメロ・アンソニーがファールを誘い、要所で冷静にフリースローを決めて116-113でブレイザーズが勝利を掴んだ。
試合後のオンライン会見で、39得点8アシストの活躍を見せたリラードは言った。
「セカンドグループ(ベンチスタートのメンバー)が、今日のようにコートに立つことは非常に大事だ。2番手の選手たちがコミュニケーションをとり、どのようにシュートまで持っていくか、またシュートを打つか、いかにゾーンで守るかを肌で感じられるからね。チームが成功する為には、こういうゲームが必要だよ。メンタリティーも鍛えられるし、エネルギーにもなる」
リラードをもっとプレーさせれば、よりEasyに白星を挙げられただろう。が、彼の言葉通り、長いシーズンを戦うには若手を育てながら勝ち切るゲームも貴重だ。層の厚さに繋がる。
リラードのようなリーダーがいる組織は、伸びる。そう実感させられる試合だった。
年俸3千162万6953ドルと、この日出場したメンバーで最も高額なサラリーを得ているのがリラードである。今シーズンの彼は、その価値が十分にある選手だと証明し続けている。