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防衛戦中止。「今、やるべきことやるだけ」世界チャンピオンの胸の内

林壮一ノンフィクションライター
撮影:山口裕朗

 5月9日に予定されていたWBAライトフライ級王者、京口紘人の3度目の防衛戦が中止となった。無論、新型コロナウイルスの影響だ。同級2位のアンディカ・ゴールデンボーイ(インドネシア)を相手に、京口の故郷である大阪で行われる筈であった。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 京口のトレーナーである井上孝志は語る。

 「世界中がこういう状況になっているので仕方ないのですが…残念ですね。京口にとっても私にとっても郷里でのファイトということで、心を躍らせていたので。

 アンディカ・ゴールデンボーイの戦績は17戦全勝( 8KO)。無敗。アグレッシブでパンチもある選手です。時折、スイッチするんですよ。何より、京口と噛み合うだろうなと感じていました。試合に向けて基礎をおさらいしておく時期が終わり、フィリピンあたりで海外キャンプを張ろうか、新型コロナウィルスの影響でそれが難しいなら、スパーリングパートナーをどうしようか、と話し合っていたところでキャンセルとなってしまいました」

 2018年大晦日にWBAライトフライ級タイトルを奪取し、2階級制覇を成し遂げた京口は、昨年6月に初防衛戦、10月に2度目の防衛戦を共に判定勝ちでクリアした。目下、14戦全勝9KO。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「初防衛戦のコンディションは良かったのですが、本人が言うように『しょっぱい試合』となってしまいました。ちょっとメンタルに問題があったようです。そこをトレーナーとして支えてやれなかったので、僕自身反省しましたね。昨年の10月にやった2度目の防衛戦では、死に物狂いで捨て身で向かってくる相手からダウンを奪っての勝利でしたから、一つステップアップできたと思っています。

 試合に向けて練習を重ねながらも、一度、二度、三度とそれをストップすれば緊張の糸が切れてしまいます。選手にとっては非常に酷ですよ。あらゆる競技で、トップ選手が急にダメになってしまうケースも出て来るでしょう。ただ、京口はデビュー以来、長い休みが取れていなかったので逆に良かったかな、と考えるようにしています。モチベーションは落ちていませんから、あまり心配もしていません。近い将来、WBC王者、寺地拳四朗との統一戦に勝つことを目標に、頑張っていきますよ!」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 京口本人も「出来ることを最大限にやる」日々を送っている。前回の試合で京口は、第9ラウンドに右アッパーから右フックの連打でダウンを奪った。その折、右の手応えを十二分に感じた。

 「2019年の2試合は、下馬評は高かったのに、内容がイマイチでした。初防衛戦は倒そう、倒そうと力んでしまった。2度目の防衛戦も及第点だとは思いますが、結構、被弾して相手の良さも出してしまいました。なので今回は内容も良く、そのうえでKOに拘る練習をしていた矢先なんです。正直、ゴールデンボーイは寺地拳四朗との統一戦の前哨戦だと思っていました」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「去年の8月くらいから、専属コーチの下でフィジカルトレーニングを取り入れています。10月の試合ではその成果を感じられる部分があったんです。ずっとそういったメニューをこなして来ましたから、5月9日のリングではもっと何かを出せるんじゃないかと思っていました。このところスパーリングなんかで、フィジカルトレーニングの効果を感じていたんですよね。ですから、本番のリングで成果を出したかった。その点は悔やまれます…。

 でも今、そのコーチの方に自宅に来て頂いてトレーニングを持続していますし、走り込みも質と量を増やしています。階段ダッシュとかね。シャドウも徹底的にやっていますし、次が統一戦でもいいくらいです」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「映像を見る時間が沢山ありますよね。最近は、井上尚弥選手やマイケル・カルバハルの闘いぶりを見ています。熱い闘いを目にすれば、嫌でもモチベーションが上がりますよ。また、SNSを利用して、ファンの方々と接していきたいな、と考えているんです」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「この状況下ですから、割り切って、やれることをやるしかありません。今がピークでブランク中に堕ちていく選手もいるでしょう。ボクシングに限らず、大打者がまったく打てなくなるかもしれません。僕はそうならないように、日々、きちんとトレーニングするだけですね。メンタルトレーニングもこなしていますよ」

 京口の言葉は意志の強さを感じさせた。

 今日、全てのアスリートにとってコンディションの維持が最大のテーマとなっている。確かに志が今後を左右しそうだ。京口が如何なる形で今を乗り越え、次のリングで何を見せるか? 楽しみである。 

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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